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サンタくんと一緒!  作者: 梅津 咲火
サンタくんとこれから
9/16

おしまい!   「やっぱり、サンタくんなんて――」

 一年後の伊月とサンタくん(三田純)の話です。

 明日番外編はのせますが、二人のシリーズの本編はこれで完結です。


 それでは、どうぞ!


 大晦日の次の日の夜。もうすぐ、新年2日目に切り替わる時刻。ごく一般の日本人だったら、今の時間帯、家でゆっくりしてると思う。

 テレビを見たり、家族・恋人なんていった親しい人との会話を楽しんでたり。もしかしたら、寝るのが早い人は、もう夢の中ってこともあるかも。


 —―それなのに。


「なんであたし、こんなところにいるの!?」

「近所迷惑だ。それに他の奴らに見つかる。静かにしろ」


 隣でサンタくんがなんかごちゃごちゃ言ってるけど、知らないもん!

 ちなみに、あたしとサンタくんは、人様のおうちの屋根の上にいる。命綱とかはなしだから、すっごく怖い。落ちたら、絶対骨折だよね。


 しかも。しかもあたし達二人とも、サンタ服で!

 あたしは胸元に三つのふわふわの白いポンポンの飾り、袖口とか裾にもふわふわがついてる赤い膝丈より短めのワンピース。おまけに、あの有名なサンタ帽もかぶってる。

 サンタくんは、去年も一度見た、赤白の見るからにそのままのサンタ服。帽子もしっかり被ってる。


 それはべつにいい。ううん、ホントは、よくないけど、このままじゃらちがあかないから、いいってことにしとく。


 問題は、長袖だし裏地がベルベットっぽいし若干厚地だけど、スカートだからすっごく寒いってこと!

 冬の夜中だし雪も降ってるくらいだから、この格好はものすっごく寒い!

 今更だけど、あたしなんでパンプスはいてきちゃったの!? 


「この格好、寒いんだよっ!?」

「ならガキらしく、長靴でも履いてくればよかっただろ」

「なんでっ!? なんで長靴っ? あとせめてブーツを提案してよっ」


 うう、口を開くと、言葉と一緒に体の熱が湯気として出そう。

 ズボンを着ているサンタくんは、全然寒そうじゃない。肩を必死に撫で擦っているあたしに比べて、ケロリとした表情でこっちを見ている。憎たらしいー!

 あの眼鏡のレンズに指紋をべたべた付けたいよ。だけど、今は寒すぎて動く気になれない。


「そっ、そもそも、この服渡されて急いで着替えろっていきなり言われたと思えば、すぐ連れてかれて、そんなこと思いつかないから!」 

「避難訓練の標語の、『おかしも』を掲げていないからだ」

「……なんだっけ、それ」


 うーん? 聞いたことが、あるようなないような。

 首を傾げると、サンタくんがあたしを残念なものを見る目で見てきた。失礼だよ!


「4月と9月の訓練のときに教わっただろう」

「あ、あはは……?」

「全く」


 むぅ! そんなこれ見よがしにおっきな溜め息つかなくていいのに!


「いいか。『押し出し、駆けだせ、シラを切れ、持ち出せ』だ」

「違う! 絶対違うよ、それ! 知らないあたしでもわかるよっ!?」


 自信満々に言ってるけど、内容は滅茶苦茶だよっ!

 それになんか一つ、相撲の技の名前だよね!?

 あたしの指摘に、サンタくんは自分の顎に手をあてつつ少し首を傾げた。


「ん? ……ああ、そうか、これはガサ入れの標語か」

「ガサ入れ!?」


 そんなの、どこから出てきたのっ? というか、ガサ入れの標語ってなに!? もしかしてサンタくん、手慣れてるっ?


「……ま、細かいことはいいか」

「細かくないと思うよっ?」


 さらっと流そうとしてる!?

 頷くだけで済む話題じゃないと思う!


「伊月、うるさい。はしゃぐのはわかるが、少し黙れ」

「むぅうううっ!」


 理不尽だよ! 元々変なこと言い出したのはサンタくんなのに!


「そもそも、なんで? なんとなく、初夢を配るのかなってことくらいはわかるけど」


 日付と、サンタくんの格好からしてそうだよね? コスプレって聞いて嫌がってたサンタくんが、理由もないのにその格好するわけないし。


「なんだ、わかってるじゃないか。そうだ、俺達はこれから、初夢を配るバイトだ。ここで待ってれば、そのうちトナカイ付きのそりが停まる」

「タクシー乗り場、みたいな?」

「似たようなものだな」


 ふぅん、そうなんだ。どうせ待つなら、地上がよかったけど。でも、それだと街灯もあるし、他の人に見つかっちゃうかもしれないか。


 あれ? でもそれじゃ、あたしを拉致してきた理由にならないよね。

 単純に、人手が足りなかったとか? それにしては強引だよね。でも、サンタくんのことだから、違和感ないかも。


「それで。結局、理由は?」

「理由、か」


 もしかして、言いたくないのかな?

 うーん、嫌がってるのにしつこく聞くのってよくないことだよね。あたしもされたくないもん。どうしよ、話題変えちゃう?


 でも、サンタくんは目をふよふよ泳がせてから、あたしと合わせた。

 もしかして、答えてくれるの?


「これは、わびだ」

「え、えええええ!? わ、わびっ? わびって、なにの?」


 そんな謝ってもらうようなこと、サンタくんしたっけ? って、初夢配るの手伝わせるのがわびって、おかしいよね?


 それに、サンタくんが謝るなんて、よっぽどのことだよね!?

 な、なんだか、怖くなってきた。なにされたのかな、あたし。まさか、記憶から抹消まっしょうしちゃうくらいのこと?


 ビクビクしてたら、サンタくんはバツが悪そうに顔をそらした。ほ、ホントになにかされたっけ、あたし!?


「クリスマス、過ごせなかっただろ」

「え?」


 わ、わびって、それ?


 サンタくんの言うように、あたしとサンタくんは去年のクリスマス、一緒に過ごせなかった。そもそも、会うこともできなかった。……サンタくんの、バイトの用事で。

 べつに、約束をしてたわけじゃない。でも、それでも、初めてできた、こ、こここ恋人!……だから、期待してた。


 だから、あたしはサンタくんから予定を聞いたときはすっごくヘコんだ。

 だって、まさか二日間とも埋まってるなんて普通思わないよねっ? サンタクロース(本物)のお手伝いのバイトだから、仕方ないことかもしれないけど!


 そのあと、一方的にメールとか電話とか避けちゃったけど、許容範囲だと思う。

 結果は、今みたいにサンタくんに急に拉致されてる状況だけど。おまけにこのコスプレみたいな格好で!

 でも、わびって。


「……気にしてたの?」


 てっきり、あたしばっかりふてくされてたんだと思ってた。

 じぃっとサンタくんの横顔を見ると、その耳はほんのちょっと赤くなってる。……寒さの、せいだけじゃないよね?


「当たり前だ。それとも、お前は気にしてなかったのか?」


 不満そうな声。

 あれれ、こんなサンタくん、すっごく貴重かも?

 それにしても、あたしが気にしてたの、サンタくんだってわかってると思ってたんだけど。


「してたよ。てっきり、サンタくんにバレてるって思ってたんだけど」

「一応、念の為に言っただけだ。あんなにわかりやすくメールも電話も無視されれば、どんな鈍いやつだって悟るだろ」

「うっ!」


 い、嫌味だ! たしかにあれからすっごくイライラして、サンタくんの連絡を避けまくったけど。


「そ、そんなに露骨だった?」

「ああ。それはそれはな。いい度胸だと、改めて感心したぞ」

「う、ううう! あたしが悪かったから、魔王モードで笑わないでよ!」


 ただでさえ今寒いのに! 悪寒だって走っちゃうから!


「なら、今日連れ出したのだって、わかるだろ?」

「???」


 ええ? どういうつながり?

 首を傾げてるあたしに、サンタくんは舌打ちを軽くした。チッって言った、チッって!

 ガラ悪いよ、サンタくん。


「やっぱりわざとだろ、それ」

「ええ!? なにがっ?」


 なんか、いつも言われてる気がするけど、ホントにわかんないんだもん!

 理不尽だよ!


「唇を尖らせるな」

「だってー」


 あたし、悪くないもん! それなのに、サンタくんが文句言うから。

 不満しかでないあたしの様子に、サンタくんはハァっておっきな溜息を出した。だから、さっきから失礼だよ!


「……一年だろ」

「一年って……あ」


 も、もしかして。


「あの日から……サンタくんと会ってからってこと?」

「そうだ。それ以外むしろ、なにがある」


 サンタくんに指摘されてから、初めて気がついた。そっか、もう一年になるんだ。

 って、サンタくん、わざわざそのために?

 もしかして、だけど。そうだったらいいなって、あたしの希望も、入ってるけど。


「……一年の記念日だから、一緒に過ごしたいって、思ったの?」

「伊月がそう思うのなら、そうなんじゃないか? 自意識過剰っぽい意見だけどな」

「もう!」


 相変わらずの暴言を吐いてるけど、サンタくんの顔の赤みが増してるような。あんまり明かりがないから、はっきりとは見えないけど。


 ホントにサンタくんって、あまのじゃくだよね!


 そういえば、思い返すと、去年の一年色んなこと、あったなぁ。

 いっぱい笑って、いっぱい怒って。

 ほとんど、サンタくんの暴言とオレ様発言に振り回されてただけかもしれないけど。


「……」

「なんだ? 考え事か? 珍しい。この様子じゃ、明日はこの雪はもっと激しくなるな」

「それ、どういう意味なの!?」


 あたしだって、たまには考えたくなることくらいあるもん!


 抗議を込めて睨んでも、サンタくんはそれを見てて笑うだけ。

 去年で、一番大きな出来事はやっぱり、サンタくんに出会ったことかも。


 最初の不法侵入してきた彼と口論したことから、今まで。一年間、あっという間だった。

 初めて会ったときは、サンタくんとこうなるって、思いもしなかった。


 ううん、あたしじゃなくても、想像つかないよね? だって、変態眼鏡サンタと、だよ?


 よく喧嘩……というより、サンタくんに一方的にからかわれたりすることって、たっくさんある。でも、あたしが困ってるときは助けてくれるし、悩んでるときは遠まわしにだけど心配してくれる。


「伊月の脳細胞じゃ、絶対答えなんて出ないぞ。諦めろ。それより、隣に天才の俺がいるから、凡才のお前の考え事を話せ。

 ま、せいぜい、『明日はモーモー印の牛乳か、モーモー印の濃厚牛乳、どっちを飲もう』くらいの悩みだろうがな」

「違うもん!」


 ほらね、今のだって、きっとそう。

 すっごく皮肉混じりだから、ムカムカするけど!


 そういうふうに言わなくてもいいのに! だから、いっつも素直になれなくて喧嘩しちゃうんだよ!

 サンタくんだって、ホントはわかってやってるのに違いないよね?

 だってそれであたしが怒ってるのに、ニヤニヤ楽しそうなんだもん!

 いつもいつも、言われっぱなしで、すっごく悔しい!


「ううーっ!」

「唸るな。チビをやめて、犬にでもなるのか?」

「なんで人間って(くく)りじゃなくて、チビってくくり前提なのっ?」


 やっぱり、絶対わざとだよ!

 あたしは、笑うサンタくんを見上げて、睨んだ。


「やっぱり、サンタくんなんて――」


 もうなにを言うつもりなのか、サンタくんには読めてるみたいで、相変わらずニヤニヤしてる。

 むぅー! なんか、いっつもあたしばっかりサンタくんにからかわれて、ホントに理不尽だよ!


 ……あ。いいこと、思いついた!


 その余裕でいっぱいの表情を変えたくて、あたしは言いかけた言葉を変えた。


「サンタくんなんて、大っっっっ好き!!」


 一瞬目を大きく開いて、あたしをじっと見てたかと思ったら、サンタくんはさっき以上にほっぺを緩くした。こういうのを、破顔っていうのかな。

 そんなサンタくんに、あたしも嬉しくなって、笑顔を返した。



 ***



 この一年、どんなことがあるのかな?

 嬉しいこと? 楽しいこと? でも、悲しいこともあったりするかも?

 

 ――でも、きっと、どんなときも。それは、サンタくんと一緒、だよね!



 いかがでしたか?

 これで二人のシリーズ本編は終了です。

 明日は小話を2話あげ、それで最後となります。

 今回も読んでくださり、ありがとうございました。


 ***


【補足】

 避難訓練の標語は、「押さない、駆けない、喋らない、戻らない」です。


 良い子もしくは良い大人の皆さんは、間違えないように、です。

ちなみに、ガサ入れの標語なんていうのはありませんよ。


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