第七十一話 汜水関必防の策
中盤戦突入
時間はそんけんが船による奇襲を仕掛けた時よりも少し前に遡る
汜水関が予備兵力を投入したタイミングで、そうそうは前軍の残りの戦力である第二陣、第三陣を動かした
しかし、その動きは第一陣とは違い非常にゆっくりとしたものであった
「そうそうっ! なんで一気に攻めないんだ」
「まぁ、落ち着けかこうとん、これだけ状況が揃ってんだ、少しは働いてもらわんとな」
「?」
ズゴゴゴゴゴ
「何の音だ?」
突然の地響きのような音に、余裕の笑みを浮かべるそうそうを除いて全員が驚き歩みを止める
「ふっ、やっと動いたか、おいお前ら立ち止まってる暇はないぞ、全員進軍! かこうとん、かんう両名は作戦通り突撃だ!」
そうそうの声に、兵士たちが落ち着きを取り戻し、速度を上げる
その中で、かこうとん率いる部隊と、かんう率いる部隊が第一陣を左右に迂回するかたちでさらに前へ抜け出す
かこうとんはそうそう軍の精鋭1000騎を引き連れ第一陣右側を回り込むように進んでいた
ズゴゴゴゴという地鳴りのような音は、止むどころかさらに音を激しくさせていた
彼女が汜水関城壁の弓兵の射程圏内に突入するあたりでそれは起きた
ふと、何かの気配を感じ視線を左上に向けた瞬間、ズバァンという一際大きな音と共に、船が空を飛んでいた
かこうとんは一瞬、完全に意識を持っていかれそうになりながらも、なんとか自分を律し、突然現れた謎の船により敵の攻撃が緩んだことを察知し、さらに速度を上げた
これは第一陣の左側を駆け抜けるかんう達も同様であった
そんけんの奇襲により汜水関側の気がそれた
そして、今までほとんど前に進めていなかった第一陣はこれを好機と見て、一気に城壁前の守備兵に対して 突撃を敢行した
この行動には、今まで溜まっていた鬱憤もあったが、それ以上に後方の味方がやってきてくれたのが大きかった
一気に士気の上がった第一陣は自分たちよりも数が劣る守備隊に襲い掛かった
守備隊は、弓で応戦し、簡単な妨害の柵もあったがそれでも第一陣の接近を阻むことはできなかった
守備隊の指揮官は、城壁の異常にはすでに気づいており、実際に目に見えて上からの弓による援護が減っていた
そして、自分たちは5000、それに対する敵は手負いながらも2万以上
数の上では圧倒的な差であった
しかし、それを悲観するものは守備隊の中には誰ひとりとしていなかった
第一陣の指揮官は決して油断していたわけではない
陣形は乱れ、負傷者も多く、疲労も溜まっている
それでもなお4倍という兵力差と、すぐ後ろには味方の増援である
一気に打ち破れるとは思わなくとも十分に戦うことができると思っていた
だがそれはどれほど甘い考えだったのか、第一陣の先頭が汜水関の城壁前の守備隊とぶつかった瞬間思い知らされた
大きく陣形が崩れた第一陣は、突出したところから確実に削り取られ、わずか数合打ち合う間に一気に劣勢に立たされた
汜水関防衛戦における必勝の陣形
それは、弓による城壁からの援護射撃でもなく、二方面からの弓による攻撃でもなく、城壁前の守備隊の近接戦闘にこそその真価があった
圧倒的に優位な位置で、矢による怪我とここまでの突撃による疲労で万全とは言えない敵と戦えるのである
しかも、守備隊を任されているのはとうたく軍の精鋭と呼ばれる兵士たちである
4倍の兵力差とはいえ、敵は所詮烏合の衆
彼らの敵になるはずもなかった
そして、城兵の上でも、ある程度落ち着きを見せた兵士たちのうち、そんけん軍の攻撃にさらされなかった部隊は再び弓で攻撃し始めた
この為、第一陣はあっという間に壊滅寸前まで追い込まれた
そして、この様子を見ていたかゆうは改めて指示を出す
「城壁前の敵は、守備隊と左翼の弓兵で十分対応できる。残りは直ちに愚かにも少数で奇襲を仕掛けてきた敵を打ち倒せ」
「「「うおおお」」」
個人個人の実力では優っているものの、ただでさえ10分の1にも満たないそんけん軍は、奇襲時の優位がなくなるとじわじわと包囲され、押され始めた
各場所で戦うそんけんや四天王は善戦しているものの、十分な成果を上げれずにいた
「戦線を広げすぎるな、はぐれたら各個撃破されるぞ」
「そぼう様、こっちはもうもちそうにありません」
「なんとか耐えるんだ、すぐにそんけん様が敵の対象を討ち取ってきてくれる、それまで死守だ」
最も敵の攻撃を受ける位置にいたそぼうはかなりの苦戦を強いられていた
「……そぼうのとこが押され始めてるみたいだね、半分の兵士はそぼう隊の援護に向かってください」
ていふも、落ち着きを取り戻した敵に活路を見いだせずにいた
そして、そんけんとかんとうは大将と門という最重要ポイントを狙っているため、敵の激しい反抗を受けなかなか前に進めずにいた
この状況に、かゆうを始め汜水関の幕僚たちは油断していた
自分たちの必勝の策を覆す敵が迫っているというのにも関わらずに




