夢精4
群馬県警刑事部陰陽課、新井克明という男だと夢範は言った。陰陽課…、そんな組織が有ったのか。どうやら妖怪退治を生業としている所謂陰陽師という奴だ。
最近は悪事を働く妖怪の類いが少ないので功績が立てられず、飢えた狼、夢範談だが、のようになっているらしい。
「くせえ、くせえな…妖怪の臭いがする…」
「な、何の事だかさっぱり…」
「とぼけてんじゃねえ!分かってるんだぜ…。そこにあんのは除霊の用具だろ。何の理由が有るのかは知らねえが、犯罪者を匿うもんじゃないぜ。さっさと出しな!」
凄まじい剣幕で新井は言う。
「ここには何も居ませんって!」
「は!もういい臭いを辿りゃあ妖怪の居場所なんざあ察しがつくからな」
そう言うと新井は真っ直ぐ僕たちの居る奥の部屋の押し入れへ近付いてきた。
「ああ!」
夢範が悲鳴を上げる。新井は躊躇なく襖を開けた。
「やっぱり居るじゃねえか…。ひひ…」
気味の悪い笑い声を上げて僕たちを見下ろした。
そのまま僕たちは本堂の広間まで引っ張り出された。
「どういう事だか説明して貰おうか。夢範さんよ…」
「彼はその猫又の淫の魔力に惑わされているのです!その状態で無理矢理除霊すると彼にまで影響があります!一日掛けて説得するつもりだったのです!」
夢範は声を荒げて抗議した。さっきまでの態度を考えれば演技なのだろう。
「ふーん。…」
新井は僕の顔をまじまじと見詰めた。
「猫又なら…大方夢精が酷くてここへ来た、とかな」
どきり。として顔を背けた。これではそうだと言っているようなものだ。
「まだ1、2週間だから軽く考えてんだろ。数ヵ月もすれば死ぬぜ。…おい、夢範!今回はてめえの言を信じてやる。明日またくるから変な事は考えるんじゃねえぞ」
そういうと新井は寺を出ていった。
「夢範さん…俺…」
「何も言うんじゃありません。それより早くここを出なさい。私の師匠で霊術の達人が居ります。その人を頼りなさい」
夢範は淡々と続けた。
「あの新井克明という陰陽師は地元の署の所属…。一刻も早く彼女を連れて行きなさい!」