込められた想い 3
そして、最後の答えは歌の中にある。そう確信した。
下手で、不器用なギターの演奏。舌足らずな歌声。しかしそれでも立ち止まって、聞き入る人がたくさんいる。昨日の父のパン、商品としての完成度はそれほど高くはなかった。それでも選ばれたのはその父のパン。ならば、両者に共通するものとはいったい何か。
ドールがギターを持って弦を鳴らす。雨に濡れた弦の震えは小さくなって、振動を吸収する。それでも構わず、大きく息を吸い、ドールは歌いだす。地面に着地する雨音がリズムとなってそれを後押しする。
初めて、真近で向き合い聴くことで気づく。
ドールはただ一生懸命に歌っているだけではない。見えない両目をしっかりと見開いて、必死さが窺えた。
黙って、静かに歌を聞く。雨が衣服に染み込むように、じわりじわりと心の奥底を温かな思いが侵食していく。
そうして歌が終わる。途中のような終わり方でとても完成しているとは思えない。それでも、不思議な充足感があった。
ふう、とドールが一息いた。
「どうして歌っているんだ?」
誰もが訊きたかっただろう一言。
奥さんの話を聞いて、ドールの歌を聴いて、そのわけを知りたいと思った。
ドールはぎゅっ、とギターを抱きしめる。
「――夢だから」
搾り出すようにドールは答えた。
夢――か。
それはもっともらしい理由だった。ただし歌うだけならすでに十分すぎるほど叶っていると言える。命を削るように、毎日一日中かけて歌い続ける必要はない。
ならばどうして――
言葉を継ぐ前にドールは言う。
「歌が元気にするって……」
「そうか……」
誰に、とは訊かなかった。
「きっと届いてる」
「うん!」
言葉を受けて、嬉しそうにドールはうなずいた。
広場を起点に人から人へ、歌は伝わっていく。いつか――ドールが元気にしたい相手にも届くはずだ。もしかしたらもう、届いているかもしれない。
断言しよう。歌を聴けば、誰だって元気になれる。
「またあとで、パン持ってくるよ」
自分にできることと言えば、それしかなかった。
「やった!」
元気にドールが、両手をあげた。




