そのいち! 「し、締められる!?」
ホワイトデー編です。
全部で3話ほどです。
今日は三学期の終業式。
登校してから体育館に移動して、そこで終業式があって、そのあとは担任の先生から通知簿と連絡事項を受け取るだけの日。
いつもだったら通信簿にビクビクだけど、二月の試験はすごく良い点が取れたから、今回はそんな心配はしてない。サンタくんとの勉強会のおかげ、なんだけど……なんでかな、素直に喜べない。きっと、間違うたびにネチネチイヤミを言われたせいかも。
『こんな問題もわからないなんて、寝てたのか?』
『やっぱり小さいのは、身長だけじゃなかったか』
なんて、次々色んなバリエーションの皮肉を言われちゃえば、誰だってそうなるよね?
……むぅ。思い出したら、ムカムカしてきた。
まぁ、サンタくんの暴言はおいといて。
「はぁ……」
体育館で校長のありがたーい(かもしれない)話を聞いて、教室に戻ったあたしは、自分の机に上半身をだらりとくっつけた。長いお話って、聞くだけでも疲れちゃうよ。まっすぐ立つのも、体力使うし。
「いーつき」
「あ、結美ちゃん」
伏せてた顔を上げると、いつの間にか結美ちゃん、奈々ちゃん、サキちゃんの三人が傍に立ってた。
「どうしたの?」
「春休みに、みんなで一緒に遊ばない?」
「遊ぶ遊ぶ!」
そっか、明日から春休みなんだ!
考えたら、ワクワクしてきた!
楽しみー! なにして遊ぼっかな!?
さっきまでの疲れが、あっという間に吹き飛んじゃう。そんな場合じゃないよね!
「どこ行く!?」
「えっとねー奈々、みんなでショッピング行きたい!」
「私も、春用のスカートと靴欲しいわ」
「伊月も奈々も、あんまりはしゃいで、風邪ひかないようにね?」
「「ひかないよ!」」
結美ちゃん達と遊ぶ予定を立てて、あたしはウキウキしてた。
そう、春休みに気取られてたあたしは、すっかり忘れちゃってたの。
――あの日が近づいてたってことに。
***
「おい、伊月」
ホームルーム後に、かけてきた声にあたしは振り向いた。
見ると、堂々と仁王立ちしてるサンタくんが廊下で待ち構えてた。
普通、他のクラスに顔を出すときは躊躇とかするものだけど、サンタくんにはそんな素振りは一切ない。でも、遠慮なんてサンタくんには似合わないし、想像がつかないかも。サンタくんの神経はきっと、ワイヤー製だよね。
じっと顔を眺めてると、サンタくんはクイッと親指だけ立てて握りこんだ手を動かした。
「ちょっと、顔貸せ」
「?」
なにかな? ……あ、ま、まさか!
「し、締められる!?」
「違う。何を勘違いしてるんだ。バカか、ああ、バカだったな」
「な、バ、バカじゃないもんっ!」
「ああ、はいはい」
「おざなり!?」
ちょっとした冗談のつもりだったのに! サンタくんのからかいに比べれば、可愛いものでしょ!
「むぅー!」
「フグになるな。ほら、さっさと行くぞ。ついでに、自分のカバン持ってこい。そのまま帰るぞ」
怒ってるのに、サンタくんはしれっとしてる。これ以上ブーブー言ってても、きっとサンタくんは動じない。むしろ、早くしろって不機嫌になるに決まってるから、あたしは渋々カバンを手に取った。
少しは謝ってくれてもいいのに。
それにしても、あたしが予定ないって、決めつけてる? もし、あたしが誰かと一緒に帰る約束してたら、どうしてたのかな?
……サンタくんのことだから、そんなことかまわないか。
あたしが近寄ると、サンタくんはそのままスタスタと歩き出した。
「行くぞ」
「あ、待ってよ!」
少しは振り向いてくれたっていいのに!
***