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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
3章 小沛太守補佐
31/80

第三十一話 補佐という名の

 小沛の領主の館でりゅうびのライブが行われ、一夜明けた

 

 朝日が昇ったあたりでちょううんに起こしてもらい、太守の部屋の扉をそっと開けて中を覗くと、りゅうびは隅っこで寝ていて、ステージの上には護衛4人(会員番号2桁以内の幹部すごいへんたい)、その周りには、太守とおぼしき豪華な服を着た男を中心に十数人の男女(会員になったばかりの新人へんたい)が血走った目で振り付けを覚えていた

 

 俺は、ちょううんに頼みりゅうびを回収してもらい、そのまま客間に運んで寝かせてもらった

 さすがに、俺たちの旗印であるりゅうびに風邪を引かせるわけにはいかないからな

 ほかの連中は、せっかく頑張っているところを邪魔しちゃいけないと思ったので、そのままにしておいた、決して面倒くさかったわけではない


 その後、太守の部屋から判子はんこと筆を拝借し、入口に立ち入り禁止と太守の印付きで張り紙をし、下級役人や召使にお願いして、小沛の現状と保管されている資料を集めてもらった

 どうやらここの太守は人望がなかったらしく、太守補佐としてきたりゅうびが小さな女の子ということもあいまって、下働きの人たちが非常に友好的な対応で助かった

 おかげで、資料を調べるよりも何倍も有意義な話を聞け、大まかな小沛の状態は一通り押さえることができた


 夕方に太守の部屋を部屋を再び覗きに行くと、さすがに全員ブッ倒れていた

 まぁ、護衛連中はここまで結構疲労がたまっていたし、太守達はデスクワーカーだからよくここまで体力が持ったもんだとさえ思う

 召使たちに頼んで、太守たちを部屋に運んでもらった

 俺が見送っていると、突然後ろから声がかけられた


「おい、こーめー」


「ん、ああ、りゅうび起きたのか」


「うん。まぁ、まだ眠いけどな」

 ふわぁ、とりゅうびはあくびをしながら言う


「で、あたしが寝てる間にいろいろやってたんだろ」


「まあな」


「ふぅん、ならいい」


「なんだ、聞かないのか? 」


「どうせ明日、あたしが太守補佐になった理由あたりから教えてくれるんだろ」

 

 俺が頷くと、それならいいとりゅうびはくるっときびすを返して行ってしまった

 

 これは、信頼されているってことでいいんだよな

 にしても、たまにあいつは器の大きいとこ見せるよな

 もう一回見落としがないかチェックしてくるか


 


 次の日、りゅうびと軽い打ち合わせをして、俺たちは全員で太守の部屋に行った

 中に入り、太守達がりゅうびの姿を確認するや全員が立ち上がり、うやうやしくこうべを垂れてきた

 最初に来た時の横柄な態度はどこへやら、太守は自らりゅうびを自身の対面の席に案内した


「それでは、改めまして、私が小沛の太守をやっているそんけんと申します」


 なっ、そんけんだと

 孫権といえば、三国志で劉備、曹操に並ぶ英傑じゃないか

 それがこんな小太りのおっさんなのか

 まぁ、それは後でいい

 俺はりゅうびの方に視線を送り、りゅうびは大きく頷いたあと


「なぁそんけん、あたしに太守の座をゆずれ」


「いや、しかし、いくらりゅうび様の頼みでありましても、太守の任命権は州牧以上の方の推薦状と皇帝様の承認が必要で」


 そんけんは冷や汗を垂らしながら、必死に弁明をする

 しかしその切り返しは想定内で、りゅうびはニヤリと黒い笑みを浮かべ


「太守の肩書きはおまえにやる、だからあたしに全権限を移譲しろ」


「は、はい、それならばただちにさせていただきます」

 そんけんは背筋をピンと伸ばしりゅうびに敬礼をし、慌てて机の中から書類を引っ張り出している


「いいか、お前達も今日からあたしのために働くんだぞ」

 りゅうびが、太守の周りにいた役人達を見回しながら言う


「「「ははぁ」」」

 全員が片膝をついて、頭を下げた


 よしっ、と俺は心の中でガッツポーズを取った

 最初、りゅうびの役職についてすうせい将軍と話したとき、すうせい将軍はりゅうびを自分の郡内の県令に推薦してくれると話していた

 しかし、俺はそれを断った

 もしこのままりゅうびを県令にしてしまえば、間違いなく人々の反感を買う

 いくら功績を立てたとは言え所詮は小娘のりゅうびがいきなりトップになったら周りはいい顔をしないだろう

 りゅうびの力を使えば、周囲のやつは納得させられるにしても、全員は難しい

 特に、同じ郡の他の県令達はそうそう会えるものではない

 高蓮砦の時もそうだが、どうやらりゅうびの力は、範囲と時間が関係しているらしく、惹きつけることはできたが、寝返らせることはできないという前例もあり、あまり遠くに敵は作りたくなかった


 だから、何もできない左遷職である、太守補佐という役職に目をつけたのである

 太守補佐は、通常何もできないが、太守の委任を受ければ、太守と同じ権限を持つ

 りゅうびにかかれば、太守に委任状を書かせるなんて造作もない

 そしてそれは、県令ではできなかった自分の軍を持つことも可能にするということだ

 通常昇進するには、試験と長い経験などが必要である

 しかし、軍を持てば戦で功績を上げて昇進できる

 まさに今回のりゅうびの太守補佐への任官は戦の功績のためだ

 

 今後も、りゅうびが前に進むには、彼女に大きな軍事力が必要になる

 そのためにも、今回の太守の権限は譲れなかった


 なので、俺はすうせい将軍に、極力北の方で太守補佐の席が余っているところを探してもらい、そこに推薦してもらった

 太守補佐は人気のない職であることと、りゅうびを厄介払いしたい中央の役人達の思惑もあり、わずか数日で任命されるという、異例の高速人事で配属先が決まった

 おかげで、一月に満たない期間で実質太守という権力を手に入れることができた


 そして、太守補佐にはもうひとつ大きなメリットが有る

 それは『補佐』というところだ

 太守になると、仕事の責任は全て太守に返ってくる、しかし、太守補佐であるりゅうびは何をやっても、太守という壁によって責任逃れが可能であり、その上、館に太守を置いておけばりゅうび自体は自由に行動することが可能になる

 つまり、普通に太守になるよりも有利なポジションが、太守補佐なのである


 俺はこのアイデアを思いついた時に、こんな抜け道みたいな職を用意した中央の官僚たちに感謝した

 最初は少女が、軍を持ち、自由に動けるようなそんなおししい地位はないと思っていたので、まさに太守補佐は渡りに船だったと言える


 俺がそんなことを考えているうちに、りゅうびは太守の椅子に座っていた

 そして、他の全員がりゅうびにひざまずいている姿を見て、小沛におけるヒエラルキーが完成したことを悟った

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