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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
3章 小沛太守補佐
34/80

第三十四話 金に困った俺はりゅうびを売った

 小沛に俺たちがやってきたから三ヶ月が経った

 結果だけ言おう、税収は見込みの三倍を超え三ヶ月前の十倍にまで膨れ上がった

 しかし、俺たちは貧乏のどん底にいた 


 農民たちは基本的に年一回の納税だが、通行税や商人の売上に対する税など短期的に発生する税もある

 実際当分はそれで乗り切れると思っていたのだが、俺の策はある意味大成功だった

 住民だけで言えば、当初の30倍位増えた

 それに伴い、商人や短期労働者なども増加した

 需要は増え、領内の経済状況は一気に改善の兆しを見せた

 まぁ、そこまでは良かったんだが

 

 支出がそれ以上に増えた


 俺は、太守の部屋の中心で正座をさせられていた

 周りには、りゅうびややまだ、主だった役人たちと、ちょううん、調査から帰ってきたかんうさんとちょうひさんが全員厳しい目で俺を見つめてくる


「それで、こーめーこうなった理由をあたし達にもわかりやすく説明してもらおうか」

 りゅうびは優しく笑顔でそう促すが、目が笑ってねえ

 くそっ、本来ならば俺が華麗に策の全貌を話す予定だったのに、なんでこんな惨めなことに


「こーめー」


「わかったよ、全部話すから、かんうさんは武器持たないで、ちょうひさんも手に持ってる石置いてください」



 俺が行った税制改革は大きく三つの目的があってやったんだ

 一つ目が、りゅうびに頼んだとおり盗賊の農民化だ

 この作戦は、農民を増やし、盗賊被害をなくし、警備にかかる金額を減らすことができる

 しかも、鶏巾族の連中もいたから、そいつらもうちで農民としてやってもらうことになった

 前述のとおり、税が軽くなったからな、りゅうびの魅力も合わさり恐ろしい勢いでこの作戦は成功した


 二つ目は、他領地からの人々の引き抜きだ

 こっちの世界には自分の土地を持たない半ば奴隷のような人々や、財を失った人々が大勢いる

 税率35%というのは他の領地を見比べても圧倒的に安い

 もともと小沛は税率が高く、荒地も結構残っていたから、農地を格安で貸与え、いずれは購入できる特典を付けたので、盗賊達の農民化も合わせ一気に耕作地が広がった


 そして三つ目は商人達を呼び込むためだ

 盗賊や鶏巾族がいなくなったため、小沛の治安は格段に良くなった

 それに、小沛は税率が安い

 これはもちろん商人たちにも適用される

 他領を通るよりも安全で安い道があるなら、間違いなくそっちを選ぶだろう

 利に聡い商人ならなおさらだ

 

 結果的に、小沛は一気に人口が爆発した

 そのために多くの人間を臨時で雇ったり、道の再整備をしたり、灌漑かんがいをしたりと公共事業投資が莫大な額に上った

 俺たちの持っていた現金はあっという間に底をつき、日々入ってくる税収もそっちに回さざるおえないようなまさに自転車操業状態になってしまった

 最初は色々とツケとか、特例認めたりしてなんとかしてきたのだが、そろそろそれにも限界が来始めた


 そんな折、りゅうびがあらかた仕事を終え、途中でかんうさんとちょうひさんを回収して帰ってきた

 そして、火の車な現状がバレ、今まさに俺がつるし上げられているといった状況である


「こーめー様、中央や有力な領主様からお金は借りれないのですか?」


「ちょううん、その発想は俺もしたんだが、いかんせん俺の策がうまくいきすぎてしまい、周りの太守や県令連中から疎まれちまったようで、それは無理だ。中央は今回の鶏巾族の乱でそんな余裕は無い」


「じゃあ仕方ない。部下の責任は主であるあたしの責任だからな、あたしが一肌脱ぐとしよう」

 そう言って、りゅうびがライブの準備を始める


「いや、りゅうびすまん。既にお前のライブは前売りチケットで毎日3公演、一ヶ月分売っちまった」


「は?」


「黙ってたのは悪い、しかし、これ以外に手っ取り早く金を作る方法がなかったんだ」


「なに、小僧私に黙って」

 かんうが聖りゅうび偃月刀に手をかける


「かんうさん、すみません。かんうさんと護衛のみんなには全公演の最前列チケットと、かんうさんには全公演の指揮権を用意しましたので、お願いできませんか」

 俺はさっと、チケットとメガホンを渡した


「ふっ、小僧わかっているではないか」


「おいっ、ちょっと、こら、かんう、なにやってんだ離せ」


「りゅうび様、すみません、これから曲の振り付け練習と衣装合わせなどスケジュールが詰まってます」

 凄まじい早業で、りゅうびを捕縛し、かんうはそのままりゅうびを引きずっていった

 その後ろにはしっかりと劉好団りゅうはおだんの幹部連中もはっぴを着て付いていった


 俺は、今度はちょうひさんの方に向き直り

「それで、ちょうひさんにも頼みがあるんですけど」

 そう言いながら、注文していたプロテイン(かだ製薬製)一ヶ月分を差し出す


「こーめー君、なんでも言って」

 目をキラキラ輝かせたちょうひが、俺の手を握ってブンブン振ってくる

 肩関節が外れそうだ


「ちょうひさんは、あの山からできるだけ大量に木を引き抜いて持ってきてもらえますか」


「それだけでいいの」


「はい、抜いてきてほしい木には目印を付けてもらっているので、それをお願いします」


「うんわかったよ」


「後、出来高制で報酬は弾まさせてもらいます」


 その言葉を聞いたちょうひはさらにやる気が出たようで、あっという間に俺の前から走り去ってしまった

 木材と聞くとたいして金にならなそうだが、ここは俺のいた現代とは違う

 チェーンソーなんかあるはずもなく、運ぶのも馬車か人力といった世界である

 一本の木材を調達するのにも何人もの人手が必要な上、現在人が移住しまくりで木材はいくらあっても足りない状況である

 しかも、多くの山は基本的に領主の管理下であるため元手はタダ、そして太守のやまだがずぼらだったおかげで、良質で大きな木がいっぱい山にはある

 何人かの商人に確認してもらったが、大体一本でおおよそ100人分の賃金くらいは手に入るらしい

 りゅうびの公演に比べれば少ないが、それでも貴重な現金収入源である


 ちょうひを見送った俺は、急に後ろからくいくいっと服を引かれた


「こーめー様、私はどんな仕事をすればいいんですか」


 期待に満ちた目でちょううんが訴えてくる


「え、えっとだな、ちょううんには……」

 しまった、何も考えていなかった

 ちょううんって微妙に影薄いんだよな

 盗賊を農民化させる件で、ちょううんにはりゅうびの護衛に回ってもらってたこともあり、すっかり忘れてた


「こーめー様?」


 俺が、言いよどんでると少し自信がなくなったような、さみしそうな目で俺の名前を呼ぶ

 やべえ、不謹慎だがかわいい

 って、そんなこと考えてるんじゃなくて

 えーとえーと、はっ


「大丈夫だ、ちょううんにもしっかりやってもらいたいことがある。これはお前にしかできないものだ」


「はいっ」


 ちょううんは嬉しそうに頷くのであった



 

  

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