夢精12
「神山仙人…、誰…?」
「知らないのか!」
田中が怒鳴る。
「あのお方は浅間山に住んでいる、浅間といえば神の宿るといわれる霊山…。神の山に住んでいるから神山仙人。本当の名は誰も知らん」
「へぇ~」
変わったお人もいるもんだなぁ。
「神山仙人はそれこそ神のごとき術を操ると言われる…」
「ほ~、そこの若いの。わしのことを随分知っておるの~」
「当たり前です!私は…、私はずっと貴方にお会いしたかった。何度も何度も山へ足を運んだ。なのに!一度も会えなかった…」
「それはの、わしとお前さんに縁が無かったんじゃの」
神山仙人はあっさり言ってのけた。
「それよりの、わしが用があるのはお前さんの方じゃ」
「僕ですか…?」
神山仙人は僕の方へ向き直り、僕の頭へ手を置いた。その途端、僕の体の奥底からみるみる力が溢れてきた!
「なんだ…、これ…?」
「今お前さんの奥底に眠っていた力を引き出した」
その様子を見ていた田中はたまらず怒鳴った。
「なぜだ、仙人!その小僧は、恐ろしい男になるかも知れんのだぞ!」
「じゃがのう…、わしにはそのような未来は見えん。むしろ…」
神山仙人は改めて僕の方を向いた。
「君、道を違えるんじゃあないぞ。ではな、さらばじゃ~。ははは!」
そう言ったきり仙人の姿は見えなくなった。
「なぜ…なぜお前ばかり…!」
金縛りの解けた田中が怒りに体を震わせてこちらへ突進してきた。僕もたまらず応戦する。先程とはうってかわって田中を軽々と吹き飛ばしてしまった。
「すごい…」
「糞、糞糞糞!」
田中が再度突進してくる。しかしもうこちらのものだ。
「とどめだ!」
僕はありったけの力を火球にして放つ。火球は田中に直撃した。
「ぐあああ!…糞が!これで勝ったと思うなよ。今群馬県警最強の陰陽師斎藤さんがこっちへ向かってる!お前は斎藤さんに殺されるんだ!はははは!」
断末魔と共に田中の姿は消えた。気が付くと周りの景色は普段の高崎駅へ戻っていた。
「終わった…。いこうかみっちゃん」
僕はみっちゃんの手を取って電車に飛び乗った。