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ココネのうた  作者: 筑波社
ある街で――
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12/23

込められた想い 1

 次の日は雨だった。

 初冬の曇天から降り注ぐ雨粒は冷たく、肌に刺すような痛みすら与える。

 人から外出する気力を奪い、結果として通行人が減り、そうなれば店に来る客は普段よりも少なくなる。

 さらにパンは湿気に弱く、そのため他の業種より大きい影響を受けるのだ。作るパンの数を抑え、それでも平常時より残ってるパンは多かった。

 要は、暇なのだ。

「もう閉めるかー」

 いつの間にか背後に立っていた父が提案した。まだ閉店まで時間はあるが、売り上げが見込めなければ閉めてしまうことはよくあった。

「わかった」

 言葉を返して、閉店を知らせる案内を掲げに店先に向かう。

「あら、今日はもうおしまい?」

 一人、お客がやってきた。

「ああいえ、どうぞ。いらっしゃいませ」

 快く迎え入れる。父に目配せをしようと振り返ると、すでにその姿はなかった。とりあえず自分は会計台に戻ることにする。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 と言ってトレイをとると店を周り始めた。

 近くに住む常連の奥さんである。外見は若く美人だが、これでも二児の母で、大工の強面の旦那を日々尻にひいているのだ。

「今日も頑張るわよね、雨なのに」

 パンを見繕いながら奥さんは言う。

 外を意識すれば聞こえる、雨のせいで掠れた歌。ドールのことだろう。

「そうですね」

 昨日のことを思い出し、少し憂鬱になる。あの後ドールの元へは行っていない。一方的に自分が癇癪を起こしただけなのでばつが悪かった。しかし、トレイは回収に行かなくてはいかない。

「でもあれよね、あの歌を聞かないと落ち着かないって言うのかしら、頭から離れないのよね」

 昨日も料理しながら、気づいたら歌ってたもの。と呟く。

 その気持ちは理解できた。ドールの歌は耳を越えて体の内側に響く感じがする。あの声を聞いていると、不思議とやる気が沸いてくる。

「今日も歌を聞きにここまで来たようなものだもの。で、ついで、に寄ったの」

 ついでの部分をこれでもかと強調して、いたずらっぽく奥さんが微笑んだ。こういう仕草をすると本当に母親とは思えない。

「ありがとうございます」

 努めて営業用の笑顔で返す。

「どうしてかしらね。あんなに必死で、誰のために歌っているのかしら」

「誰のため?」

 なぜはともかく、自分は歌を歌いたくてそうしているのだと思っていた。

「でも、やっぱり疲れてるのかしら、昨日よりは元気ないような気がするのよね」

 自分の問いには答えず、選び終えて奥さんは会計台にトレイを置いた。

「毎日ですからね――かなり疲労はしているでしょうね」

 厨房から出てきた父が会話に混ざってくる。閉めると決めて、厨房の片付けに行っていたのだろう。

「あれじゃあ、身体壊しちゃうわ、絶対」

 ここは二児の母の言葉だ。信憑性があった。

「そんなにつらそうでしたか?」

 夜に見た、地面に座り込みながらでも歌っているドールの姿が思い浮かぶ。

「うーん、今すぐってわけじゃないけど……」

 今すぐではないと言われ安堵する。商品を持ち帰りようの袋に入れ終わる。

「わざわざついで、に来てくれたんです、サービスしますよ」

 いつの間に何点かパンを持ってきた父がそれも袋の中に入れた。

「聞かれちゃってたみたい」

 てへ、と奥さんが舌を出す。

「店長ぅ、ありがとうございますー」

「いえいえ、いつもご贔屓にありがとうございます」

 とかく、父は美人に弱い。

「また来まーす」

 サービスをもらって気をよくし、足取りの軽い奥さんは手を振りながら店を出て行った。その先は冷たい雨の中なので、上機嫌も長続きしないかもしれない。

「よし、じゃあ今度こそ閉めるか」 

「はい」

 閉店を示す看板を提げに行く。

「あとよろしく!」

 父は全て店の後片付けを丸投げにして、さっさと二階に上がっていってしまった。いつものことだ。

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