第五十七話 かんうのいないところで話は進む
「なんでそうそうの軍師であるあんたが、俺たちのメリットばかり話すんだ?」
俺はじゅんいくを睨みつけ、さっきから深まっていく違和感を言葉にしてぶつけた
ここまでのじゅんいくから聞いた作戦は、俺たちにとって非常に魅力的だった
数が少ないりゅうび軍の長所は、高い統率力と一騎当千の猛者がいることだ
ここまでの戦いを通して見ても、まともにかんうさんやちょうひさんの攻撃を受け止められる人間は数える程しかいない
今回の奇襲戦は俺たちにとっては、長所を活かして最大の功績を得られる可能性を持つ作戦だといえる
通常の敵味方入り乱れる平地でのぶつかり合いでは、敵将の首を取るくらいしか活躍の場面はない
しかし、今回の作戦は敵の大将やその側近を討ち、関所の門を開けるというこの戦いで最高の功績を独り占めすることも可能な、功績の欲しい俺たちにとって煌く宝石のような作戦なのである
だが、俺は手放しにその作戦を歓迎することはできなかった
この作戦は、俺たちから見れば魅力的な作戦であるが、そうそう側からすれば何のメリットもない、むしろ将来そうそうの道を阻む敵になるかもしれない相手の力を強めてしまうことになる
はっきり言ってそうそう側が俺たちにこの作戦を提案するのは、不利益以外の何ものでもない
なんせ、この作戦は配置をある程度自由に扱えるそうそうの連合軍前軍の副将という立場がなければ成立しない上、そうそうには自軍だけで奇襲も囮役もこなせるだけの人材も兵力もあるだろう
仮に奇襲に失敗しても、大将のきょうぼうに擦り付けてしまえばいい
何も俺たちに頼まなくてもそうそう軍だけで事足りる話なのである
つまり、そうそうは俺達に重要な何かを隠しているということだ
そこがわからない以上、安易に提案を受けるわけには行かない
「ほう、やはりお前はただの小僧として見るには惜しい人材のようだな。じゅんいく、話してやれ」
「へえ、なかなか他人に興味を持たないそうそう君が興味を持つなんてねえ。こーめー君だっけ、君すごいなあ。おっと、そうだったね、さっきの説明だけじゃ疑問を持つよね、なんでぼく達がこんな提案をするのかね」
じゅんいくはへらへらと安っぽい笑みを浮かべて話し始める
「実は僕たち数だけならそれこそ2万近くいるんだけど、実際にはまともに戦える兵士はほとんどいないんだ。僕たちの領地は都から近いからまともな兵士はみんな残してきちゃったからね」
それでも、連合軍の中で体裁を保つために数を揃え、装備をつけさせて強そうに見せているそうだ
そんな訳で奇襲に回せる余裕はないらしく、俺たちを呼んだらしい
りゅうびやそんけんを選んだのは、それだけ実力があると判断した結果で
そうそうとしても、できるだけ自軍に犠牲は出したくないという気持ちも手伝ったのだろう
「とまぁ、そんなわけなんだよね。で、こーめー君はこれでもまだ囮役やるって言うかい?」
じゅんいくの言葉に俺はすぐに答えなかった
目を軽くとじ、頭の中の天秤にメリットとデメリットを吊るして熟考する
はっきり言ってまだ全然信用が置けない、しかしこれ以上ごねてもダメだろう
「わかりました、奇襲の件引き受けましょう」
「勇気ある決断に感謝するよ」
そう言ってじゅんいくが手を伸ばしてくるが、俺はそれを受け取らずに、言葉を続ける
「しかし、一つだけ条件があります」
俺の言葉に一瞬じゅんいくが怪訝そうに顔をしかめるが、すぐに顔を崩し「なんだい? 」と聞き返してくる
「一人、この作戦に貸してほしい人物がいます」
「ほう、人質を取るってわけか?」
自分の部下を人質に取られるのには抵抗があるのか、そうそうが低い声で威圧するように聞き返してくる
俺は、内心ビビっていたが、それは表情に出さずに違うと言い返す
「今回の作戦を成功させるためにはどうしても必要な人物だからです。もちろん、人質にしないためにも、うちからもかんうさんを客将として派遣します」
「かんうとは、オレに切りかかって来たあの男のことか?」
「はい、実力はその目で確認してると思いますが」
「ああ、わかった。で、誰の力が必要なんだ」
俺が提案した人物にそうそうは驚いていたが、さっき頭の中で簡単にまとめた大まかな作戦の内容を話すと、楽しそうに笑い、快く首を縦に振ってくれた
その後、簡単な打ち合わせをして、そうそうの天幕から出た俺はなぜかりゅうびに正座させられ
「さてこーめー、そうそうの前ではお前を信じて何も言わなかったが詳しく話してもらおうか」
鬼の形相のりゅうびと
「こーめー君ってばやっぱり男の子だよね」
勘違いな笑顔を浮かべるちょうひさんと
「こーめー様、私じゃあ魅力が足りないんでしょうか?」
なぜか悲しそうに目を伏せるちょううんに囲まれていた
あれ、俺上手く会議まとめてきたはずなのに
どうしてこうなった?
「そうそう君、よかったの?」
「ふん、まぁあいつなら計画に支障はないし、何よりあのかんうという男の実力に興味がある」
「へえ、まあそうか、かこうとんの姉さんも色々言ってたからね」
「ああ、それに使える人材ならオレの仲間にしたいしな。人材はどんだけいても不要になることはないからな」
ふはははは、とそうそうの笑い声が天幕の中に響いた




