第七話 今夜の獲物は鶏肉団子
話は少し前に遡る
「それで、こーめーくんわたしは何をすればいいのかな? 」
「ちょうひさんには、あそこの山から、砦に向かって石を投げてほしいんです」
「わたしの石で砦を粉々にすればいいんだね」
ちょうひさんが笑顔でそう言ってくる
さっきの岩を吹っ飛ばすとこを見たせいで、できちゃうんじゃないかとも思ってしまうが、それでは目的を達成できない
今回は、相手の幹部の首とりゅうびは言っていたが、生け捕りの方が圧倒的に価値が高いだろう
なんせ、生きていれば、情報を聞き出すことも人質としても使える
ちょうひさんの方法では、相手を殺してしまうか、逃がしてしまう可能性の方が高い
何より戦闘は避けられないだろう
かんうさんやちょうひさんの強さは間違いないだろうが、戦いは避けたい
俺の覚悟が決まってないこともあるが、何よりただでさえ30人程度しかいない、現在のりゅうび軍から、死傷者を極力出したくない
今後りゅうびが出世していくにも、信頼できる部下は多いほうがいい
「ちょうひさんは、俺たちが砦に入ったあと、頃合を見計らって、砦を壊さない程度に石を投げまくってください」
「それだけでいいの」
「はい、それで砦から煙が上がったら、投げるのをやめて、この集合場所に先回りして、隠れていてください」
「うん、わかったよ」
「それで巫女様、儂らはどうしたらいいんですか? 」
山の神の怒りが相当怖かったのか、肉団子はりゅうびに対して先ほどの傲慢な態度とを打って変わって、すがるような態度になった
「まずは、すぐにでも祭壇の再建とお供え物を持っていくことです」
「ああ、すぐにでも兵を向かわせよう」
「それと、つくね様、あなたの避難です」
「下手に、外に出ては危ないのでは? 」
隊長がそんな疑問を口にしてくる
「いいえ、ここにいては格好の的です」
「しかし、山の神の怒りは巫女様が止めていただいたのでは?」
「私の祈りだけでは、ほんの一瞬だけ収めることができただけです、まもなく再開されてしまうでしょう」
「そんな、しかし、つくね様をお守りするのは我々の役目、ここの守備と、祭壇の建設で人手が不足している中で十分につくね様を守れるとは」
「ここに居ると、この砦ごと吹き飛ばされるかもしれませんよ」
そう俺が脅しをかけると、肉団子がひぃっと声を上げ怯え、それを見た隊長は困り顔になった
「大丈夫です、祭壇が再建されるまでの間はわらわたちもつくね様を守りましょう」
「鶏巾族のもの以外に頼るのは……」
隊長も誇りからか、なかなかに食い下がってくる
「わらわたちは、所属や思想は違えど、同じ神を崇める者同士、手を取り合いましょう」
「そうか、そうじゃな、儂らは、同じ鶏様を敬愛する者だ、おい、儂はこの者たちと避難をする。君にはここの守備を頼んだ、再建が終わったらすぐに戻ってくるし、儂の護衛もいるから安心じゃ」
自分が逃げたいことが見え見えな言い訳だが、上司の決定に隊長は渋々と従った
「それでは、わらわたちの結界にご案内いたしますゆえ、準備をお願いします」
「ああ、わかった」
そういい、ぶよぶよの体を引きずり肉団子は身支度を整え、二頭引きの馬車に乗った
その前と後ろを4人ずつ、計8人の護衛がついた
俺たちに付いてくる形で、肉団子の馬車は護衛とともにすぐ後ろを付いてきた
しばらく歩き、森の中を少し進んだところで、歩みを止めた
突然の停止に、肉団子は驚き馬車から顔を出し、何事だと叫ぶ
俺は肉団子の方に駆けていき
「すみませんつくね様、何やら巫女様からお話があるそうで、籠を馬車に近づけてもいいですか? 」
「そうか、何やら重大なお話のようじゃな、かまわん、巫女様をお呼びしろ」
俺が合図すると、かんうさんともう一人が、りゅうびの乗った籠を担いで、肉団子の馬車に近づく
籠が馬車に近づいたのを見計らって
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
突然俺は奇声を上げる
それに驚いた、護衛と肉団子は一瞬こっちに気を取られる
しかしその一瞬で十分だった
かんうさんは籠の支え棒の中から、愛刀である聖りゅうび偃月刀を抜き、その峰で前の護衛を叩き伏せる
反対側では、物陰に隠れていたちょうひさんによって、残りの4人の護衛がのびていた
「いったい、なにごとじゃ、お主ら一体……ぶひぃ」
驚きおののく肉団子に対して、りゅうびの鋭い手刀が突き刺さり、彼はドサりとそのばに崩れ落ちた
「うわぁぁぁ、りゅうちゃん、こーめーくんやったね」
「ああ、小僧、お主を少し見直したぞ」
「こーめーよくやったな」
皆から歓喜の声が上がり、俺に対しても喜びの言葉を投げかけてくれる
俺は、思わずその場で飛び上がりたくなてしまいそうな衝動を抑え、気持ちを落ち着かせる
「皆聞いてくれ、まだ作戦は終わってない、とりあえず、護衛たちはそこらへんの木に縛り上げて、バレる前に連合軍のところまで行こう」
俺の言葉に、りゅうびも浮かれるのをやめ全員の方を振り向いた
「うむ、こーめーの言うとおりだな。よし、全員こーめーの指示に従って、逃げるぞー」
「「「おうっ!!!」」」
一通りの作業を終え、移動を開始した
肉団子は、馬車の後ろに布に巻いて縛り付けておき、俺はその馬車の御者を任された
馬車の横を馬に乗ったかんうさんとちょうひさんが守り、ほかの連中は徒歩で前後を護衛する形で進むことになった
りゅうびは馬者の中でふんぞり返っていた
少し進んだところで、りゅうびが話しかけてきた
「なぁ、こーめー、すこしいいか? 」
「ああ、構わないぞ」
そうかと言って、りゅうびがちょこんと俺の隣に腰を下ろした
「今回の作戦だが、なんであたしにあんな格好をさせたのだ? 」
「なんだ、まだ根に持ってるのか」
りゅうびに鶏のコスプレをさせるときに少しもめた
まぁ、このなかで神秘的で美しい巫女役が出来るのはお前しかいない、とかいったら渋々ながら、承知してくれたが、やはりごまかしきれなかったか
「いや、それは違う。あたしは過去をうじうじという気はない。ただ、別にあんなことをしなくても騙せたのではないか、と思ってな」
「そうだな、小僧はなぜあんな回りくどい真似をしたんだ」
かんうさんも話題に混じってきた。どうやら、ちょうひさんも聞き耳をたたているようだ
「そうだな、まずは、前も言ったかもしれないけど、かんうさんの武器を隠すため」
実際戦闘になる可能性もあった。ちょうひさんの攻撃もあるだろうから、かんうさんの実力なら武器さえ運び込めれば、最悪強硬手段もいけただろう
「それと、鶏巾族はいわば宗教組織だろ、そういうとこの幹部をやるやつは、現実を見据えながらも、結構信心深いんだ。だから、巫女や鶏様など超常的な存在の方が信じられやすい」
大体、こういう組織で上にのし上がるやつは、うたがり深くあまりにも筋道が通っているような話の方が信じられにくい
「まぁ、後は巫女とか霊的な存在の方が攻撃されにくいかなと思ったからかな」
「なるほどな、中々筋も通っているな。これはいい拾い物をしたかもな。これからもよろしく頼むぞ」
そう言ってりゅうびが満面の笑みで手を差し出してきた
俺が、手を握り返さないでいると、りゅうびが首をかしげ
「なんだ、こーめー、握手は知らんのか?」
「い、いや、知っている、これからも、よろしく」
俺がたどたどしく言うと、りゅうびは再び首をかしげるのであった
まさか、顔を見とれてたなんて言えるわけがない
言ったら、間違いなくかんうと劉好団の会員連中に血祭りに挙げられるだろう
にしても、あの引き込まれそうな瞳で見つめてくるのは反則だ
これがりゅうびの力なのか
それから俺たちは、ほとんど休憩を取らず、北方方面の鶏巾族討伐連合軍本部のある街までやってきた