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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
3章 小沛太守補佐
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第二十九話 川の字

 首都長安までやってきて十日が経った

 その間に俺はすうせい将軍と根回しのために何人もの人物にあったり、ここまでのりゅうびの功績を報告書にまとめたり、宮中での礼儀作法を覚えたりと大忙しだった

 俺がこんなにもてんてこまいな状況になっているのは、二つの理由からだ

 まず、義勇軍だったりゅうび軍にまともに事務ができる人間がいなかったこと

 俺の知識はこの世界ではかなり高等なものらしく、日本の政治経済の知識をベースに要所要所をこちらのルールに置き換えればほとんどそのまま流用可能だった

 また、文字も不思議なことに完全に日本語で良かったので助かった

 おかげで、こちらの知識を教えてくれた、すうせい将軍の知り合いの文官はかなり驚いていた

 

 そして、俺がこんなにも忙しいもう一つの理由は必死に書類をまとめている俺の横で、よだれをたらして眠っているツインテール少女のせいだ

 りゅうびは基本的に自分の認めた相手以外は敬わないし、敬語なんかはよほどの場合以外は使わない

 最初の頃はそれでもなんとか納得させて連れて行っていたのだが、心労と毎回いちいち納得させる手間が面倒くさくなったので三件目からは俺ひとりで仕事をしている

 反対にちょううんは教えたことはスポンジのように吸収していくので、最初の頃は護衛として俺の横に立っているだけだったが、今では簡単な書類くらいなら処理できるし、言葉遣いも元から丁寧なので来客の対応なんかでも本当に助かっている


 ちなみに、俺たち以外に護衛として4人ほど付いて来ているのだが、りゅうびの護衛を決める戦いによって全員満身創痍のためここに来てからほとんど療養している、マジで使えない

 まぁ、すうせい将軍の屋敷はしっかりと警備されている上、大通りにも面しているのでそんなに心配していない

 俺もここに来るに当たり、かんうさんを説得するのに35回位殺されそうになった(新記録達成)


 長安は首都なだけあって物も人も今までとは桁違いに多かった

 特にしっかりと区画整備された街並みはそれだけで圧巻だったし、奥にそびえ立つ皇帝の宮殿はどれだけの金と人を投入したのか気が遠くなるほど巨大で豪華絢爛な造りだった

 そこから、大通りを三本ほどまたいだところにすうせい将軍の屋敷があり、そこも日本人の俺からすると腰が抜けてしまうほどの大邸宅だった

 俺の寝室は余裕で10畳以上あったし、今いる執務室としてあてがわれている客間に至っては20畳以上あるだろう

 最初の頃は落ち着かなくてしょうがなかった

 部屋を変えてもらおうかとも思って、りゅうびに相談したら馬鹿にされたので、悔しいから今も我慢して使っている

 心なしか端の方によっていっているのは、気のせいだ


 仕事は忙しいが、ここでの生活は戦場の生活に比べて天国のように環境が良い

 食事はあったくてうまいし、布団はふかふかで、風呂まで毎日は入れる

 しかし、問題は夜になると警護と称してちょううんが一緒に寝ると言って聞かないことだ

 昔は俺も女の子と一緒の部屋で寝ることに憧れていた、しかしあんなもんはリア充共の妄言もうげん

 緊張して全く寝られねえ

 ちょううんは見た目は小柄で、まだまだ子供だと思っていたが、間違いなく美少女だし、甘い香りはするし、寝返りを打つたびに悩ましげな声は聞こえるし、薄い着物からのぞく体のラインは女性そのものだった

 とにかく、今まで一回も彼女がいないオレにはハードルが高かすぎだ

 次の日寝ないで考えた100にも及ぶ俺の言い訳は、捨てられた子犬のようなちょううんの悲しそうな顔によって無残にも砕け散った

 

 そして、さらに俺の頭を悩ましているのは、次の日に起こった

 完徹したこともあるし、慣れない仕事もあって二日目はちょううんが来る前に眠りに落ちて、翌朝俺の顔面に誰かの足が振り下ろされてきたのでびっくりして目を覚ましてみると、隣にもう一枚布団が引かれ、だいぶまずい感じに服がはだけ、チラッと下着がのぞいたりゅうびが大の字に寝ていた

 とりあえず、布団をかけ直して、既に起きて朝の鍛錬をしていたちょううんに聞いてみたら、俺が寝たあと布団を引きずってやってきたらしい

 なぜかすごく眠そうで、理由を聞く前に寝てしまったらしい


 その後、目覚めたりゅうびに問いただしてみたら、いろいろはぐらかされ、逆ギレされ、殴られたが、推察するに一人で寝るのは怖かったらしい

 りゅうびの寝室は俺の部屋よりもさらに広くて、豪華なんだが一人で寝るには不安要素以外の何物でもなかったらしい 

 当初はちょううんと一緒に寝る予定だったらしく、俺の部屋でちょううんが寝てしまったため、一昨日は寝れなかったっぽい

 いろいろ、考えた結果俺の部屋に来たのだろう

 その証拠に、いつもならちょううんと一緒に寝てるなんて聞いたら、間違いなくコイツはニヤニヤ笑いながら馬鹿にしてきただろう

 それがないところを見ると、よほど怖かったんだな

 

 既にちょううんがいたため、今更りゅうびが増えたところで俺のメンタルはとっくにキャパオーバーしているので、問題なくはないが、まあそれはいい

 問題は、このことが連中、特にかんうさんにバレたら間違いなく俺は死ぬ

 死ぬことすら生ぬるそうだ

 とりあえず護衛の連中は当分怪我で動けないだろうから、バレる心配はないだろう

 まさに怪我の功名というやつだ


 それから、何故か俺を中心に三人で川の字で寝ている

 ちょううんは、基本的に俺が徹夜しない限り俺より後に寝て、早起きだ

 寝相もめちゃくちゃよくて、ほとんど布団も乱れない

 逆にりゅうびは寝相がめちゃくちゃ悪い

 まず間違いなく何回か蹴られるし、トイレに行くたびに踏まれる、布団を間違えて俺の上に降ってくる、ひどい時なんか何故かちょううんの布団で寝ながら俺にパンチをくれる

 その度に俺は起こされ、この8日間さっぱり眠れてない

 しかも、りゅうびは9時間は寝ないとダメらしく、早寝朝寝坊が基本で、その上昼寝までしているのだから殺意しかわかない

 

 書類をさばきながら、そんなことを考えていると来客があった

 一通の手紙を携えた使者で、宛がりゅうびだったので、俺は慌ててりゅうびを揺すって起こし、手紙を渡した

 手紙はただでさえ紙が貴重なこの世界でも最上の真っ白な紙が使用され、さらに中には皇帝直々の印が押されていて

 つまるところ、りゅうびの任命書である


 そこには、こう書かれていた


 今回の功績に応じ、りゅうびを小沛しょうはい太守補佐に任命すると


「む、こーめー、補佐とはどういうことだ」


「たぶん、太守の手伝いをしたり、代わりをする役職じゃないか」


「それじゃあ、自由に軍持ったり、開発したりできないんじゃないか? 義勇兵の連中はどうするのだ」


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