そのさん! 「サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」
これでホワイトデー編は終了。
次の、1年後の二人の話で本編最後となります。
「で、だ。迷って決まらなかった俺は、結局チビに決めさせることにした」
「チビって言わないで! ……って、え?」
それって、あたしがリクエストしてもいいってこと?
なんだぁ、ビクビクしちゃった。そっか、あたしが決めていいんだ。
うーん。だったら、駅前のケーキ屋さんのシュークリームがいいかも。モーモー印の牛乳をいっぱい使ってる濃厚なカスタードクリームが、ぎっしり詰まってて、すっごくおいしんだよね!
「じゃあ、シュークリ――」
「しかしだ。突然言われても困るだろうと思った俺は、候補を絞ってきた」
今遮ったよね!? あたし、ほとんど言ってたよ!
文句を言いたいけど、サンタくんの目には有無を言わさない感じがしてる。
も、もしかして、ちょっと魔王モードのスイッチ入ってるの?
「どうだ、優しいだろ? さすが俺だな」
全然、ちっとも優しくないよ! 少なくとも、優しい人はこんなことしないからねっ!?
あたしが目で抗議しても、サンタくんは楽しそうに笑うだけ。さっきから笑ってるけど、なにがそんなにおかしいの!?
うう、逃げちゃダメかな?
一体、なにを言うつもりなの? さっきから、あたしの頭の中で警報がなってるんだけど。
「一つ。俺をもらう。二つ、伊月が俺のものになる。三つ、恋人という名誉をもらう。さぁ選べ」
「ホワイトデーなのに、あたしがサンタくんにあげるの!? そもそもあたしはものじゃないもん!」
そんなの、選択肢って言わないよ! というか、どういうことなの?
全部、なんか変だったような気がするよ?
???
首を傾げても、わかんない。あ、あたしがバカだからじゃないよ!
「わからないか? 俺と付き合え、そう言ってるんだ」
「え、えええええぇぇえええええっっっ?」
もしかして、まさか、だけど、ええ?
これって、告白!?
問題、『誰が、誰に?』。
答え、『サンタくんが、あたしに』。
って、ええええええええ?
もう、何がどうなってこうなったの!?
さっきまで、ホワイトデーのお返しの話だったよね?
サンタくんはマイペースに腕組んで堂々としてる。なんでそう、いつも通りなの!?
「で、どうなんだ?」
「え……ええええ!? ど、どうなんだって、言われても……」
そういうこと、よくわかんないよ。
付き合うって、どういうこと?
そもそも、あたしと、会ってまだ3ヶ月しか経ってないんだよ?
「……まだ、考えられないよ」
あたしは困っちゃって、俯いて地面をじっと見る。
サンタくんの目からだけでも、今は逃げたくて。
あいまいなこと言ってるって、自覚はあった。だけど、それ以外、なんて言ったらいいの?
わかんない。恋愛初心者でそういうこと、今まで全然関係なかったんだもん。
でも、サンタくんの雰囲気が、あたしの言葉を聞いて緩んだ。
……え?
パッといつの間にかあたしは顔を上げてた。
な、なんで、笑ってるの?
自然と視界に入ったサンタくんのほっぺは上がってた。
今のあたしの返事って、サンタくんにとっていいものじゃなかったと思うのに。
「なるほど、友達からならいい、と」
「な!? そういうことじゃないもん!」
「ならどういうことなんだ? 伊月は、『まだ考えられない』って言った。『まだ』なら、これからはあるってことだろ?」
「え、ええええええっ!?」
そうとっちゃうのっ? た、確かにあたし、そう言ったけど!
「……そうなれば話は早い」
「ま、待って。えっと、な、なにがなんだか、あたし、よくわかって――」
「待たない。いいか、俺の貴重でありがたい話をよく聞け」
こ、こんなときでも、自画自賛!? サンタくんらしいけど!
「伊月。いいから俺のものになれ。いくら考えても、お前のことだ。結局、いつまで経っても先延ばしするだけだろ」
「それは……」
「ない、なんて言い切れるか? どうなんだ?」
「う……」
ズズイと身を乗り出してこないでよ。焦っちゃうのに。
いや、むしろ、今もしかして急かされてる?
「保留は?」
「却下だ」
「だよねー……」
即答だったね、サンタくん。でも、らしいかも。待つなんて、サンタくんの柄じゃないか。
それなら、あたしが言えることはこれしかない。
視線を上げて、サンタくんと合わせた。こういうことって、ちゃんと目を見なきゃいけないことだよね。
「なるべく、ゆっくり……ね?」
サンタくんが聞く耳を持たないことを、あたしはよく知ってる。
それに、サンタくんは口がうまいから、これ以上あたしが何か言っても、それを全部やり込めちゃうはず。
だったら、せめて流されずに答えたかった。だって、プライドの高いサンタくんが、こんなこと冗談でも言わないことくらいわかってるから。
でも、すぐには彼の気持ちに答えられない。だから、あたしの気持ちが育つのを、待っててほしかった。
誰より、サンタくんと一緒にいるときが、いっちばんドキドキするのは嘘じゃない。
「……伊月、やっぱりわざとだろ」
「え、えええ? だから、いつも思うけど、サンタくんのわざとってなに?」
すっごいしかめっ面、さっきまでしてなかったよね。なんで?
「ったく。そう言われれば、俺だって我慢するしかないだろ……」
「???」
なんか、ブツブツ言ってる。やっぱり不満なのかな?
あたしにばっかり都合いいもんね。サンタくんは意見が通らないと気がすまないタイプだから、結構譲ったのにさらに言われてムカムカしてるのかも。
ま、魔王モードはヤダよぅ。
ビクビクしながらサンタくんの顔を、ソローっと覗き込もうとした。けど、その直前に顔を急に上げた。
ビ、ビックリした。サンタくんの頭にぶつかるかと思ったよ!
「……わかった。待ってる」
「なっ!」
わ、笑った。ううん、いつもニヤニヤって感じで笑ってるけど! そうじゃなくって!
なんか、今のはふわっとしてて、キラキラしてた。そんな爽やかなの、変態眼鏡サンタのサンタくんには似合ってな……くはないけど!
心臓に悪いよ! 一瞬呼吸止まったかと思ったもん!
口をパクパクするけど、何も出てこない。こんなとき、なに言えばいいのかな?
だけど、サンタくんはほんの少しだけ浮かべた笑顔を、見慣れたニヤニヤしてるものにした。
「そのかわりに、来年のバレンタインは予告通りに、お前のコレ、もらうからな」
「え、ええええ!?」
コレって、ま、まさか!?
サンタくんの指でも指されてるけど、ええっ?
彼の指の先にあるあたしの唇を、手でかばった。
やっぱり、サンタくんはサンタくんだ! 彼が何の見返りもなしに、妥協なんてするはずないのに!
忘れてたあたしのバカァ!
で、でも、今更無理なんて言えそうにないよ。むしろ言った瞬間にサンタくんのことだから、『恋人ならキスするのは当たり前だよな?』とかなんか言って、すぐされかねない。
も、もしかして、もしかしなくても、八方塞がり?
あたしが困ってる様子見て楽しそうに笑ってるなんて、サンタくんの意地悪!
でも、このまま何も言わないのも収まらなくて、あたしはサンタくんを睨んだ。
うう、もうほとんど、半泣きだよ!
「や、やっやややっぱり、サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」
ついに伊月、陥落です。サンタくんのゴリ押しでした。お返しは自分って、それ、なんてエロゲーですか?
けれど、「お友達から」という生殺しに。サンタくんに「プギャーm9」してやりましょう。
次の「サンタくんとこれから」で、このサンタくんシリーズ本編は一応完結となります。
もしよろしければ、最後まで二人の物語にお付き合いしてください!
読んでくださって、ありがとうございました。