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ココネのうた  作者: 筑波社
ある街で――
14/23

込められた想い 3

 そして、最後の答えは歌の中にある。そう確信した。

 下手で、不器用なギターの演奏。舌足らずな歌声。しかしそれでも立ち止まって、聞き入る人がたくさんいる。昨日の父のパン、商品としての完成度はそれほど高くはなかった。それでも選ばれたのはその父のパン。ならば、両者に共通するものとはいったい何か。

 ドールがギターを持って弦を鳴らす。雨に濡れた弦の震えは小さくなって、振動を吸収する。それでも構わず、大きく息を吸い、ドールは歌いだす。地面に着地する雨音がリズムとなってそれを後押しする。

 初めて、真近で向き合い聴くことで気づく。

 ドールはただ一生懸命に歌っているだけではない。見えない両目をしっかりと見開いて、必死さが窺えた。

 黙って、静かに歌を聞く。雨が衣服に染み込むように、じわりじわりと心の奥底を温かな思いが侵食していく。

 そうして歌が終わる。途中のような終わり方でとても完成しているとは思えない。それでも、不思議な充足感があった。

 ふう、とドールが一息いた。

「どうして歌っているんだ?」

 誰もが訊きたかっただろう一言。

 奥さんの話を聞いて、ドールの歌を聴いて、そのわけを知りたいと思った。

 ドールはぎゅっ、とギターを抱きしめる。

「――夢だから」

 搾り出すようにドールは答えた。

 夢――か。

 それはもっともらしい理由だった。ただし歌うだけならすでに十分すぎるほど叶っていると言える。命を削るように、毎日一日中かけて歌い続ける必要はない。

 ならばどうして――

 言葉を継ぐ前にドールは言う。

「歌が元気にするって……」

「そうか……」

 誰に、とは訊かなかった。

「きっと届いてる」

「うん!」

 言葉を受けて、嬉しそうにドールはうなずいた。

 広場を起点に人から人へ、歌は伝わっていく。いつか――ドールが元気にしたい相手にも届くはずだ。もしかしたらもう、届いているかもしれない。

 断言しよう。歌を聴けば、誰だって元気になれる。

「またあとで、パン持ってくるよ」

 自分にできることと言えば、それしかなかった。

「やった!」

 元気にドールが、両手をあげた。


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