前世「私は、私を終えた。」
男女間の友情は成り立ちます。むしろ主人公は攻略対象達に異性として意識されていません。
カッコいいイケメンは基本メインで出ません。逆ハーレムを期待されている方、ごめんなさい。
私は普通の一般家庭で、普通に育った、本当に普通の娘だった。
両親と上から姉・兄・私の三人兄妹の五人家族で、夫婦仲、親子仲、兄妹仲、全てが良好の幸せな家庭だった。
家計は裕福ではないが貧乏でもなく、両親は私たち兄妹を、特に不自由な思いをさせることなく育ててくれた。
陽気な父さんに、おっとりとした母さん、面倒見の良いしっかり者のお姉ちゃんと、マイペースでちゃっかりしている兄さん。末っ子の私は家族皆から惜しみない愛をもらって育てられた。
私は平凡な人間で、特に秀でたところのない目立たない存在だった。
成績は悪くはなかったが、特別良いわけでもなく、テストの順位は、中の上と上の下をフラフラと行ったり来たりしていた。
運動は正直苦手で、体育の成績は微妙だったが、頑張ってはいますと言う授業態度で、ひどすぎる評価は受けなかった。
どちらかと言うと人見知りで、おとなしい性格なので、生活態度は悪くなかった。
問題を起こす心配のない、手のかからない生徒という事で、教師受けは良かった方だ。
ただ、おとなしくしていただけで、実際の人間性以上に真面目な人間と思われるのは、少し困った。
運動の苦手な私の趣味は、完全にインドアだ。
社交的ではなかったので、友達は多い方ではなかったが、友達がいなかったことはない。
友達は同じ趣味を持つ同類ばかりで、同性しかいなかった。
私は狭く深く付き合う方で、一生モノの親友たちもできた。
親友たちとは、小学校、中学校、高校と同じ学校で、家族と同じくらい大切な存在だ。
中学三年生の時、同じ高校に行こうと皆で励まし合って、受験を乗り越えた。
内気で人見知りな私は、絶対親友たちと高校生活を送りたかったので、死ぬ気で頑張った。
そのおかげで、親友たちと楽しい高校生活が送れた。
毎日が幸せだった。
辛い事もあったけど、私にはどんな時も家族と親友たちがいた。
悲しい時も、辛い時も、困った時も、手を差し伸べてくれる人たちがいる私は、本当に幸せ者だ。
高校三年生になって、ずっと一緒だった親友たちとも進路が分かれた。
淋しくはあったが、受け入れる事ができたのは、高校生活の中で、私も成長できたという事なのかもしれない。
一生モノの親友だから、進む道が分かれても、ずっと親友だ。
受験は努力の甲斐あって、第一志望の大学に合格できた。
支えてくれた家族に感謝し、家族もすごい喜んでくれた。
親友たちの受験も無事に終わり、あとは卒業するだけとなった。
皆で喜びを分かち合っている時、少し体調に違和感を感じた。
卒業式まで残り一か月と少しとなった頃、小さな違和感が日々大きくなりはじめた。
気になったので母さんと一緒に病院に行った。正直あまり深刻に考えてはいなかった。
ちょっと診察してもらうだけのつもりだったのに、色んな検査をすることになってビックリした。
数日後、検査結果が出たと連絡がきたので、また母さんと二人で病院に行った。
それでお医者さんから色んな説明を受けた。病名とかも言っていたが、説明も含めて難しくてよく分からなかったので、要点だけ理解した。
つまり私は不治の病で
今の医療では治すことは不可能で
私の命は永くないという事だった。
私はそのまま入院することになった。
卒業式まで残り一か月だった。
家族の泣きそうな顔を見て、私はお願いをした。
『私が生きている間は、泣かないでほしい。
たとえもうすぐ死ぬのだとしても、今この瞬間は生きているのだから。
最期の瞬間まで、皆と笑って生きたい』
家族は私のお願いを聞いてくれた。
泣くのを必死にこらえて、私の大好きな笑顔を見せてくれる。
毎日、笑顔で見舞いに来てくれ、入院前と変わらない態度で接してくれた。
親友たちにも同じお願いをしたら、受け入れてくれた。
その時の笑顔は、泣くのを無理にこらえているぎこちないものだったが、涙は流さないでくれた。
親友たちも、毎日お見舞いに来てくれる。
家族と他愛無い話をして、親友たちが漫画の新刊を持ってきてくれて、皆で笑って、面会時間が終わると、皆「また、明日」と言って帰っていく。
そんな特別な事も無い、見る人が見たら退屈だと思うだろう、とびきり幸せな日々を過ごす中、私の体は日に日に悪くなっていった。
それでも誰も泣かないでくれた。
卒業式まであと一日となった。
親友たちが明日、式が終わったらそのまま私の卒業証書を持ってくると言ってくれた。
嬉しかったから何度もお礼を言った。
親友たちが帰るのを笑顔で見送った後、母さんも良かったねと笑ってくれた。
その夜、私の容体は急変した。
駆け付けた家族に囲まれ、私は笑った。
家族も笑ってくれた。
私のお願いを、家族は叶えてくれた。
私は最期の瞬間まで、大好きな笑顔に囲まれて生きる事が出来た。
家族の笑顔を目に焼き付けて、私は闇に包まれた。
私のお願いをやり遂げ、この闇の向こうで泣いているであろう家族と、
明日、受け取る事の出来ない卒業証書を持ってきてくれる親友たちに別れを告げ、
私は、私を終えた。
見切り発車で突っ走り始めました。他の話と並行してのんびり更新していきたいと思います。