コネコが選ぶただ一つのパン 3
「少し真面目に考えてみろ。それでお前なりに答えを出せ。それまで、俺は推薦状は出さん」
最後通達。マイスターの推薦状のない者は、コンクールに出場することすら適わない。
父を糾弾するはずが、思わぬ方向に話は転がってしまった。その勢いに気圧され、それ以上の言葉が出てくることはなかった。
居間を出て自分の部屋に戻る。ベッドに座り両手を突いた。
愛って何だ。パンへの愛情は強く持っている。それに関しては自信があった。それは父も承知の上だろう。
ならば足りないものはなんだ。
いや――思い出す。叫んで、パンをぶちまけて、そのまま逃げるように去っていったのは、どこの誰だったか。
窓に近寄り広場を確認する。
「あ……」
散らばったパンをドールが、膝をついて手探りでトレイの上に集めていた。細かく切り分けたので数がある。だがそのほとんどがトレイの上だった。あれからずっとああしていたのが目に浮かぶ。
それを遠巻きに見ていた男性が駆け寄って、残りのパンを集めた。ドールに一声かけて、離れていく。
ドールはトレイの元に戻って持ち上げ、縁に帰った。
土に汚れてしまったパンをどうするのかと思ったが、なんとそれをぽんぽんと軽く土を払うと、躊躇なく食べはじめた。みるみるうちにパンは減っていき、そうかからないうちに、食べきってしまった。
見るに耐えかえて、目を背けて、自分がした行いを後悔する。
ベッドに倒れた。
いろいろわからなくなってしまった。パンに対する愛も、父の求める愛も。父のパンを思い出す、プロとしての行い。
歌が聞こえる。お腹が満ちたせいか、この時間にしては、元気のこもった歌声だった。




