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ココネのうた  作者: 筑波社
ある街で――
2/23

広場に現れた小さなコネコ 1 

 小麦粉、特に配合に気を使う。薄力粉、強力粉、丁寧に秤で確認して、頭の中にあるレシピと寸分違わぬ分量をボウルに入れる。さらに砂糖と塩をこれもしっかり計ってから入れ、最後に自家製の酵母を混ぜた。

 ここでいったん、ここまで入れた材料が万遍なく行き渡るようにスプーンでぐるぐるとかき混ぜる。ほどよく混ざると、ここでさらに植物性の油、そして人肌ほどのぬるま湯をボウルの壁面に沿ってすーっと流し込む。

 さらさらだった材料たちは最初は水分に抗うように弾き、玉のような粒を浮き上がらせていたが、すぐに堰を切ったように色が濃くなって、細かだった粒が結合されていく。

 ここで手をいれ、ぐっと押し込む。徐々に大きな一つの塊に変わっていく。手早く、でも丁寧にこねる。

 時には少し伸ばし平たくなったものを台に打ちつけながら、またつぶしてこねて、それを何度か繰り返した。それはさながら拷問のように、一つに固まったそれを痛めつける。

 そうしてしばらくこねられたそれは、両手でちょうど覆い隠せるほどの大きさの、パンのタネになった。

 一つ頷く。見事な球体にまとめられたタネは、つややかで満足のいく出来だ。これがパンの全ての良し悪しを決めるとまでは言わないが、そもそもの土台を作る工程だ。うまくいくに越したことはない。

 あとはこれを発酵させればタネの完成だ。

 ふう、と一息つき小麦粉にコーティングされた自分の手を、布きんで拭う。

 ふと聞き慣れない音が耳に届いてきた。 

 何の音だろう。耳に障る異音とでも言おうか、耳元で特大の羽虫が飛んでいるようなそんな感じだ。

 音は外から聞こえてくるようだった。厨房を出て店先に行く。

 夕方のピークが終わって売り物も全て完売し、カウンターで今日の売り上げを確認している父と目が合った。

 ちらりと外を視線で示すと、父はわからないと言いたげに軽く両腕を広げた。仕方なく音の元凶を確認するべく店を出た。

 店は街の広場に面していている。広場は円を描くように大きく形作られていて、街の中でも二番目に大きな広場だ。そして真ん中にこの辺りの豊かな水源を利用した人工的な泉がこれまた円形に設置されている。さらにその泉の中心には国の建国者である初代国王の銅像が、常人の二倍くらいの体躯で鎮座していた。

 音を発する元凶はすぐに見つかった。というのもちょうど店の正面の方向、泉の縁に腰掛けていたからだ。

「ギター、か?」

 音を発する者は弦楽器らしき物を抱えそれをかき鳴らしているようだった。

 ここから広場の中心まで三十メートルくらいはある。遠めで見る限りバイオリンに使うような弓を持ってるようには見えない。だとしたらギターくらいしか思いつかなかった。というか音楽には詳しくはないので弦楽器といえば、バイオリンかギターくらいしか選択肢がないだけではある。

 いろいろな人が行き交う大きな広場の、さらに中心である泉周辺。

 それは時期が時期なら大道芸人や吟遊詩人がその特技を競い、また協力しながら人を集め盛り上げ、生きていくため、また別の街へ旅していくための稼ぎを集める場だ。

 でも、ちょうど収穫祭も終わって、これからは身も凍える季節となる。演者たちはこの地に別れを告げ、広場もかなり静かになった頃だった。

 そんな時分だから、こうしてギターを鳴らすその姿は目立った。

 まして音を奏でるその者は――ドールだった。

 遠目からでもはっきりわかる、ぴんと立った両耳。子供のように小さなその身長。ギターが特別大きく見えないのは、特注品なのだろう。

 どちらにしてもドールがたった一人で、しかも日の暮れに、広場でギターをかき鳴らす光景は、奇妙なことだった。

「いったいどんな催し物なんだろうな」

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