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【第一章】昴とスバル1

すいません、毎日投稿なんて大嘘つきました!

気づいたらブックマーク一杯ついていたのに、身の程知らずでごめんなさい!

―――バシャリ。


初めに感じたのは軽い衝撃。

しかし、一拍を置いて肌を突き刺す痛みに跳ね起きる。


「っく?!」


反射的に両手で身体を抱きしめ、生じた激痛に身悶える。

一番近いのは、かさぶたも出来ていない傷口を、不用意に湯船へ入れたときの感覚。

その何百倍もの"しみる"痛みが全身を襲う。


「……うぎっ」


しばらく地面を転げ回り、無理やり呼吸を安定させることでようやく痛みに慣れる。

そうして初めて、今の自分の身体が濡れていることに気づく。

どうやら最初に感じた衝撃は、水を被ったことによるものらしい。


「そろそろ休憩時間はおしまいですよ、スバル様?」


突然頭上から降ってきた声に、ようやくこの場に自分以外の誰かが居ることに気づく。

よろよろと顔をあげると、こちらを見下ろす男と目が合った。


(……え、誰?)


未だ霞がかったように頭ははっきりとしないが、まったく見覚えのない顔だ。

眼鏡をかけた黒髪オールバックのその男は、やれやれと言わんばかりに首を振り、


「減点1、ですね」


―――ドゴッ!!!


おもむろに俺の腹を蹴った。

蹴り上げられた身体は軽々宙に浮き、受け身も取れずに地面へと転がり落ちる。


(息が、できな……)


完全に無防備な状態で蹴りが入り、しばらく呼吸が出来なかった。

ヒューヒューと息を荒げる俺の方へ、男は静かに歩み寄る。


「やれやれ……。

気絶からのリカバリーさえまともに出来ないとは、的衛(まとえ)家次期当主が聞いて呆れますね」

「ぐぎっ」


おもむろに掴み上げられたのは、頭頂部近くの髪だった。

頭皮ごと引っこ抜けそうになりながら持ち上げられ、その男と至近距離で目を合わす。

俺に向ける男の目は、まるで道端に落ちているゴミを見ているように酷薄だった。

思わずゾクリと身を震わしそうになったが、他のことに気づいて驚く。

間近で見て初めて分かったことだが、


(こいつ、意外と若い……、っていうか完全に年下じゃないか?!)


老け顔だが、実年齢はせいぜい大学生くらい。下手したら高校生かもしれない。

今年で25歳になる昴にとって見れば、社会にも出てない青臭いガキにすぎない。

そんなガキに、何故か知らないが一方的にボコられている。

そう思うと、理不尽な現状に無性に腹が立ってきた。


「……ほう」


ギロリと殺意を込めて睨みつけると、ドS眼鏡が意外なものを見たかのように声をあげる。

その隙を狙い、死角になっている下方からアッパーカットを繰り出す。


「だが甘い」


しかしそれは片手で受け止められ、流れるように投げ飛ばされる。

今度は何とか受け身が間に合い、転がるように着地するとすぐに蹴りの追撃がきた。


「くっ!」


上下左右、避けても追いかけてくるような蹴りの連打に、辛うじて食い下がる俺。

これでも学生時代には名前をからかわれて幾度なく喧嘩をした経験がある。

しかし、その多少の経験則で見ても、目の前の格上相手に一発を入れるのは困難そうだった。

そもそもこの短い手足では、懐に飛び込まないとパンチすらまともに届かない。


(9歳のボクより"久住(くずみ)"の方が手足が長いんだから、それも当ぜ……?)


そこまで考えて自分の思考のおかしさに気づく。

短い手足? 9歳? ボク? 久住?

ノイズが混じるように、見たこともない誰かの思考と記憶が入り混じる。


「戦闘中に考え事とは、良いご身分ですね」


その内心の混乱に、久住(・・)が目敏く気づき、蹴撃が加速する。

怖い。痛い。もうやめたい。嫌だ。怖い。助けて。お父様……。

ノイズはどんどん大きくなる。

目から自然と涙がこぼれ、頬を伝って流れ落ちる。


(泣くな! ドS眼鏡の攻撃が見えなくなる!!!)


無意識に自分の内側へ怒鳴りつけると、泣き声のノイズが酷くなった。

辛うじてクリーンヒットがないのは、素早く鋭い連撃を余さず捉えるこの両目のおかげだ。

疲労が蓄積している身体の反応こそ鈍いが、目だけは冴えている。

きっと見るだけなら、久住の本気の一撃だろうと、この目が見失うことはないだろう。


(……あれ? 俺の目ってそんなハイスペックだったっけ……?)


デスクワークの連続で視力が低下し、半年くらい前に眼鏡を買い替えたはずなのに。

混乱が混乱を呼び、更にノイズの割合が増す。

頭の中で泣き声がする。

それは、俺の泣き声なのか? それとも他の誰かの泣き声なのか?

ああうるさい。

怖い。嫌だ。怖い。もう嫌だ。

ちょっと黙っててくれ。

嫌だ。痛い。怖い。怖い。怖い。


「はあ、なんて無様な……。減て―――」

「黙れっって言ってんだよ!!!」

「?!」


したり顔で告げようとする久住相手にブチキレる。

そして、驚きで僅かに甘くなった蹴りを目がけ、真っ向から右拳を叩きつけた。


「くっ」

「ぐあああっ!!!」


手首からゴキリと嫌な音を立てながら、しかし火事場の馬鹿力は一瞬の膠着を作る。

それを逃さず、キレて痛覚の鈍くなった身体へ鞭を打ち、懐へと飛び込む。

そして野獣のように振り被った左手の五指を、久住の顔へ―――。


「……っが」


だが、その一撃は届かなかった。

何故なら、俺よりも長い手を持つ久住の拳が、正確に俺の鳩尾に突き刺さっていたからだ。

最初に蹴られたとき以上に重い、恐らく手加減抜きの一撃。

俺は冗談のように一拍立ち尽くして、糸が切れたように地面へとくずおれた。

左手の指先に感じた、僅かばかりの硬い感触と共に。


(……ざまあ)


薄れゆく視界の隅に、地面に転がる眼鏡のフレームを捉え……、俺の意識は闇に沈んだ。

心を入れ替え、次話は何とかこの土日中に……。

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