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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
4章 時代の幕開け
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第五十九話 東の玄関汜水関

「こーめー様、こーめー様っ」


 隊列を組み、全員が移動を開始したタイミングを見計らってちょううんが俺に声をかけてきた

 ちなみに、今回の作戦中もちょううんは俺の護衛だ

 本当は人材の少ないりゅうび軍としては、彼女に将として兵たちを率いて欲しいんだが、りゅうびの悪評事件以来できる限り俺のそばを離れようとしない

 

「ん、どうしたちょううん?」


「これから向かう汜水関ってどんなところなんですか?」


「そうだなぁ、俺も実際に見たわけじゃないから、聞いた話や資料からわかった範囲でいいか?」


「はい、これから戦いに行く場所の情報は少しでも多く知っていた方がいいとこーめー様に教えていただきましたから」


「そうかそうか、ちょううんは偉いな」


 ナデナデ


「はわぁ」


 俺がちょううんをなでてやると、彼女は幸せそうな笑みを浮かべた

 にしても、本当に真面目な娘だな 


 軍師にとって情報は何より大切なものだ、ほんの些細な見逃しでもそれが積み重なると必勝の策でも覆されることがある

 そしてそれは将にも言えることで、ただ戦いに強いだけでは、その場で勝てても結果として敗北することもある

 将棋で言うなら、いくら飛車や角などの大駒を持っていても、しっかりと戦略を立てて運用しなければ、歩のように弱い駒に王が追い詰められてしまうこともある

 だからこそ、俺は初めに情報の大切さをちょううんに教えた


「おっと、汜水関の話だったな」


 俺が撫でる手を止めると、ちょううんは名残惜しそうな顔をしたが、一瞬で真面目な表情を作る


「汜水関は前にも言ったが、皇帝の住む都である長安を守る関所の一つだ

 東側の街道には、もちろんいくつも関所があるが、この汜水関ともう一つの虎牢関は他とは別格の関所らしい

 

 汜水関は長安を守るようにぐるりと囲む山々をくりぬいて作られ、入口と出口をそれぞれ巨大な壁によって守られている関所というよりは、要塞と言い換えたほうがいいような代物らしい


 しかも、周りの山々は木を伐採され崖のように手を加えられ、大軍は迂回路をとることができないようになっている

 そして、汜水関にはおよそ5万の兵を駐留させるだけの施設が備わっているそうだ」


「すごいところなんですね」


「ああ、だからこれだけの大軍を用意したんだろう」


 だが改めて考えると、とうたく側には相当頭が回る奴がいるんだろうな

 今回とうたくがやったことは、皇帝に対する反逆行為とも言えなくもない

 それこそ、周りの諸侯が一斉に反対すれば、とうたくが都を抑えていても権力を手中に収めるのは難しかっただろう

 

 しかし、汜水関と虎牢関を抑えられたら話は別だ

 長安に敵を寄せ付けないで時間を稼げば、とうたくになびく諸侯も現れるだろうし、敵対する人物には皇帝から勅命を出させ、力をじわじわと削っていけばいい

 都の西側の大きな部分は既にとうたくが抑えているので、連合軍を組む前に各個撃破してしまえば済む話だ

 これを狙っていたのであれば、何十年も前から着々と準備をしていたのだろう 


 そして、このとうたくの現状を覆すには、東側からなんとかとうたくを討ち取りに行くしかない

 つまり、俺たち反とうたく連合軍がとうたくの横暴を止める最後の手段であるといえるのだ

 もちろん、とうたく側の内部を争わせたり、とうたく自身を暗殺するなど手がないわけではないが、これほどの大掛かりな計画を練る事ができる人間がそんな下策に引っ掛かるとは思えない

 

「こーめー様。……この戦勝てると思いますか?」


 ちょううんは不安そうな顔で、俺の顔色を伺うように訪ねてくる

 俺今難しそうな顔してたかな

 そう思った俺は、改めて笑顔を作り


「ああ、もちろん。今まで俺達が負けたことがあるか?」


 そう力強く言ってやると、ちょううんも笑顔になり頷いてくれた


 だが、正直今回はかなりきつい戦いになるだろう

 しかし、俺が弱気になっていれば他の連中も自信を失ってしまうだろう

 少なくとも外にいるうちは動じないようにしておかないとな



 夜、俺が一人で作戦の見直しをしていると、外から声がかけられた

 俺がどうぞと促すと、そこにはかんうさんがいた


「かんうさん、どうしたんですか?」


 俺はかんうさんに椅子を勧め、向かい合う形で座った


「なぁ、小僧正直に言え、この戦いどうなると思う」


 いつになく真剣なかんうさんに、俺は正直に思っていることを打ち明けた


「わかりません。いえ、それじゃあ具体的ではありませんね。はっきり言って、勝てる見込みは薄いでしょう」


「そうか。ならば、やはり」


「いえ、かんうさんは正面で戦ってください」


「小僧、負けるかもしれない戦で、りゅうび様の側から離れろと」


 凄まじい重圧が俺に向けられる

 それはいつもと違って、自分の大切なものを本気で心配する戦士の顔だった

 しかし、俺はひるまずに言葉を続ける


「最終的にどうなるかはわかりませんが、汜水関の戦いに関しては勝つ自信があります」


 俺の顔をしばらく凝視したかんうさんは、ふっと表情をいつもの無愛想なものに戻すと、「そうか」と言って、天幕から出ていってしまった

 

 信用してもらえたのかな?

 俺は、来客用の椅子を片付けて、再び策を寝ることに没頭していった


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