第七十二話 二人の武人
初代皇帝が長安に都を築いて400年
彼がまだ小さな版図しか得ていなかったことから、この汜水関は存在していた
現在のような頑強な壁は後に増改築されたものではあるが、その当時から今に至るまで多くの強者達がこの壁に挑んだものの、ついには抜ける者はいなかった
天然の要害となってそびえる山脈に囲まれた、巨大な壁
そして、汜水関防衛における必勝の策
通常の城では考えられない、壁の外に兵士を配置するという戦法
単純な策であるがゆえに、覆すのも難しい
今回も、奇策や奇襲を用いかなりいい線まで連合軍は汜水関を攻略していた
しかし、後方のこーめーの虚兵は見破られ
大胆な奇襲を仕掛けたそんけん軍は囲まれ、命運尽きようとしており
第一陣は壊滅的被害を受けている
未だに第二陣以降は城壁の射程圏内にすら入っていないため、状況は振り出しに戻ろうとしていた
ように見えた
汜水関の士官達はそんけん軍の奇襲に気を取られすぎていた
この時点で、彼らの動きに気づいていたのは、城壁前の守備兵と一部の弓兵だけだった
両翼から攻め込むわずか2000の騎兵に
城壁の上の弓兵はまだ十分な数の兵が復帰していないことと、未だに第一陣が残っていたため、騎兵に対してはほとんど攻撃ができなかった
城壁前の守備兵の隊長は、第一陣に対応しているため、両翼からくる騎兵をまずは足止めしようと両翼を厚くすることで対応した
「かこうとん将軍! 敵が密集形態をとり始めました、我々の足を止めようとしているみたいですね」
一番先頭で矢を叩き落としながら進むかこうとんに、わずかに遅れて追従する副官が報告する
「かんう隊長! 敵がこっちに対応し始めましたぜ」
同じ頃、かんうの後ろでも、同じように報告がされていた
偶然であるのだろうが、この時二人の指揮官が言った発言は全く同じものであった
敵が集まろうが、固まろうが自分が先頭で切り開くから、ただ続けと
守備隊の隊長は決して油断していたわけではない
彼は5000の精鋭部隊を預かる、叩き上げの勇将である
ただ、想像できなかったのだ
まさか完全装備で十分な陣形を組んだ精鋭部隊を紙切れのように切り裂いてくる化物の存在に
左からかんうが、右からかこうとんが守備隊を切り捨てながら、中心に向かって進む
その彼らの部下たちは、二人の圧倒的な武の前にただ戦慄し立ちぼうけている敵兵を確実に屠っていく
そしてこの光景に、心が折られまともに軍隊としての機能を失いつつあった第一陣が再度息を吹き返した
そこから、守備隊長が打ち取られ、守備隊が壊滅するまでさほど時間は必要としなかった
汜水関防衛における要であった守備隊の壊滅
これにより、汜水関は一般的な防衛戦の基本である城壁の上から弓で攻撃するしか手がなくなってしまった
一見まだ優位に見えるかもしれないが、敵に城壁にとりつかれた以上、身を乗り出して防衛せねばならず、先程までのように安全に戦うことはできなくなった
ついにそうそうの第二陣、第三陣は汜水関の射程圏内に突入した
守備に重点をおいた第一陣に対し、第二陣は梯子や縄など攻城兵器を多く保有し、それに続く第三陣は射程の長い長弓を装備した部隊であった
城壁に取り付いた第二陣はそのまま城壁を登っていく
それに対して汜水関側も防戦するのだが、第三陣の援護射撃により思ったように抗戦できずにいた
この時点でかんうとかこうとんの部隊は少し離れた位置で指揮をしているそうそうの下まで戻っていた
騎兵である彼らには攻城戦は向いていないためである
「守備隊がやられたら随分あっけないものだな」
「それだけじゃねえよかこうとん、よく見てみろ」
「っ! あれは、そんけんの旗、あいつらまだ生き残っていたのか」
かこうとんは、そんけん軍はとっくに全滅していると考えていた
奇襲をかけた兵士は見た感じでは1000もいたかどうかという程であろう
最初こそ混乱に乗じ数と地の利を覆せるだろうが、奇襲を行ってからかなりの時間が経っている
とうたく軍の最精鋭はさっき自分が倒した守備隊だろうが、だからといって上にいる兵士が雑魚というわけではない
汜水関を任されているのだから、ちゃんと訓練を積んだ兵士であろう
いくらそんけん軍が優秀でも、多勢に無勢の状況で生き残るのは不可能なはずだ
「さすがはりゅうび様だ」
汜水関を見上げていたかんうがポツリとそんなことを言った
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