ー幕1-
スズがクロに見つかり城に戻る頃には太陽は西に傾き高い家と家の間からこっそり見えるくらいにまで沈んでいた。
「まったく、なんで学習しないんだよお前は!!」
城内に響くクロの怒鳴り声。帰ってからというもの、ずっと同じ状況が続いている。
「だから、町の人達のことを知っておくのは必要なことだろ!?これは1つの社会勉強だ!!」
何度目か分からないほどの同じ台詞をお互いに言い合っている。
「ふぅ…もういい。そろそろ晩餐の準備をしなくちゃならない。俺は行くが、お前は俺が戻ってくるまで正座していろ!!」
「え、嫌に決まってんじゃん。それより、晩餐って誰か来るの?」
「嫌ってお前なぁ…もういいわ…。あぁ、言ってなかったな。今日王が隣国の王子と会うと言っていただろ?その時、どうやら王子のことを気に入ったらしくてな。今日の夜、一緒に食事を行うそうだ。
お前は1人で食事になるが、部屋まで食事持って来たほうがいいか?」
「いや、いい。いつもの所で食べる。」
「わかった。」
そういうとクロは部屋から出て行き、スズは残していた書類に目を通し始めた。
数時間後…。
ある程度書類の整理が終わる頃には太陽の姿はなく、かわりに無数の星が空に散りばり、大きな月が顔を覗かせていた。
時計を見ると午後8時をちょうど短針がさしていた。
「もうこんな時間か。クロがいつも呼びに来るが…あぁ、そういえば父様と隣国の王子で食事会してるんだったな。それの付き添いか。」
1人で自問自答しながらも部屋から出てダイニングルームへと向かうスズ。
ダイニングルームに入り席に着くと、入って来る際扉の側にいたメイドを呼び晩御飯を持ってくるように頼む。
そして、数分すると食事が運ばれてきて1人大きな部屋で食事を始める。
近くに母であるライトの写真を置いて。
それを眺めながら食事をすると、1人ではなく2人で食べているような気分になる。
それと同時にライトを失ったあの時のことを思い出してしまう。
いつも側にいてくれるクロも、今は父であるアルスの所にいるため側にいない。
久しぶりに1人きりで食べた晩御飯はいつも食べている物と一緒なのになぜか味がしなかった。