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なんちゃって三国志(旧)  作者: 北神悠
2章 覇王降臨
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第二十七話 傍若無人なあいつは誰だ

「くそっ、あの黒騎士は何者だったんだ」


 かんうは馬上で吐き捨てるように言う

 目前の敵将の首を横取りされた悔しさよりも、この手が敵将まで届かなかったいきどおりが彼の胸中を満たしていた

 かんう自身これまでりゅうび軍の中において、もっと言うなら自分の主君りゅうびに仕えるにあたって最強の剣である自負があった

 今回も、こーめーの策を聞く前に自分が敵将の首を取るものだと考えていた

 それが達成できなかったのである、それも明確に自分の技量不足のためにだ

 馬を進めるかんうの足取りは重かった



 同じ頃、歓声に沸くすうせい本陣では、りゅうびとこーめーがすうせい将軍に面会をしていた


「りゅうび殿、こーめー殿今回の勝利は貴殿らの奮闘のおかげだ」


「いえ、すうせい将軍が門前で敵を惹きつけていてくれなければ、ここまでうまくはいきませんでした」

 

 こーめーが遠慮がちにそう答えると、すうせい将軍は大きな声で笑い

「そんなに謙遜する必要はない。それに、ここには私と貴公達おらぬから、もっと楽にして構わんぞ」


「そうか、それは助かる、正直お前の部下はあたしは好かん」


「おい、いくら許しが出たとは言えさすがにその言葉遣いは将軍に失礼だろ」

 りゅうびの砕けまっくった口調を、こーめーは慌ててたしなめる


「ふっはっは、いや構わんよ、鶏巾族すら自分の配下にしてしまう程の者だ、今更いまさら私程度に物怖じしてもらっても、胡散うさん臭いだけだ」

 再び、すうせい将軍は大きな声で笑い、楽しそうに俺たちを見る


 俺はため息をひとつついて

「すみません」

 と一言謝った

 

 頭を下げるこーめーを呆れた目でりゅうびは見下ろし

「はぁ、こーめーは戦いになると大胆なくせに、なんでこういう場面だと及び腰なんだ」

「それもそうだ、軍師自ら前線に出て指揮を採るなどなかなかできるもんでもない。全く、私の部下にも見習ってもらいたいもんだ」

「い、いえ、あれは、その……」

 恐縮している上に、褒められたので、ますますこーめーは小さくなっていくのであった


「ところで、途中で介入してきた謎の軍の正体はわかったのか?」

 話が切れたところで、りゅうびが本題を切り出す

「ああ、やはりその話か」

 すうせい将軍は予想していたようで、一拍置き、突如として崖上より現れた軍について話し始めてくれた

「あれは、今回の高蓮砦攻略戦に派遣された別の軍であることがわかった」


「別の軍ですか?」


「ああ、そうだ。先ほど早馬で状況説明と面会の申し込みが来た」


「それで、あたしたちの手柄を横から奪ったのは誰なんだ」


「うむ、ここのところ中央で頭角を現し始め、先日将軍になったばかりのそうそうという青年らしい」


「そうそうだって!」


「「なんだこーめー(殿)は知ってるのか?」」

「あー、えっと、いや、たまたま昔の記憶に似た名前の人物がいて驚いただけです」

 と、俺は苦し紛れな嘘をついてごまかす

 こっちの歴史がよくわかんない今、俺が不用意に曹操の名を知ってることを言うのはまずい

 なんで知ってるかって説明しようがないし、もしかしたら別人の可能性もある

 しかし、曹操の名前が出てくるのであれば、今回の俺の作戦を真似してくるのも筋が通る

 俺が今回採った策にはどうしても二人以上の実力者が必要だからである

 遠距離から崖を崩せるだけの力を持った者と、崖が降れる程度の少数兵力で本陣を突破出来るだけの力量がある者、りゅうび軍で言うならば、かんうさんやちょうひさんクラスの実力者がどうしても必要になる

 もし、今回の乱入者が三国志の英雄の一角である曹操であるなら、それくらいの人材がいても不思議ではない


「もう、なんだこーめー脅かすな。で、すうせい将軍、そのそうそうってのはどんなやつなんだ」


「うーん、私も人伝に聞いただけだから……」


「おいおい、なんだオレの話をしてんのか」

 

 突然、天幕の入口を開けられ、外から20位のチャラチャラした風貌の青年と全身重装の鎧をきっちりと着こなし慌てた顔をした青年が入ってきた

「そうそうにい、勝手に入ったらやばいって」

「ん、いいじゃねえか、オレの名前が呼ばれるのも聞こえたしな」

 そう言い、そうそうと呼ばれた青年はずかずかと中に入ってきて、俺たちの前の椅子にどかっと座った

 後ろについて入ってきた青年も、あわてて兜を外して、そうそうんの後ろに申し訳なさそうに控えた


「入っていいとは許可していないぞ」

 突然のことに飲まれていたすうせい将軍がいち早く立ち直り、そうそうに嫌悪感を出しながらたしなめる

「別にいいじゃねえか。それとも、オレの名前を出しておきながら、オレには話せないような話をしていたのか」

 そうそうは悪びれるどころか、むしろこちら側に切り込んできた


「貴様!」


「落ち着いてください、確かに俺達はそうそうという方の話をしていましたが、名乗りもせず言いがかりをつけるのは筋違いなんではないですか?」

 俺は激昂するすうせい将軍を押さえ、そうそうと思われる人物に問い返す

 さすがに、恩があるすうせい将軍に対してここまで無礼にされるとイラつく


「む、それもそうだな。オレは皇帝陛下より直々に高蓮砦攻略を任じられた北部南征軍の将軍そうそう、後ろは副官のそうじんだ。それで、オレに偉そうに問うたお前は何者だ、すうせい将軍の部下には見えんが」


「俺は、今回すうせい将軍の軍に同行させてもらってる、義勇兵の軍師をしているこーめーです」


「同じく、あたしは義勇兵をまとめてるりゅーびだ」

 俺と共にりゅうびも名乗りを上げる

 相変わらず誰に対してもこの態度であるのは、本当に尊敬する


「へぇ、義勇兵か……じゃあ、あの崖を崩したのもお前たちか」

「それにお答えするつもりはありません」

「ほう、平民のくせに中々いうなあ」

 そう言い、そうそうは今までの飄々(ひょうひょう)とした態度とは打って変わって、凄まじい圧力を放つ

 思わず従ってしまいたくなるような、そんな雰囲気がある

 

 これがそうそうの力か

 しかし、日頃りゅうびの力にさらされているおかげか、耐えられないほどではない

「はい、俺はあなたの部下ではありませんから」


「ふぅん、オレのこれに耐えるか」


 そうそうは凶悪な笑みを浮かべつつ、俺を値踏みするように見てくる


「まぁ、大体大枠はわかった。にしても、義勇兵という割には随分粒が揃ってるみたいだな、どうだ、オレの部下にならないか」


「あたしは、誰かの下につくつもりはない」

 りゅうびはそうそうの提案を一瞬の迷いもなく切り捨てた


「ああ、そうかい」

 興味をなくしたような顔をし、そうそうは立ち上がり、そのまま挨拶もなく帰って行ってしまった





「あんな、男が同じ将軍かと思うと恥ずかしいばかりだ。同職としてお詫びしよう」


「いいよ、あたしもあいつは好きになれない」


「はい、すうせい将軍が謝るものではありません」


「そうか……すまんな」


 その後、すうせい将軍といくらか情報交換し、今回のりゅうび軍の功績を中央に報告すると最後に約束してくれた

 これで、りゅうびも領地が持てるといいんだが

 それと共に、俺の頭からは数分の邂逅でしかなかったはずのそうそうの姿がいつまでも頭の中から消えなかった

 態度はともかく、あの存在感と、強力な部下は今後警戒する必要があるだろう


 一抹いちまつの不安を背負いつつも、俺とりゅうびはすうせい将軍の天幕を後にした

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