2話:魔方陣
「お前は、もう死んでいる」
「誰だッ!!」
「一度だけチャンスをやろう。時間を戻してやる。ルールは簡単や。自分の手の甲についた魔方陣の上で、指で星を書け。自分の寿命の1年分を使って1分だけ、時間を止めることができるわ。自分の未来は、自分で決めろ」
変な夢を見た少年は、ベッドの上で目を覚ました。目覚まし時計には、9月23日、AM8:05と表示されている。
「俺は、あの後死んだんだよな……。それなのに……、今は、俺の死ぬ1時間以上前。……夢、だったのかよ」
何者かに助けられたらしい。あれが夢じゃなかったら……。そう考えたら、怖くなってきた。また、引かれるのかも。そんな思いが頭をよぎる。でも、少年はパンを口にくわえ、買ったばかりの帽子を被って、走って家を出た。自分の手の甲についた魔方陣に気づいたのはその少し後のことだ。マジックかと思い、公園の水道の水をつけて擦ってみる。が、とれるはずはなかった。あの夢の通りなら……。少年は、自分の運命に逆らわない。そう決めて、前と同じ行動を繰り返した。
「今日、私、金忘れちゃったんだよねぇー。貸してくんない? まぁ、返せないけど。あんたは、行かなくたっていいよねぇー。私達が行ければ満足だもんねぇー」
不良の大きな声は、地下だからかもしれないがこっちまで響いてくる。追い詰められてる女子は、後退りして線路の方へ進んでいた。
「まもなく、1番線、2番線に千里東方行き電車が参ります」
アナウンスと共に、ベルの音がなった。
「同じ景色だ……」
追い詰められていた女子は、線路に落ちた。前と同じように、電車が迫ってくる。
「あの夢の通りなら……、この魔方陣に指で星を書けば、助けられる。でも、俺の寿命が1年短くなる……。助けなければ、俺はいつもの日常に戻れる……」
少年は、心に決めた。
「あの夢は、ただの夢かも知れない。……でも、目の前で誰かが死ぬのを、ただ見てるだけなんて、そんなこと…………。できるわけねぇーだろッ!!」
少年の指が左手の甲に触れる。少年は線路に飛び降りた。そして、指で左手の甲に星を書いて叫んだ。
「止まれぇーッ!!」
人も電車も、空気さえも動かなくなった。少年の視界の左上端には、残り0:55と書かれた数字が少しずつ少なくなっていた。
「残り時間か……」
少年は、何もない線路の上を横切った。そして、その女子を線路から抱えあげ、自分もホームの上に立ち上がった。誰も見ていないその世界で、少年は大声を出した。
「俺は目立つのは嫌いだが、今なら言える。ヒーロー様の名前、覚えとけッ!! 俺の名前は、奥死路 俊だッ!!」
俊は、生まれて初めてというくらいの大きな声で、自己紹介をした。