夢精5
そのお師匠さんは赤城のお山に住んでいるらしい。特別な結界を張って山道を決まったルートを辿らなければいけないそうだ。その地図と、それから二枚の札を貰って駅へ向かい、電車に飛び乗った。すっかり夜になっていて、ぎりぎり終電だった。危ない、でもこれで前橋まで一本で行けるぞ。
「そのお札?何か書いてあるけどなんの文字なの?」
ミケが尋ねる。文字自体は僕にも読めない。
「これは梵字だよ。1枚は不動明王、もう1枚は摩利支天の名前が書いてあるらしい。これを握って真言を唱えれば素人でも述が使えるらしいよ」
「便利な物も有るのね」
そうこう言ってる内に前橋へついた。今晩の宿を…と言いたいが、明日の旅費を考えると金が無い。
「どうするの?」
野宿しか無いが、今は真夏だ。それにさっきのお札がある。
「摩利支天は身を隠してくれるそうだよ。真言はスマホで調べればすぐ出てくるだろうし、駅の待合室で一晩明かすんだな」
「オンアニチマリシエイソワカ!」
唱えるとお札が光輝き、そして途端に火がついて燃え尽きてしまった。使い捨てのようだ。
「何も変わってないよ?ひいくん」
「おかしいなぁ」
すると向こうから駅員がやって来た。
「ヤバイ、隠れて」
気付くのが一瞬遅れて目が合ってしまった。しかし…
「誰も居ないな。気のせいか」
駅員は呟いて帰った。どうやら札の効力は確からしい。
僕たちは二人ベンチに横になった。
「あのね、ひいくん。私うれしいんだ。こうやって現実で寄り添えて…」
相変わらず可愛い事を言ってくれる。
「じゃあ、お休み。みっちゃん」
「…」
翌朝起きると見事に夢精していた。
「ご、ごめんね!我慢出来なくて…」
まあ、いい。こんな事もあろうかと夢範から替えのパンツと赤ちゃんのお尻拭きを貰っておいた。
「ちょっと向こう向いてて」
流石に恥ずかしい。僕はパンツを脱ぎ、精子を拭き取ると着替えを済ませた。そしてそ知らぬ顔で汚れた物を駅のごみ箱へ捨てると二人で駅を出た。駅員が挨拶してくる。もう術は解けたようだ。
「あとはバスに乗って赤城山に向かうだけだね」
油断していた。
「よお!舐めたマネしてくれんじゃねえか!糞餓鬼!」