9話:死宣告
「お前なんて、必要ない。お前がいなくても幸せになれる。人の人生を操るやつなんて……。俺はたくさんの人を幸せにしたかっただけだ。それなのに、お前は裏切った。誰も幸せになれない道を選んだんだ。……もうお前は、……俺の前から、消え失せろッ!!」
真事実を知った俺は、刑務所の出口で、目の前で浮くリスの姿をした対神妖精に、そう言ってやった。それ以来、フェラリーは現れなくなった。10月になった今では、フェラリーのいない幸せな日が続いている。
「俊、こっち来てよー」
「こっちにも」
公園で呼びあう三人の少年少女に、これから襲う悲劇はまだ欠片も見えなかった。
「君が、第四実体侵攻装甲、奥死路 俊だな。我の名はリリス。第三実体侵攻装甲だ。対神妖精本部より、命令が下った。それを伝え、実行するために来た。~第76章82条より、奥死路 俊、第四実体侵攻装甲は、担当対神妖精の執務蜂起に担い、担当対神妖精と共に、機密保持を目的として、助けられた人間共々削除される~ しかし、我の心の広さに免じて、命令決行を明日に延ばす」
公園に静かに少年が入ってきて言った。いかにも冷静に、俊のとなりに瑠璃菜と茶梨が戻ってきても、顔の表情ひとつ変えずに言いのけた。俊も二人の少女たちも、目の前で言われた宣告に唖然とした。何もできない、俊は自分をそんな無力なものだと改めて実感した。
「明日の午後2時、我は、奥死路 俊の前に現れる。その時までに首を洗っておけ。我は、汚れたくない」
蒼髪不気味な少年は、言うことだけ言って帰っていった。というより、公園のど真ん中で一瞬にして消えた。少年が嘘をついていないと感じた俊は、瑠璃菜と茶梨の二人を帰らせた。そして、明日の2時前に今いるこの公園に集合しろと伝えた。自分が二人を助けられる自信はなかった。ただ、自分の知らないところで死んでほしくはなかった。
「私達は、助けられたの。いつ死んでもいいような状況の私達を助けてくれた。その時点で、私達は余分に生きたの。だから、もういつ死んでも仕方ないじゃない。もう充分幸せになった。……だから……、心配しないで」
急に現れた少年に言われた宣告を、俊のとなりで聞いていた二人は、帰る前にそう言った。自分より他人のために、みんながそんな非現実じみたことを言った。