第四十五話 古典的な手段
俺は、ちょうひさんの手が緩んだ一瞬をついて、体をねじりちょうひさんの手を振りほどく
「っ、ちょっと」
「このままだと、俺もちょうひさんも二人共やられちゃいます。俺一人で走ってあいつのとこまで行くんで、ちょうひさんはかんうさんをなんとか足止めしてください」
「……わかったよ」
「死ねぇ!!」
かんうさんが聖りゅうび偃月刀を手に、俺の方へ一足飛びに迫ってくる
「させないよ」
かんうさんが俺に到達するより早く、ちょうひさんが間に入りかんうさんを止める
りゅうび軍の頂上決戦の幕が……
「くそ、邪魔をするんじゃない、ちょうひ」
「それは聞けないかな」
「ちっ、この手は使いたくなかったが仕方ない」
「?」
「あー、あっちに蠢く巨大筋肉が!」
「えっ、どこ? っ、きゃあぁぁぁ」
「悪く思うなよちょうひ」
……一瞬で閉じた
って、ちょうひさんやられるの早すぎでしょう
俺は、走りながら後ろで繰り広げられる会話を背中で聞いていた
古典的な手で、ちょうひさんが吹っ飛ばされたらしい
ゲームとかでも知力低いからな、ちょうひさんは……
まぁ遠くで建物が崩れる音がしたので、ちょうひさんは頑丈だから無事だろう
ばっさり切り捨てられたらさすがにヤバイだろうけど、それはしっかり防いだみたいだな
って、ちょうひさんの心配をしている場合じゃねえ
全く足止めが機能しなかったので、かうんさんの気配がすごく近い
かんうさんに気を取られていたため、俺は足元の屋根を踏み外した
重力に引かれるままに、地面に落下する
「ぐはぁぁあ!」
衝撃が全身を襲う
肺から空気が漏れ、呼吸が一気に苦しくなる
一瞬遅れて右足から激痛が脳に衝撃としてきた
ヤバイヤバイヤバイ
右足に全く力が入らない
目の前には、既に追いついたかんうさんがすぐそばに立っていた
「ふっ、これで終わりだな、ちょうどいいりゅうび様に手を出した不届き者の顔を拝んでやるとしようか」
かんうさんが、俺のマスクに手をかけようとする
くっ、ここで俺の正体がバレたらおしまいだ
もし、万が一生き残れたとしても社会的に死ぬ
俺の恐れていたことが実現してしまう
怪盗小沛変態仮面こーめーここに死すとか嫌すぎる
俺は必死に身をよじり、かんうさんから逃れようとするが、お腹を踏まれ身動きが取れないようにされる
もうダメか……
「させません」
「むっ」
カキィン
俺の腹の上にあった重みが消える
俺から距離をとったかんうさんとの間に小さい影が飛び込んできた
「ちょううん」
「遅れてしまって、申し訳ありません」
「ちっ、ちょうひに続き、おまえまでこの変態の味方をするのか」
かんうさんに変態と言われるのはものすごい遺憾だが、これで助かった
ちょううんが少しでも時間を稼いでくれれば、ちょうひさんも戻ってくるだろう
さすがに二対一なら、いくらかんうさんでもそうそう振り切れないだろう
その間にりゅうびが来てくれれば、助かる
同時に、俺の名誉も守られる
ほんとに、いいタイミングで来てくれたちょううん
体中痛いが、顔がばれずに済むなら悪くない
「こーめー様には指一本触れさせません」
「なに、なるほど、小僧が犯人だったわけか、それならちょうひやお前が出てくるわけだな」
って、ぬおわぁぁぁぁぁああああああ
ちょううん、おまえはなんてことしてくれるんだ
一番バレてはいけないやつに、正体バラシやがって
「あっ、うそです、この人は、こーめー様ではありません」
「ほう、じゃあ誰なんだ」
「えっと、こーめー様じゃない誰かです」
「じゃあなんで、そいつを守ろうとするんだ」
「それは、こーめー様からの指示です」
「そうかどちらにしろ小僧が黒幕なんだな」
「いえ、今のは嘘です」
ちょううん、無理するな
お前に咄嗟の嘘は敷居が高すぎる
もともと優等生気質なちょううんは嘘が苦手だった
「まぁ、どちらにしろ、こんなことをしでかしたそいつは殺す」
「させません」
ちょううんは両手を開いて、俺を庇おうとする
かんうさんは聖りゅうび偃月刀を構える
二人がまさにぶつかり合おうとした瞬間
「やめろ、かんう!」
ここ半年、嫌というほどよく聞いたあいつの声が響く
その声を聞いたとたん、かんうがピタリと停止し、りゅうびの方を向き膝をつく
「りゅうび様、この男を斬れと私に命じてください」
「やめろと言ったのが聞こえなかったのか」
「ぐ、しかし」
「しつこい! かんうは小沛に集まった兵士たちを庁舎の前に集めてくるのだ」
「……御意」
かんうは不満そうにしながらも、りゅうびの指示に従った
ちょううんは、かんうが戦意をなくすのを見て、慌てて振り向き傷の手当をしてくれる
「ほんと、助かったよちょううん」
俺は、右手でちょううんの頭を撫でてやる
「いえっ、わたしは出来ることをしただけです。本当にこーめー様が無事でよかったです」
ちょううんは緊張が解けたのか、涙を流しながら俺の手を握り返してくれる
「なんか、いい雰囲気のとこ悪いけど、今のあなた達は少女をたぶらかして泣かしている変態にしか見えないぞ」
いつの間にそばに来ていたりゅうびが、ジト目で見下ろしていた
「変態はひどいな、俺は小沛のために頑張ったっていうのに」
「ふんっあたしの下着持ち出して、変態って言われるだけで済んでるんだから、あたしの寛大な心に感謝することね」
そう言って、俺たちは三人で笑いあった




