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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
4章 時代の幕開け
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第五十六話 そうそうの掌

「はい、というわけでぼくがそうそう君の軍師にして、知恵袋の天才執政官じゅんいくです。まずは簡単にぼくの生い立ちからでも……」


 チャッ

 そうそうが腰の剣に手をかける


「……ってのは置いておいて、作戦の説明をはじめるよ」


 微妙にじゅんいくの声が震えているあたりで、主従の関係はしっかりしてるんだなと妙に納得した

 最初そうそうの部下は皆そうそうに敬語使ってそうなイメージあったから、そうそうにタメ口利いてるじゅんいくという男に俺は親近感を覚えた

 多分軍師ってことも大きいんだろうな


 じゅんいくの作戦説明はちょくちょく脱線し、その度にそうそうに威圧されていたが、おおよその概略はわかった

 まぁ、彼が書いた作戦資料にわかりやすくまとめてあったので、実際口で説明する意味あったのかとも思うが、同じ軍師として作戦は己の口で言いたいって気持ちはものすごくよくわかるので、俺は何も言わなかった


 汜水関攻略戦の概要はいたってシンプルなものだった

 正面で敵の気を引いて、後ろから襲撃するだけである


「で、あたいたちはどっちを受け持てばいいんだい」


「そんけんさんは、ぼくの作戦に乗ってくれるんですか?」


「さぁね、それはあんた達の返答しだいかね」


 そんけんは妖艶な笑みを浮かべて、じゅんいくを見る


「もちろん、奇襲側で活躍してもらいます」


「ほう、あたいたちは表で活躍せずに、裏で走りまわれと言うのかい?」


 そんけんはさも不満そうに言う


「はい、そんけんさん達に最も要の仕事をしてもらいます」


「そうかい……あっはっはっは、いいねぇ、気に入ったよ。あたいたちはそれでいいよ。ただ戦い方は……」


「ええ、もちろんお好きにしてください」


「そうかいそうかい、じゃあ早速準備に向かうとするかね。おっと、そうだった、数は?」


「お好きな数でどうぞ、残りもそれなりの場所を用意しましょう」


「そこまでお見通しかい。これじゃあ、頑張らないといかないねえ」


 そう言うと、そんけんは笑いながら、横にいた少女を連れ立って出ていってしまった


「こんな感じでよかったかい、そうそう君」


「ああ、上出来だ。南で有名なそんけんを味方につけられたんだ。で、りゅうびのとこはどうすんだ」


 そうやって、そうそうに話を向けられると、りゅうびは俺の方に視線で助けを求めた

 まぁ、そうだよなぁ


 俺は、視線だけで頷き、じゅんいくの方を向く


「そうだな、俺たちは門の正面で暴れる役をやろうかな」


「はぁ、そうですか」


 顔色には出ないが、じゅんいくが少しがっかりしてように見えた


「俺達が奇襲を選ばなかったのは残念でしたか?」


「い、いえっ、そんなことはないですよ」


 俺の質問は予想してなかったのかじゅんいくが動揺する

 やっぱりそうだろう

 というか、普通に考えて、俺たちは奇襲をした方が旨みが大きい


 3500程度じゃ普通に戦ってては大きな手柄を立てるのは難しい

 しかし、奇襲であれば少数精鋭で、かんうさんを筆頭に一騎当千の将が三人もいるりゅうび軍は大きな戦果を得ることができるだろう

 今回は裏から攻めるわけだから敵の重要な人物の捕縛や、糧秣の奪取、そして門を開けられれば汜水関の戦いにおいて、最大の功績を得ることができる

 いくら巨大で、堅牢な場所でも、門があいてしまえばただの障害物にしかならない

 その上、数で勝る連合軍が敵の地形的優位を崩せば負ける道理はない


 つまり、奇襲役は旨みしかないのである

 もちろん敵のど真ん中に行くわけだから、犠牲は出るだろうが、元々の配置でも最も犠牲が出る最前線に回されているので、どちらにせよ被害が出ることに変わりはない以上、犠牲という面のデメリットも関係なくなる


 そんけんは、それがわかった上で、じゅんいくを試したのである

 それに対して、じゅんいくはそんけんの考えを見抜き、彼女の信頼を勝ち取ったのである

 まぁ、ただそんけんはそれだけでなく、その上でさらに利を取りに行ったあたりは本当に抜け目無い人物である

 初めて会った時の心のざわつきは間違いじゃなかったようだ


 本当にちゃっかりしてやがる

 そんけん軍は奇襲だけでなく、門の前の戦いでも功績をあげる予定なのだろう

 それだけの、兵力と人材がいるということか

 じゅんいくに兵の割り振りは好きにしていいとの言質までとっていったからな

 いずれ戦うことになるかもしれないと思うと、ぞっとする


 俺達も最初はそんけんと同じように、奇襲役をかってでようと思ったんだが、違和感を感じた

 じゅんいくの説明を聞いても、資料を見ても違和感は膨れるばかりで一向に収まる気配はなかった

 その違和感が、疑惑に変わったのはくしくもじゅんいくとそんけんの会話の時だった


 さっきも言ったが、本当に今回の作戦は俺たちにとって美味しいんだ

 兵力も地位も最低に近いりゅうび軍が、これほど良い条件に恵まれるなんて普通ない

 そう、美味しすぎるのである


 そして、さっきのじゅんいくの動揺で、俺の疑惑は確信に変わった

 今回の作戦にはまだ話されていない面がある




「ねえそんちー、あの男の話に簡単に乗っかっちゃってよかったの?」


 そうそうの陣地を離れたところを見計らい、そんけんの後ろについて歩いていた少女が、そんけんに問う


「ああ、かまわない。そうそうがどんな策を弄してこようが、あたいが全て正面から砕いてやる。それに、下手に反抗して不意にするにはおしい役どころだったからねえ」


「まぁ、そんちーがそう言うなら別にいいんだけどね」


 主の腹のうちがわかった少女は、にゃはははと笑い声をあげ、再び彼女の後をついていくのだった


 

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