夢精6
「よお…」
新井…克明…。
「夢範の奴なら痛え目に逢って貰ったぜ」
こいつ…。
「地元の署からはだいぶ離れていませんか…?」
僕は震えを必死に抑えて答えた。
「あん?久々の獲物目の前にして、んな事言ってられるかよ」
今はもう朝で人影もちらほら見える。こんな状態で仕掛けてはこれまい。ミケの手を取って走り出した。
「おおっと!」
新井はそう言うと懐から札を取りだし、投げた。すると札は空中で何枚にも分裂して僕らを取り囲む。
「急々如律令!」
新井が唱えると札は一瞬にして消えた。変わらぬ景色が広がった。がしかしそこには人影は無い。
「俺たち以外と俺たちじゃあ互いに干渉し合わねえように結界を張った。これで群馬の連中にも気付かれねえだろうさ」
くそ…。
「おい坊主、その猫又を渡しな。そうすりゃてめえは見なかった事にしてやる」
ミケを渡せば…。
「ひいくん…。良いよ、逃げて。ちょっとでも一緒に居られて楽しかった」
ミケは震える声で言うと新井の方へ駆け出そうとした。こんな事良い筈が無い。ミケの手を取り抱き寄せた。俺も男だ!
「うるさい下種野郎!お前なんかにみっちゃんを渡すか!」
「ひいくん…」
「良い度胸じゃねえか…。てめえごと捕まえてやる。覚悟しな!」
そう言うと新井は次々火球を撃ってくる。僕は必死にミケを庇って駆け出した。
「ひいくん、火傷が!」
「大丈夫…。そうだ」
懐から不動明王の札を取り出す。真言は昨日の内に調べておいた。
「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ…」
長い…!
「不動明王の火呪法か。素人の術なんざたかが知れてる。打ってみろよ」
新井は嘲笑って大きく手を広げた。
「…センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン!」
途端に僕の頭上には太陽のような巨大な火球が表れた。
「あ…有り得ねえ…。素人の術でこんな」
新井の顔が一変する。今がチャンスだ!
「くらえ!」
「糞!防ぎきれねえ!」
火球が新井に直撃した。