夢精10
「せんぱ~い、素人に負けたんですって?」
彼、木本はニヤニヤ顔で大怪我で寝ている新井をからかう。
「先輩安心してくださいよぉ~、仇は取ってきますってぇ」
「おい、分かっちゃいると思うが、一般人に危害を加えんじゃねえぞ!」
「分かってますってぇ、ひひ…」
そう言い残すと木本の姿は跡形も無く消えてしまった。
「くそ…」
「お前が新井先輩をやったんだって?なかなか旨そうじゃあん」
「…そうだ!僕は泰声師匠の弟子、陰陽師松本夢声だ!」
「じゃあ早速始めよっかぁ」
言うが早いか木本はいくつもの火球を飛ばしてきた。
「!…結界も張らず、一般人を巻き込むぞ」
「一般人?そんなの関係ねえなぁ」
くそ、なんて奴。これでも警察か!
僕は慌てて結界を辺りに張った。以前見た新井の術だ。
「ご苦労さん」
構わず火球を撃ってくる。
「これなら周りには…、しまった!」
結界を張るときに誤って迷い混ませてしまったようだ。小さな女の子が泣きながらふらふらと歩いくる。
「ラッキー!」
木本はあろうことか女の子を狙った。
「なんて事を…!」
僕は慌てて女の子を庇い、背中に直撃をうけた。
「やっと当たったなぁ、ひひ…」
この男…。
「くらえ!」
僕の方も火球を放って応酬した。しかし全く当たらない。
「遅い遅い。ほれ、また当てちゃうよ~」
木本は今度も女の子を狙った。僕は庇う。
「はは!てめえ馬鹿か!」
こいつ…二度も…。
怒りに震えながら僕は最大火力で火球を放った。
「当たるか…、何!さっきまでとスピードが段違い!ぎゃあああ!」
木本は火だるまになって転がった。
「お前にはそれがお似合いだ!」
木本を撃破した僕はミケを連れて前橋駅から故郷へ向かった。地元でのんびり暮らすんだ。邪魔する奴は返り討ちだ!
次はー高崎ー、高崎ー!
「高崎か…」
「あれ、おかしいよ、ひいくん。全然発車しない…」
ミケの言葉にはっとして電車を出た。これがいけなかった。
そこには誰もいない、後ろを振り返ると電車などどこにもなかった。
「これって…」
「ああ、結界だ!僕たちははめられたんだ!」
するとホームの向こうから壮年の男が歩いてきた。
「ようこそ、高崎へ…」