朝、起きてみて
歌が聞こえる。すでに聞き慣れてしまった歌。頭の中で響いている。精一杯歌うと、歌詞の通りに歌い続けるドールの歌。
ベッドから身を起こす。結局、昨夜ドールが戻ってくることはなかった。
普段より眠るのが遅かったせいか、少し頭がぼうっとする。でも起きなくては、仕込みが始まってしまう。
頭を振り眠気を無理やり追い払ってベッドから降りた。頭の中ではまだ歌がこだましている。ご丁寧にギターの旋律まで加えて。
それほどまで、自分は気にかけているのか。ドールをあの歌を。
立ち上がって両手をあげて伸びをした。だんだんと頭が覚めてきて、やっと気づいたことがあった。
窓際に立って、外を見下ろす。
店の二階が家族の居住スペースとなっている。自分の部屋の窓は、広場に面した位置にあった。ここからなら広場の大半を視界に収めることができた。
先には、泉の縁に腰掛けてギターをかき鳴らし、歌うドールがいた。
頭で聞こえていた歌は記憶によるものではなかったのだ。
何事もなかったかのように、いや、昨日の夜よりは元気になった歌声が、広場を満たしていた。
安堵の息をつく。いつ戻ってきて、そもそもなぜいなくなったのか、気になることは多いがとにかく、元気でよかった。
広場を眺める。朝も早い時間だけあって、人影はまばらだ。そんな中、歌の合間を縫って一人の女の子が駆け寄った。何かをドールに手渡して少し会話をすると、手を振ってその場を去っていった。手を振りかえしたドールは女の子から手渡されたものを口へ運んだ。どうやら食べ物をもらったようだった。
こんな時間を選んだのは、人目を気にしているからだろうか。それとも親に隠れて持ってきたからだろうか。それでも、ドールの歌が誰かに認められた証だ。
心に迫るとでも言おうか、あの歌、歌声には、そんな何かがあった。演奏も歌も上手くない。でもどうしてか惹きつけられる。
厨房に行こう。
店に出すものには手伝いしか出来ない身の上だが、パン作りに関わりたい、切にそう思った。




