夢精8
「やぁ…。待っていたよ」
そこにはいかにも好好爺然とした老僧が一人。
「初めまして。私は泰声。そこに居る貴宋や夢範の師だ。疲れたろう、入った入った」
言われるがままに本堂に入り、腰掛けて出された茶を飲むとやっと一息ついた。
「松本です」
「私はミケです」
「やあやあ夢範から聞いてるよ。二人ともよく来たね。まあまずお風呂にでも入ってきなさい。貴宋」
「はい」
「二人の案内を」
「かしこまりました」
「じゃあお言葉に甘えて…」
ふう~、やっと一息ついた。良い湯だった。流石に風呂は別々だったけど、寺だししょうがないね。
「ひいくん似合ってるよ」
出された作務衣に着替えた姿を見てミケが答える。
「さあ、食事を用意しております」
貴宋にみちびかれて行くと、豪勢な精進料理が並んでいた。
「寺ゆえ、肉の類いは出せぬが、我慢してくれ」
「いえいえ…こんな豪勢な、有り難うございます泰声さん」
僕とミケは料理にむしゃぶりついた。
「それで夢範さんはどうなりましたか?」
食事を終えて、一番気にしていた事を尋ねた。
「少々痛め付けられたようじゃが…、心配はいらん」
「良かった…。」
「それより、あなたたちの後を追った新井という陰陽師はどうなったかご存知ありませんか?」
貴宋の問いにはミケが割り込んできて答える。
「ひいくんがやっつけちゃったよ、格好よかったんだから!」
「何…、現役の陰陽師を…」
泰声は真面目な顔をして何やら貴宋と頷きあっている。
「取り合えずもう寝なさい。明日行って貰いたい所がある」
用意された部屋に通され、ふかふかの布団に寝そべる。
「なあ、みっちゃん」
「なに?」
「泰声さんも良い人そうだし、僕たちこれから幸せに暮らせそうだね」
「そうね…」
「おっと、今晩は夢精は勘弁してくれよ」
「分かってるって!」
朝起きると、
「朝食の前に行って貰いたい所がある。二人ともついてきなさい」
僕たちは眠気眼をこすりながら泰声の言われるがままに山の中を歩いた。
「ここだ」
そこは岩壁に鉄の扉が付けられた、いかにも堅牢そうな蔵かなにかのようだった。
「入りなさい」
泰声が扉を開けると僕たちは中へ入った。
「真っ暗ね、ひいくん」
「そうだねぇ」
僕たちがしみじみ中を眺めていると、突如扉が閉まってしまった。
「な!開けてください!」
扉の向こうから泰声の声が聞こえてきた。
「すまぬな…。もしそなたらに資格が有るのなら出ることも出来よう…」
それきり声も何も聞こえなくなってしまった。