そのいち! 「なにが言いたいの!?」
どうもごきげんよう、梅津です。
この「サンタくんと一緒!」で、サンタくんシリーズは完結となります。
最後までお付き合いいただけたら、嬉しいです。
では、どうぞ!
白地に、線が同じ距離で引かれてるそれを、じーっと見る。
「うーん……」
首を傾げると、あたしの視界に映るものの角度が変わる。そして、逆方向に同じように首を動かす。
と、急に頭上に軽い音と同時に、衝撃を加えられた。
い、痛ぁい! ポコって音にしては、地味に痛いんだけど!
「寝るな」
「な……! 寝てないもん!」
「さっきからペンを動かさずに唸ってるだろうが。てっきり船でも漕いでるのかと思ったが、違うのか」
「ちっがーう! 頑張って考えてたの!」
「一文字も書いてないのにか?」
「う……こ、これからなの!」
「へぇー?」
嫌味を飛ばしてきた相手を、じろりと睨んだ。だけど、あたしの目を見てもその男は、目を細くしただけ。うー、あの目は、ぜぇったい馬鹿にして楽しんでる!
彼の手元には、丸められたノートが一冊あった。……たぶん、あれで叩いたみたい。
耳にかけた銀縁の眼鏡を片手で位置を直しながら、サンタくんは偉そうに鼻を鳴らして笑った。
何度聞いても、サンタくんのハッって笑いかたはイラっとするよ!
「お前、その台詞さっきも聞いた。いつになれば、伊月は進歩するんだ?」
「う……うううううう!」
く、悔しいー! 反論できない!
ギュッと睨む視線を強くしても、サンタくんは唇の端を軽く上げるだけ。言いすぎたとか、全く悪びれた様子はない。このドエス!
シャーペンを持つ右手に力を込めても、心のもやもやは薄れない。そうは思っても、あたしはサンタくんに対する怒りを、消すことはできなかった。
こんな状況じゃなかったら、言い返すのに!
あたしが、強く出れないのにはワケがある。そうじゃなきゃ、ここで引き下がるわけない!
「ほた、さっさとやれ。俺が貴重な時間を潰して勉強を見てやっているんだ。無駄にするな」
「ううー……」
そう、あたしはサンタくんに勉強を教えてもらってる。
2週間後に迫った期末試験に向けての、この二人だけの勉強会は始まってまだ数日だった。
きっかけは、サンタくんにあたしの成績状況がバレたこと。散々バカバカ言われるから、バカじゃないって言い返したあたしに、サンタくんが学年順位を問い詰められて、ついこぼした。
……だってサンタくんの魔王モードって怖いんだもん。
あたしの順位は、学年を上、中、下の三段階にわけると、下に入ってる。それを知られた後は、あっという間だった。誘導尋問のような会話が終わったときには、サンタくんに期末試験までの間に勉強を教わることになってた。……なんで?
それからは、放課後は図書室で二人で勉強をすることになってる。
あたしたちの高校の図書室は結構広い間取りで、自習するスペースもあるくらい。四人がけのテーブルが20くらいある。試験の1週間前くらいからは席に空きがなくなる。けど、今はまだ2週間あるから少しまだ余裕がある。
だから、サンタくんとあたしは、そのうちの一つを二人で使用してた。もちろん、図書室だし勉強中の人もいるから、会話は小声だけど。
向かい側に座るサンタくんを見ると、偉そうに腕を組んであたしを見下ろしてた。
「なんだ。なにか文句でもあるのか」
「……別に、ないもん」
そう答えて、ふいっと顔を逸らしておく。ふーんだ!
サンタくんは頭がいい。本人も頭がいいんだと言ってたけど、それを否定できないくらいには勉強ができる。聞けば、学年でも片手で足りる順位。
バイトをいくつも掛け持ちしてるのに、なんで成績がいいのか一度聞いてみたんだけど、ムカつく回答が返ってきた。
『は? あんなのは、ただの暗記だ。それに、授業中に寝なければ身につくだろ』
って! その暗記ができれば苦労しないから! それに、妙に正論なのがイラっとするよ。どうせ、あたしは時々寝てますよーだ。
だから実質、この勉強会は彼にとってはあまり得にならない。あたしが、サンタくんに教えられる科目なんてないし。一応気を遣って、初日にそのことを口にしたら、『別に最初から期待してない』って言われた。そんな風に言わなくてもいいよね!?
そもそも、どうして、こんなことになったのかな? サンタくんには、何もいいことなんてないはずなのに。
嫌味やからかいや皮肉は言うけど、サンタくんはあたしの勉強を見ることをやめようとしない。
ただの暇つぶしなのかな? でも、それにしては、手間がかかるよね。
勉強会が始まってから数日、あたしはたまに考えてみるけど理由とか原因はわかんなかった。
っと、そうじゃなくて、勉強勉強っと。
見てはいたけど、考えてはいなかった問題に、目を通す。今やってる科目は数学。
教科書の開いてるページには、いくつかの三角形と円が載っていて、長さや角度を求めるというもの。答えは出せるけど、その過程を言葉で説明しなきゃいけないのが面倒だし難しい。方式とか定理名とかまで覚えてなきゃいけないし。おまけに、読みやすく書かなきゃダメなのも、あたしがペンを止めてる原因の一つ。
むーここがここと同じ長さで、その間の角度も向かい合ってるから同じになってるから、この二つの三角形は、相同?
なんて、真面目に考えてたら、頭上から声が落ちてきた。
「そうだ。この勉強会の報酬について言っておく」
「……へ?」
報酬? ……ってなんのこと?
急に出た単語に、顔を上げた。サンタくんは、目を細めてあたしの顔を眺めている。この表情は、嫌な予感がするよ。
この表情のサンタくんって、ろくなこと言い出さないんだよね。
「なんだ? まさか、何も返さないつもりだったか? そんなわけないよな。そんな礼儀知らずなわけがないよな?」
ほら、やっぱり!
だけど、そう言われると何も言い返せない。だって、一方的に教わってるだけだし。
押しつけに近いとは言え、助かってるのも事実だし。このままだと、悪いかなってちょっぴり思ってたのもある。
だからって素直にほいほいサンタくんの言うことを聞くのも、嫌だったから睨んだ。
「な、なにが言いたいの!?」
サンタくんは、ニヤッと笑って要求を口にした。
「今は何月だ」
「……2月、だけど?」
なに、急に。カレンダー見てないのかな? そんなわけないよね。だって、期末試験のことは知ってたし。
期末試験は、2月の最後の週。それがわかってるはずなのに、そんなことをなんで聞いてきたの?
「今日は?」
「……10日」
日付の確認? それにしては、サンタくんの様子がおかしい、ような。あれ、サンタくんがおかしいのはいつものことだから、それじゃあ、いつも通り?
???
「……ここまで言ってまだ気づかないのか。さすがだな」
眉間に手をあてて俯いて、ボソボソ呟くサンタくん。
「怪しい人みたい」
あ、実際に怪しいか。
「……おい。何か失礼なこと考えてないか」
「そんなことないよ。サンタくんの気のせいだよ」
「棒読みで言うな」
しょうがないよ、だって実際気持ち込めてないから。
はぁーっと長い溜息を吐いた。む、なんでかな。馬鹿にされたような。
「4日後に、俺に献上品を寄こせ」
「献上品?」
しかも、なんで4日後に限定してるの?
あれ? ちょっと待って、なにかその日、あったような?
「あ」
ま、まさか!
バッとサンタくんを見ると、彼は魔王モードでもないのに、ひっじょーに不気味な笑顔を浮かべてた。
「け、献上品って……!」
「ようやく、その小さな脳味噌でも考えついたようだな。そうだ、チョコレートだ」
え、ええええ!?
あやうく大声を出しそうになっちゃったけど、ここが図書室だということを思い出して、慌てて口をふさぐ。
そうだよ、どうしてあたし、忘れてたのかな。もうすぐ、バレンタインの日だ!
つ、つまり、サンタくんは、あたしにバレンタインの日にチョコを渡すように要求してるの!?
びっくりして言葉が出ないあたしを、サンタくんは面白そうに眺めてる。
「わかったな、伊月」
有無を言わさないサンタくんの態度に、あたしは呆然とするしかなかった。
***
バレンタインイベントきたー!
って、先取りすぎますね。二ヶ月も先ですよ。
今回も読んでくださって、ありがとうございます。