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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
4章 時代の幕開け
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第六十六話 そうそう軍の決戦前夜

 崖を越えてから二日後の朝、俺たちは汜水関の帝都側の門、つまり連合軍からすると敵の背面に回り込んだ位置まで到達することができた

 汜水関とはすでにその巨大な壁を肉眼で捉えられる程しか離れていない

 予定では既に連合軍本隊は汜水関に肉薄しているのであろう、敵も周辺調査に人を割く余裕がないのか、朝靄あさもやに紛れてここまでスムーズに来ることができた


「こーめーさん、言われたとおり例の準備は終わりました」


「ああ、ありがとう。後はあちらさんが動くのを待つだけだな」


「はっ」


 俺に報告しに来てくれた兵士は、俺に向かって敬礼をすると、来た道を音を立てないように引き返していった


 そういえば、最近俺にも直属の部下ができた

 しかも全員が、俺の部下になりたいとして志願してくれた連中だ

 まぁ、数はまだ30人程度だが、それでも自分を慕ってくれる人間がいるというのは嬉しいもんだ

 

 そして、今までは何をするにも直接自分で指示をしなければならなかった上、準備も基本は一人でした

 もちろん、ちょううんには色々と手伝ってもらったが、常に人材不足のりゅうび軍なので、彼女自身も稽古や訓練は欠かせないし、将としての仕事もあった

 ただ、俺が身の安全が保証される場所にいないとかたくなに離れてくれないので、将としての仕事のうち、俺がフォローできるものは手伝った

 というよりも、そうしないと睡眠時間削ってやりだすから、自分の仕事が増えても仕方なしにやった

 そのおかげで、デスクワークはりゅうびに、きもいって言われるくらい早くなったのは、僥倖だったと言えるのだろう

 

 しかし、部下が出来てからは格段と仕事がはかどるようになった

 まず、護衛としてついてきてくれること

 おかげで、ちょううんに外の仕事をさせることができるようになった

 

 そして、今のように戦争になった場合、伝令役や、俺の代役として指揮を採ることもしてくれるおかげで、頭の中のイメージを実現しやすくなった上、自分はよく見渡せる位置で全体調整ができるようになった


 一昨日の階段作戦も彼らの働きがなければ、あそこまで素早く全体に指示は出せなかっただろう

 

 睡眠時間を削って、彼らを教育したかいがあったってもんだ

 まぁ、途中で脱落者出まくりで、当初300人くらいいたのが、10分の1になったことは忘れよう

 今は、少数精鋭で十分だ

 後悔なんてしてない

 ちょっと目から汗が出てるだけだ、きっとそうだ



 なんでこんな回想みたいなこと考えてるかって?

 そりゃ簡単だ

 今の俺たちは、向こうが動くまでやることがないからだ


 奇襲戦は、相手の虚をつかないと効果が少ない

 はっきり言って、後ろからただ襲うだけでは馬鹿でも対策をしてることだろう

 なので、連合軍本体がある程度汜水関に対して揺さぶりをかけてくれないことには、俺たちは動きようがない

 今の俺たちの戦力では、まともに戦ったら敵の予備兵力で瞬殺されるだろう



 


 その頃、連合軍のきょうぼう・そうそう率いる前軍は、汜水関の全景を目で捉えられる位置にまで来ていた

 完全武装のかんうは、最前線のちょっとした高台に立ち、前日開かれたそうそう軍の作戦会議の内容を思い出していた




「なぁ、そうそう、なんで敵は汜水関の前にも兵をおいてるんだ?」


 赤い髪の少女が問う


「ああ、あれか、じゅんいく説明してやれ」


「はいはーい。あれはね、汜水関という地形を考えたら必勝の方法なんだよ。かこうとんが疑問に思ったとおり、防衛戦は普通城壁の外には兵を置かない。でも、汜水関に限って言えばそうじゃない」


「?」


 かこうとんは不思議そうに首をかしげる


「汜水関には両脇に山があるからだろう」


「へぇ、かんうさん冴えてるねえ、その通りだよ。汜水関は両脇に山があることで、側面からの攻撃を気にする必要がない反面、守備側も攻撃が一方向からしかできないという欠点がある。そこで、壁の前に簡易柵を用意して兵士を配備することで、上下二方向からの攻撃と、壁にとりつかれるまでの時間稼ぎを可能としたんだよ」


「でも、それじゃあ外にいる兵士は捨て駒になるんじゃ……」


「ああ、それは上にいる指揮官次第だけど、ぼくなら間違いなく捨て駒になんかさせないね」


「ほう」


 かんうは目を細めてじゅんいくを見る


「まず、敵の弓だけど、城壁から打つのと、平地から打つのでは圧倒的に高い城壁から打ったほうが有利だし飛距離もでる、だから城壁の兵士はひたすら弓兵の排除が仕事になる。それで、城壁の外の兵士は、敵が近づくまでは弓で応戦、近づいてきたらここまで走って傷ついて隊列の乱れた兵士を落ち着いて対処させる。もちろんここには守備兵の中で最強の精鋭を置く。今のうちで言うなら、かこうえんとかんうさんを左右にぼくなら配置するかな。上からかこうえんの弓が付けば10倍の兵力で攻められても守りきれる自信があるかな」


「へぇ、じゃあ敵の6倍程度のおれたちじゃああそこは絶対に落とせないってことか」


「ん~、まぁ普通に攻めたらね」


「ああ、なるほど、そのためにりゅうびとそんけんに奇襲をさせるんだな」


 かこうとんは合点が言ったように手を打つ


「それは違うよ。今回ぼくは彼らの奇襲に期待してない」


「なに」


「まぁまぁ、かんう落ち着けって」


 聖りゅうび偃月刀に手を伸ばしかけたかんうをそうそうが止める


「えっと、言い方が悪かったね。えーと、つまり奇襲を前提とした攻めはしないってこと、あくまでぼくたちは正面から本気で汜水関を落とすつもりで攻める。それに、かんうさんのところの軍師くんだってぼくのやろうとしている策を見抜いて、君を貸してくれたんだろうしね」


「そうか」


 そう言ってかんうは乗り出した身を元の位置に戻した


「にしても彼はすごいね、汜水関の守り方も、その守り方を崩す方法もしっかりと見抜いているなんて。実はさっき言った守りの必勝法にはひとつだけ重要な条件があるんだよね」


 そう言ってじゅんいくは今回の作戦の概要を説明した




「りゅうび様はご無事だろうか……くそっ、あの小僧りゅうび様になにかあったらただじゃ済まさんぞ」


 馬上でかんうはぶつぶつとこーめーの悪口を言っていた


「しかし、聞けば聞くほど軍師という連中は悪知恵が回るらしいな。まぁ、今回は精一杯暴れられそうだからよしとするか、それにあの赤髪の女に狩りも返さないとならんしな。りゅうび様、りゅうび様の一番の家臣であるこのかんうが、あなた様のために最高の武勲を勝ち取ってきます、どうかりゅうび様もご無事で」


 そう汜水関の向こうにいるであろう自分の主君に向かって呟くと、かんうは後ろに整列する自分の隊800人の姿を一度だけちらりと見て、突撃の合図を待った

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