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サンタくんと一緒!  作者: 梅津 咲火
サンタくんとバレンタイン!
4/16

そのよん!   「やっぱり、サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」

 バレンタイン編はこれで終了です。




「……はぁ」


 とぼとぼと歩いていたあたしの口から、無意識にため息が出た。


 あの子の、ピンクのふわふわした、可愛いラッピングだったなぁ。

 あたしの用意したのは……こげ茶色の、手のひらサイズの四角形の箱。……地味、だったかな。


 きっと、彼女のチョコは、ラッピングと同じように、可愛くて女の子らしいもの、だよね。ハートの形のチョコに、文字とか飾り付けとか、しっかりしてあるような。


 サンタくんは、日頃からあたしに、『俺はモテるからな』と、冗談混じりにあたしに言ってた。彼から嘘を言われたことはない。だから、それは本当のことなのかもしれない。

 だとしたら、今日、サンタくんは、さっきの彼女からもらったようなチョコを、いっぱいもらったってこと?


 ……悔しい。すっごく悔しい。


 理由は、わかんない。だけどあたしは、それを悔しいって思ったし、悲しかった。

 急に、虚しくなっちゃった。昨日まで、頑張って用意してきたあたしのチョコが、ちっぽけに見えた。


 今から戻っても、サンタくんはいないかも。それになにより、あたしはどんな顔をしてサンタくんにこれを渡せばいいの?


 ……もういいや。渡すのは、諦めよう。明日、サンタくんから散々イヤミとか皮肉とか言われるけど、もういいや。忘れちゃったって、言えばいいよね。

 もともとは、サンタくんが図書室に来ないのが悪いんだよ。あたしは、ちゃんと準備してたのに。


 うん、なんか、ムカムカしてきた。


「……これ、どうしよ?」


 手元に残ったあたし作のチョコ。せっかく作ったんだし、なにより食べ物だから、捨てるのはちょっと、ね。

 もったいないし、食べよっかな。ちょっとお腹すいてたし。


 チョウチョ結びをしてた小麦色のリボンを解いて、箱を開ける。中には、小粒の茶色いトリュフがいくつか入ってる。

 一番上に乗ってたのを一つつまんで、口の中に放り込む。


「あむっ……」


 う……なにこれぇ。

 板チョコが溶けきってなくて、ダマになってるよぅ。これじゃ、チョコチップみたい。


 これは、むしろ、あげなくてよかったかも。サンタくんのことだから、絶対からかってきたよね。『俺ののどを詰まらせる気か?』とかなんとか言ってきそう。


 ……なかったことにしよっと。

 失敗作をパクパクと食べていって、あっという間に、中身が全部なくなった。


「にが……」


 うービターチョコで作ったから、すごく苦い。もっと甘いのが好きだから、ちょっとつらい。

 ……本当に渡さなくてよかったかも。だって、きっとサンタくんにあげたら、『他のやつのほうがうまかった』って言われたかも。

 そんなこと言われたくなかったし、やっぱりこれで、よかったはず。


 でも、なんでかな。ちょっとだけ悲しいような。


「ううー……」


 口の中が苦いよぅ。

 図書室に置いてるあたしの荷物の中にお茶があったはずだから、すぐに戻って飲もう。


 それで、今日はそのまま帰ろう。サンタくんに今は顔を合わせにくいし。

 ヨロヨロと歩いてると、後ろから足音が聞こえた。


「おい」

「? サ、サンタくん」


 な、なんで? なんでここにいるの? あの女の子は?

 サンタくんは不機嫌丸出しで、あたしを睨んできた。


「お前、どこ行ってたんだ。図書室にいないなんていい度胸だな?」

「それはこっちのセリフだよ!」


 もともと、サンタくんが来ないからあたし、探しに行ったんだけど!?

 サンタくんを見てると、さっきまでのイライラが復活した。


 睨み返してると、サンタくんが目を細めた。悪びれる様子なんてないし、サンタくんはべつに気にしてないみたい。


「……まあいい。もちろん、献上品はあるんだろうな? 伊月」

「……う。な、ないない、ないったらないもん!」

「ほう……?」

「うううう……! 怖いから魔王モードやめてぇ!」


 一瞬で不機嫌モードから魔王モードになったぁ!

 うう、何回見ても、サンタくんのこの表情と雰囲気は怖いよぅ。

 で、でもでも、ないものはないんだもん!


「わ、忘れちゃったの!」

「へぇ……」


 凄まないでよ! そんなことされたって、あたしはもう持ってないし。

 でも、サンタくんに知られるとまずいよね。ラッピングの箱、見えないように後ろに持とうっと。

 そろーっと静かに腕を動かしてっと。うん、これで大丈夫なはず!


 サンタくんを見ると、相変わらずの魔王モードだ。こんなの見たら、子どもが泣いちゃうよ。いつ解除されるのかな。


「お前、食ったろ?」


 なんで!? なんでバレてるの!?


 図星をさされて、あたしは思わずバッと目を逸した。

 あっ! や、やっちゃった。こんな反応したら、ますますサンタくんの思うツボだよ!


 でも、目も合わせたくない。あんまり黙っててもわかっちゃうから、なるべく普段通りの声を意識して出さなきゃ。


「な、なんのこと?」

「そうか。とぼけるか」


 ま、まだ、まだ大丈夫なはず!

 なんか、妙に確信してるけど、まだごまかせるよ、きっと!

 内心はおどおどしてるけど、表情には出さないように必死に我慢した。


 そんなあたしにサンタくんは一歩近づいてきた。そして、また一歩。


 ……な、なに?


 二歩も近づいたのに、サンタくんはまだ距離を詰めようとしてる。

 ち、近くない?


 慌てて、あたしはそのまま一歩下がった。だけど、それと同時にサンタくんのほうもこっちに来るから意味がない。

 それを何度か繰り返してるうちに、あたしの手に硬いのが触れた。


 これって、もしかして、壁!? お、追い詰められちゃった!?


 手に持ってるラッピングの箱のせいもあって、これ以上あたしは後ろにさがれない。なのに、サンタくんはまだ足を動かしてる。

 え、ええ、ちょっと、どこまで近くにくるの?


 サンタくんは、あたしとの間に定規が入るか入んないかくらいの距離を残して、やっと止まった。

 うん、絶対近いよ、これ!


「……」

「……」


 うう……至近距離の魔王モード、怖い。変な汗がだらだら流れちゃうよ。でもこれ以上さがれないし。だからといって、横からは逃げれなさそう。サンタくんの目、ドラマで見たお嫁さんをいびる姑みたいだからね!


 ライオンに狙われたら、こんな感じなのかな? すっごく獰猛な光がサンタくんの目にあるよ?

 もしかして、う、動いたら、食べられちゃう!?


 そのまましばらく、サンタくんとあたしは無言で睨み合ってた。

 先に動きを見せたのはサンタくんだった。というよりも、あたしは食べられるかと思って動けなかった。


 魔王モードだったサンタくんが、急にニヤリと笑った。いかにも悪だくみしてますって顔で。

 そ、その顔は!

 あたしは後ろに一歩さがろうとしたけど、背中には壁があって無理だった。グシャッって音がしたから、ラッピングの箱、潰れちゃったかも。


 この表情のサンタくんって、ろくなことないんだよね。ある意味、魔王モードよりもタチが悪いかも。

 ごくり。……な、なにを言われるのかな?


「!」


 封鎖された!? サンタくんの両方の腕が、あたしの顔の左右にあるんだけど。

 もしかして、これって、完全に逃げられなくなっちゃった?


 ど、どどどどどどどどどうしよう!?


 サンタくんはお構いなしに、さらにその無駄に整ってる顔を寄せてきた。だから! 近い、近いってば!

 抵抗しようとしても、腕で封じ込められてるから、あんまり動くことができない。できたとしても、せいぜい身動きする程度くらい。でも、何もしないよりはいいよねっ!?


 な、なんでっ? か、体が動かないよ!?


 うわ、うわうわわっ!? どうしよどうしよどうしよう!?

 というか、なんでまだ近づいてるの!? こ、このままじゃ……!


 唇の端ギリギリ。そこに柔らかさと湿った感触がした。


「???!!!!!?!?!!!?」


 口から声にならない悲鳴が出た。

 顔がものすごく熱いけど、当たり前。


 だって……だってこんなの、キスの一歩手前だよ!

 間近にあるサンタくんの顔を呆然と見ると、彼は不敵な微笑みをしてやったりというように浮かべてた。


「いっいいいいいま! な、なめ、舐めた!?」

「それが? チョコレートがそこにしか残ってなかったんだ。それは本来俺のものだから、別にいいだろ」


 どこか確信めいた口調で「食ったろ?」って聞いてきたのって。

 も、もしかして、あたしの口の端にチョコがついたままになってたの?


 だけど、それとこれは別! あたしの全身が震え始める。それが羞恥か怒りでかは、それどころじゃないからわかんない。だけどたぶん、どっちもだと思う。

 ああもう、どうしてこんなことするの!?


「セ……セク、セクハラだよ!」


 だけど、サンタくんはニヤニヤと底意地が悪く笑ってる。

 こ、この、セクハラサンタ! サンタくんなんて、変態眼鏡セクハラサンタだよ!


 なにがそんなに楽しいの!? あ、あたしは、怒ってるんだから!


「今回は勘弁してやる。けど来年はそうはいかないからな。お前がチョコを用意しないつもりなら、次はこれを食う」


 そして、親指でつっとあたしの下唇を撫でてきた。また触ってきた!


 ……って。『これ』って、え。えええええええ!!!???


 口がぽっかり開いちゃうけど、それをはしたないなんて思わない。だって、そのくらいびっくりしたんだもん!


 サンタくんが言ってることって、キスするぞってことだよね? き、聞き間違いじゃ、ないよね!?

 予想外過ぎて、目が回りそう。頭がグルグルする。


 なんでっ!? どうして!?

 ッハ! あ、もしかして、サンタくんの冗談なのかな? ちょっといつもと趣向を変えた、サンタジョークなのかも?


 そう考えたら、納得かも。そうだよ冗談だよ。サンタくんがそんなことするはずないし。

 多分チョコを渡さなかったから、その仕返しであんなこと言ったのかも。

 これ以上、からかわれたくない!


 笑って、サンタくんを見上げてみた。笑顔が引きつってるかもしれないけど、ここは頑張れ、あたし!


「そ、その冗談、面白くないよ?」

「冗談に見えるか?」

「!!!?」

「ま、確かめたいなら、来年も『忘れて』みたらどうだ?」


 ま、ままままま、まさか、まさかまさか! じょ、冗談じゃないの!?

 サンタくん、真剣な瞳してるし、本当に、冗談じゃないの? ……本当に?


 なんでそんなこと言うのかな? そんなにチョコくれなかったの、ムカついたの?

 きっかけはそれだと思うけど、そんな行動に出始めたのか、全然見当もつかないよ。


 何を言っていいのかわかんなくなって、あたしは目を泳がせるしかない。

 さっきから、戸惑うことばっかり。

 顔は熱いままで、このままじゃ湯気が出そう。この場合は、知恵熱じゃなくて、なに熱って言うのかな?


 関係ないことが浮かんできて、頭の中はぐちゃぐちゃ。それもこれも、ぜーんぶサンタくんのせい!

 ムッとするあたしを、サンタくんはクククと笑んでる。満足そうだけど、あたしはすごく不満だよ!


「一応言っておいてやる。ごちそうさま」

「ご!?」


 ごちそうさまじゃないよ!

 しかも、だからなんで、そんなに楽しそうなの!?

 本当にわけわかんない!


 今のサンタくんになにを言っても、もっと顔を熱くさせられそう。

 だから、あたしができることといえば。


「……ううううう! やっぱり、サンタくんなんて大っっっっ嫌い!!」



 エッロ! サンタくんエロ!

確かにこれは伊月の言うとおり、これはセクハラですね……。

 この変態眼鏡セクハラサンタめ!


 すべて勝手にサンタくんが動いた結果がこれだよ! おまわりさん、こいつです。

当初の予定では普通にチョコのドッチボールをさせるのみだったのですが。

 

 「サンタくんのうわさ」で完全に彼はドエス心が芽生えたみたいですね。

伊月ちゃん、ご愁傷様です。彼からは逃げきれないでしょう。


 この対である、「ホワイトデーもサンタくんと一緒!」をあげる予定です。

サンタくんの考えるお返しとは、一体なんでしょう?

 もしよければ、読んでみてください。では、お楽しみに~。



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