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ココネのうた  作者: 筑波社
エピローグ
21/23

いつもうたの中に 2

 誘われるように路地に入ると、人の密度も増す。

 それでも人を掻き分けくぐり、何とか狭い路地を越えると、一気に視界がぱあっと開けた。

 はじけるように人々が飛び出していく先は、開けた広場だった。ここもかなり混雑していたが、それでも路地に比べたら何倍もましである。

 同時に、かすかに聞こえるだけだったあの歌が、はっきりと捉えられるようになっていた。否応なく耳朶に飛び込み、空気を吸うように染みていく。

 合唱だ。しかも歌われているそれは、ココネと毎夜一緒に歌っていたあの歌――

 円形の広場の中心。歌の聞こえて来る方を見た。

 そこでは通りを進む人とは別の人だかりができていた。集まる群衆の頭から生えるように、建国の王の銅像が立っている。

 おそらくあの辺りで合唱は行われているらしい。それなりに人数がいるだろう、かなりの声量だった。だから、少し離れた通りにもかすかに届いたのだろう。

 この歌を知っているのは自分とココネだけ。それが聞こえて来るということは、あの場にココネがいるだろう証明に他ならない。

 思わぬ形であの子の消息が掴めたことに驚き、そして心底ほっとした。

 元気でいてくれるどころか、合唱できるほどの仲間に出会い、街で歌いたいという自分の夢も先を越されていたらしい。

 合唱団とを隔てるこの歌を聞いているだろう聴衆。ここからでは中心がどうなっているのか全く見えなかった。

「すいません! すいません――」

 小さい隙間に身体を潜り込ませ、迷惑になることも構わずに奥へ奥へと突き進む。舌打ちや不満を口にする人もいる、しかし申し訳ないが構っていられなかった。

 ――ココネに会いたい。

 気はどんどん急くばかり。

 のろのろと避けていく人たちに理不尽ながら苛立ちを覚える。

「すいま――っとと……」

 間を抜けてさらに奥へ踏み出そうとして、唐突に人の抵抗を失い前のめりになり、体勢を立て直そうとたたらを踏んだ。

 先に人の壁はなく、どうやら人だかりを抜けたようだった。

 肩で息をして両手を膝に突く。

 期待を込めて顔を上げる。先は小さい段差が設けられていて、特別な足場で合唱が行われているようだった。

 歌っているのは男女混合の、十人ほどの団体だった。中にはギターを担いでいる人もいて、伴奏もとられている。


「ココネ?」

 目をしばたき、低い声を漏らした。

 その場に、人間よりも一回り以上小さい、華奢な目的の子が――いなかった。

 ココネに教えた歌。確かに曲調も間違いないはずなのに、どうしてかそこに最も必要な存在が欠けていた。

 ――ココネはそこに、いなかった。

 前触れもなく歌が止まった。自分が群集からまろび出てきたせいではない。

 そこは自分が病気で寝込むまでに出来ていた部分までで、だからこの先がないだけなのだ。そんなところまで記憶と合致しているのに。

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