7話:悲記憶
「小学生の時の俺はこんなだった……」
奥死路 俊は、話し始めた。秋も深まってきて、木の葉は皆カラフルに染まった。屋上からは、校庭でサッカーをする高校生たちが見える。俊と瑠璃菜と茶梨は、屋上の柵に寄り掛かって校庭に目を落とした。
「私も昔は、サッカーしたのよ」
「茶梨もした。……たぶん」
「たぶんって、お前らはのんきだな。あんな事実知ったのに……。俺は自分の実の両親がなぜあんなになっちゃったのか、気になるけど気にしない。そんなこと知ったからって、何も変わんないからな」
そう、あのあと俊は、親に見つかり警察を呼ばれた。親は俊のことを忘れているようだった。もちろん俊は、不法浸入の罪で捕まったが、虐待が発覚した親も捕まった。こうして、虐待されてた女子の成澤 茶梨は、親戚に引き取られ、俊は、虐待を発見したからと二日後に釈放された。
「それよりさ、中学の時の話もう一回してくれない? 聞き逃しちゃった」
瑠璃菜は、笑いながら片目をつむり、手を合わせて拝むかのように俊に頼んできた。茶梨は、しゃべらずに2回こくりとうなずいた。
「しゃーないな。これで最後だぞ。……
……俺が小学2年の時、俺は自分が幸せすぎると思ったことがあった。両親も妹も仲が良く、家族みんな楽しく毎日を過ごしていた。でも……、そんな幸せは長くは続かないもので、すぐに壊れた。ある日突然、両親と妹が姿を消した。テーブルの上には、あなたを養えなくなりました。と書かれた乱暴にちぎられた紙切れが一枚あっただけ。次の日には、親戚が預かりに来て、そして何人もの怖そうな男の人が来て家の中を荒らしていった。俺の人生は……、ここで終わった。学校も楽しくなく、毎日が憂鬱だった。でも、中学2年の時、ある女の子に出会った。女の子と言っても同学年だ。二学期の始業式に同じクラスに転校してきた。その子のお陰で、今の俺が出来上がった。でも、まだありがとうって言ってない。すぐにでも言いたいんだけど、中3の夏にどっかに引っ越しちまった。誰にも行き先を教えてなかったらしく、誰も行き先を知らなかった。先生は、プライバシーとか言って、結局教えてくれなかった。そんで今、俺は意味不明な能力を持った。……
……これでいいか? 今度はきちんと聞いただろうな」
長話をしてる間に、休み時間は終わってしまっていた。3人とも話に集中していたせいで、五時間目開始の鐘の音に気付かなかった。
「大変ッ!! もう授業始まってるッ!!」
瑠璃菜が腕時計を見た。同時に茶梨も同じ腕時計を見た。当然二人の頭がぶつかる。
「きゃぁッ!!」
「痛っ」
「何で私の腕時計見ようとすんのよッ!!」
「ここ、時計無いから」
二人が毎日必ずやる口論を始めたのを見ると、俊は諦めたかのようにため息をついて、帰ろうと後ろを向いた。
「おい……、お前ら……。そんなことしてる場合じゃないみたいだ……」
俊は、冷や汗をかいて震える声で二人に声をかけた。
「何よッ!!」
瑠璃菜と茶梨は振り返った。そして、驚きで口が閉じなくなった。
「お前ら。そこに座れッ!!」
先生だった。私立高校にもなるとうるさいもので、力の強そうな男の先生が5人、大きく股を開いて入口を塞いでいる。
「あの……、これには深いわけ訳がですね……」
「後でじっくり聞いてやる。会議室に連れて行けッ!!」
先生たちが腕をつかんできた。
「この変態ッ!!」
「最初に腕をつかまれるのは俊がよかったのに……」
瑠璃菜と茶梨が反抗する。普通の先生は、そんなの聞く耳を持たないのだが、
「私たちは変態でもなく、お前らみたいな小さいおなごに興味はない。良く覚えておくんだな」
生徒の呟きにきちんと受け答えする先生は、俊にとっては新鮮で、懐かしいものだった。
「きちんと反論するんだ、先生も」
俊は、少し笑顔になった。昔のように楽しい学校生活が始まりそうだったからだ。しかしそれは同時に、昔のあの悲しみを思い出させるものでもあった。