第六十話 りゅうびがデレた
「こーめー、入るぞ」
作業が一段落して一息ついていると、後ろで天幕が開けられる音がした
一応は確認して入ってくるようになったが、声の主は相変わらず部屋の主の許可は聞かないようだ
はぁと俺は嘆息し、後ろを振り向く
「なぁりゅうび、毎回言ってると思うが、他人の部屋に入るときは相手の返事を待ってから入るのがマナーだぞ」
「大丈夫、こーめーのとこ以外ではそうしてる」
えっへんと、ない胸を反らして威張ってくる
「あのなぁ、俺のとこでも……」
「それよりもこーめー聞きたいことがある」
俺はさらに深いため息をつき、りゅうびに聞きたいことってと先を促す
「あのだな……」
思ったことはなんでもハキハキいうこいつにしては珍しく歯切れが悪い出だしだった
俺は、改めて真剣な表情を作り、その先の言葉を待った
「今回、あたし達は勝てるんだよな」
「お前がそんな弱気になるなんて珍しいな」
「うるさいっ! あたしは、あたしは心配なんだ。いつものお前ならもう策は出来たと抜かして調子づいていてもいいはずなのに、ここんところ夜は天幕にこもりっきりで、何をやってるかわからんし、ほとんど寝てないんだろう」
っ、バレないように夜遅い時間を選んで作業してたのに、なんで知ってんだ
ちょううんもちゃんと口止めしてたのに
「実際厳しいんだろ。あたし達以外の人間を借りなきゃならんほどに」
りゅうびが必死な顔で俺に詰め寄ってくる
しかし、俺は動じることなくりゅうびの言葉を切り返す
「かこうえんのことなら、本当に今回はたまたまなだけだ。あくまでかんうさんよりも都合がいいだけで、俺たちだけでも作戦遂行は可能だ」
「だがっ」
「心配すんなって。俺たちの旗印がそんな顔すんじゃねえって」
「本当か? お前はいつもそう言って自分を危険にさらすじゃないか」
りゅうびが今にも泣きそうな顔をしていた
俺はりゅうびの頭に手を置き、ニカッと笑ってから宣言する
「軍師こーめーに策ありだ」
俺が自信満々に言うと、りゅうびは少し安心したのか、俺の手を払い除け子供扱いするなと頬をふくらませた
その後は、いつものたわいもない話をりゅうびが満足するまで続けた
「少しは元気になったか? 」
「ふ、ふんっ、あんたに気を使われるまでもなくあたしは元気だ。そうだこーめー、お前はこれから無理して夜更かしするのは禁止だからな。命令だぞ」
「ふふっ」
「何を笑っている。約束破ったらかんうに色々バラシて、バラシてもらうからな」
「ああ、心配してくれてありがとな」
「んなっ、べっべつにあたしはお前のことなんて心配してないし、ただ軍師が戦の途中で倒れたら全員が困るから君主として必要なことを言ってるだけだ」
と顔を赤らめたりゅうびがまくし立てるように言う
ほんとに素直じゃないなぁ、こいつは
俺がそんなふうに思いながら苦笑してると
帰ると言って、りゅうびは出て行った
帰り際に、ちょううんにあんまり心配かけるなよと釘を刺さしてきたあたりが、本当にりゅうびらしかった
あいつはいつもいつも自分勝手にやってるくせに、心の底では仲間を大切に思ってるからな
ったく、それがわかっちまうから俺は帰る方法も探さずに、汜水関なんていう化物を何とかする策を考えなきゃいけなくなったんだ
ぶちぶちとこーめーは文句を言いながらも、顔は楽しそうに笑っているのであった
「ふう、今日はこれくらいにしておくか」
りゅうびが出て行ったあと、俺は再び自分の作業に集中し区切りが見えたので、一回手を休めた
「にしても、やっぱみんなには無理しているように見えんのかなぁ」
実際、ちょうひさんにはりゅうびが来る前にプロテイン入り豆乳とかもらったからなぁ
豆乳にプロテイン入れちゃってるあたりがちょうひさんらしいよな
あの人はあれ以上鍛えて何がしたいんだろうか
……ボディービルダーとか?
と、ちょうひさんの水着姿を想像したら顔が熱くなってきた
やっぱり、結構疲れてるんだな
一回外に頭を冷やしに行くか
俺は、机の上を整理すると服を一枚はおり外へ出た
初夏と言ってもいい時期だが、夜はまだ冷え込む
天幕の外には満天の星が広がっていた
相変わらず、元いた世界とは比べ物にならないほど綺麗だな
空気が澄んでいるんだろうな
しかし、やっぱりすごいな
星空から一転、視線を下げると、そこには一面光の粒がゆらゆらと揺れ動いていた
空の星に勝るとも劣らないおびただしい数の光の粒たちは、全てがそれぞれの陣に掲げられた篝火である
30万……口にするのはたやすいが、全て一人ひとりが生きている人間だと考えると途方もない数である
それが数日後、命をかけて戦い合うのだ
何度か戦を見てきて、実際参加してきたが未だに実感がわかない
自分とは関係ない世界での話にしか思えないところがやはりある
しかし、そのうちの3000人に関しては、俺の采配一つで生かすも殺すもできてしまう
いや、俺の作戦が失敗すればより多くの人間が死んでいくことになるだろう
「はぁ、本当に俺はとんでもない世界に来ちまったなぁ」
「ほう、まるで自分が違う世界から来たみたいな言い方だな」
突然かけられた声の方を振り向くと、そこには一人の男が立っていた
「そうそう……」
しまった、前回と合わせてちょうひさんだけセリフがない
超悲惨←(これが言いたかっただけです)
ここのところ、更新が滞ていますので、極力巻き返していきたいです
いつも私の作品を読んでいただいてありがとうございます
皆様の応援のおかげで、二ヶ月間60部も続けてくることができました
まだまだやりたいことが残っていますので、これからもなんちゃって三国志をよろしくお願いします




