第六話 敬礼は「コケェッ」
「お前たち、止まれ! ここは我ら鶏巾族の砦、用があるなら要件を申せ」
俺たちは、砦の門の10メートルほど前で見張り台の上で、雌鶏の被り物をした男に止められた
りゅうびの部下たちから聞いた情報のとおり、被り物で階級を分けているようだな
雌鶏の被り物をしているということは、そこそこの立場にいるやつか
まずは第一関門だな
「おお、やはりあなた方は、鶏巾族の方々でしたか。それでは、ぜひ我々を中に入れてもらえませんか? 」
「要件はなんだ? 怪しい奴を中に入れるわけには行かない」
こんな鶏の被り物をしている奴らに、怪しい奴と言われるのは非常にイラッとするが、俺は笑顔のまま言葉を続ける
「我々は、あの山の向こうの村に住む鶏の巫女様に仕える者だ」
「鶏の巫女だと」
兵士は怪訝そうな顔をする
しかしそんなことは気にせず、俺は一気に言葉をまくし立てる
「いいか、巫女様は日々鶏様からありがたいお告げを受けている、そして、今朝非常に重大なお告げが鶏様よりもたらされた」
「いったい、どんな内容だ? 」
「それは軽々と口にできるものではない、聞くところによると、本日こちらには鶏巾族の幹部の方がいらっしゃるらしいでないか、是非、お目通りを願う」
「し、しかし、そういわれても」
よし、主導権は握った
さすがに自分たちが崇める対象を持ち出されれば、無下にするわけにはいかないだろう
それに、こういう縦組織は突然の判断に弱い、基本的に上にお伺いを立てて動いているからな
もうひと押しだな
「それでは、仕方がない、我々はほかの幹部の方がいらっしゃるとこへ出向くまでだな。事は急を急ぐ事なのにな、これであれが起きてしまったら……おっと、これ以上言う必要はないな、それでは、お仕事中に邪魔をしてしまって、すまなかったな」
俺を皮切りに全員回れ右をして、元来た道を帰ろうとする
「お、おい、待ってくれ、わかった、つくね様にこの件を伺ってくるから、しばらくそこで待っていてくれ」
そして、しばらく待ったあと、門が開き、無事砦の中に入ることができた
とりあえず、ここまではうまくいったなと、心の中でニヤリとほくそ笑むのであった
砦に入ったあとすぐにボディチェックが行われた
かごの中にいるりゅうびに対しては、全員で巫女様に触れるなんて恐れ多いとのたまったおかげで、軽くチェックされるだけで済んだ
特に、その時のかんうさん達の演技は凄まじい気迫を感じた
というか、あれは素だろう
ほんとにりゅうびラブなんだなぁ
と、心の中でため息をつく
まぁ、そのおかげで籠への注意は反らせたようだけどな
そもそも、仮にりゅうびがチェックされても問題はなかった
ただ一点、武器を隠している籠を入念に調べられるとまずかった
そこで、あえてりゅうびに砦の兵士たちの意識が向かうように、巫女装束(まぁ、鶏のコスプレだが)を着せ、神聖な存在のような演出をしたんだ
ついでに、かんうさん達の想定外の迫真の演技も良かった
その後、俺たちは砦の中心部のレンガ造りの小屋の前に連れて行かれた
先導していた隊長が俺たちに、しばし待てと言って小屋の中に入っていった
数分後、隊長は一人の大柄な男を連れ立って戻ってきた
男は見れば見るほど凄まじい太り様であった
腹は出すぎて、ベルトの位置が全く分からず、顎は二重を通り越して巨大な襟巻きをつけているようだった
そして、頭の上にちょこんと雄鶏の被り物が乗っていた
「このお方が、鶏巾族ゆう州方面支部長のつくね様だ。つくね様、この者たちがつくね様にお話があるようで」
つくね様と言われた肉団子は俺たちの方に顔を向けた
ここからは、りゅうびの出番である
りゅうびは、もったえぶるようにゆっくりと籠から降りる
「鶏様からのお言葉を伝えよう、『山の神が怒り、この地を狙う』」
「それは、どう言う意味だ? 」
「お前たち、あそこの山に祭壇を建てていないな」
祭壇とは、鶏巾族が鶏様に感謝を捧げる場所である
この祭壇は、基本的に鶏巾族がいる周辺には必ず建てられている
一種の信者を増やすための広告塔みたいなものらしい
「お前たち、祭壇を立てなかったのか? 」
肉団子(つくね様)が隊長にゆっくりと、しかし威圧を感じさせる口調で聞く
「そんなはずはありません、あそこの山には……」
「その祭壇は、つい最近心無いものに壊されてしまったようだ、しかし山の神はそうとは思わなかったようだ」
「では修理部隊を近いうちに……」
「それでは遅いのだ!」
そうりゅうびが言い放つと、突然近くでどっかーんと爆発音がした
「何事だ!」
隊長が突然の事態に、部下に対して大声で聞く
その横で、肉団子がさっきの威厳はどこへやら、オロオロしていた
音のした方から、兵士が一人駆けてきた
「ほ、報告します! 突然何かが我が砦に向かって飛んできて、砦の一部を破砕しました」
「何かとは、なんだ? 」
「はっ、ただいま早急に調べておりますが、突然のことだったので目撃者もおらず……」
「そうか、ご苦労だった。コケェッ」
「コケェッ」
兵士は敬礼すると、持ち場へと走って戻っていった
「しかし、一体何事か」
「恐れていたことが起きてしまいました、今のが山の神の怒りです」
「なんだと? 」
「わ、儂らはどうすればいいんだ」
ドッカーン
「ひいっ」
バッカーン
「はう」
ドッバーン
「ぶひっ」
肉団子が衝撃が走るたびに気持ち悪い悲鳴を上げて、身を丸くする
「な、なんとかならんのか」
「すぐに、祭壇を修理しなければなりません」
「おい、お前たち、早く修理に行かんか」
肉団子が荒々しく叫ぶ
「しかしつくね様、今下手に外に出れば」
「ええい、うるさい、早く行かんか! 」
肉団子の無茶な注文に、兵士が困り果ててると
「わらわが何とかしてしんぜよう」
「何、巫女殿はなんとかできるのか」
「あたりまえだ、わらわは鶏の巫女、山の神を一時的になら鎮めることも可能だ」
「そうか、ぜひ頼む」
りゅうびは、肉団子の必死の懇願にうなづくと、俺たちに目配せをした
俺たちは、近場の木材を集め、りゅうびの前に積み、火をつける
そのあいだにも、謎の衝撃は何度も砦を襲った
火がつき、煙が上がりりゅうびがぶつぶつと呪文を唱える
そうすると、今まで定期的に来ていた衝撃がピタッと止まった
その様子を見ていた、砦の連中から、おお、と感嘆の声が漏れた