第二十四話 盗賊の理由
「なあ、そうそう兄、本当に行くのか」
「当たり前だろそうじん、なんてったって悪者をやつけるのは勇者の仕事だからな」
真面目な弟のそうじんが、心配そうにオレを見上げてくる
そうじんは戦いの方に才能があったらしく、将来将軍になるために武術を中心に学んでいた
しかし、元来臆病な性格と真面目で心配性な性格が足を引っ張っているのか、既に並の兵士であれば10人相手でも勝ってしまう程の腕を持ちながら、たかだかそこら辺のちょっと腕が立つ程度のガキに恐れている
まぁ、憲兵隊ですら手に余る実力者らしいので、もしかしたらかなりのやり手かもしれないが
しかし、勇者であるこのオレの敵ではない
オレは既にいくつもの流派の剣技を極めているし、右手には未だ眠った力が封印されているんだからな
そうじんはオレの見届け人になってくれさえすればいい
今までの出現場所と、聞き込み調査により例の悪ガキたちには、双子のリーダー格がいて、近くの廃墟を根城にしているらしい
オレとそうじんは二人でその場所までやってきた
「おい、ここに街で悪さをしているクソガキ共がいるそうだな!」
オレは大きな声で奴らのアジトに叫ぶ
「そうそう兄、さすがにいきなり挑発はヤバイって」
そうじんは必死にオレに抗議をしてくる
「何言ってんだ、こんな陰険なとこ根城にしてる腰抜けに負けるはずはないだろ」
ヒュン
オレがそうじんの方を向いた隙を狙って矢が放たれる
オレは、咄嗟に右手を上げ飛んでくる矢を掴む
「そうそう兄!」
「心配するな、そうじん。こんなへなちょこな矢には当たらねえよ」
「ほう、妹の矢を掴むとは、あんたやるわね」
「お姉ちゃん、気をつけて」
「ふん、このとん姉ちゃんが負けるわけ無いでしょ」
廃墟の中から、大剣を背負った少女と弓を携えた少女を中心に、20人程度の武装した子供が出てきた
全員がちぐはぐな武器と防具をつけていることから、盗品を転用していることがわかる
オレは馬から飛び降り、中央に立つ少女をまっすぐ見つめる
「おまえが、ここの大将か」
「ああ、そうだ、あたしがこの超明媚華麗姉妹のリーダーだ」
「お姉ちゃん、いつも思うんだけど、その名前恥ずかしいよ。ほら、相手の人だってわけがわからなくて固まっちゃってるし」
妹らしき弓を持った少女が顔を赤くして叫んでいる
超明媚華麗姉妹だと、馬鹿な、たかだか盗賊風情がなんてかっこいい名前を付けるんだ、思わず感動で我を忘れてしまったじゃないか
くそっ、こんな形で出鼻をくじかれるとは
この女只者じゃねえ
だがオレの剣を前にして、まだその虚勢を張っていられるかな
「華麗姉妹、今日がお前らの命日だ、この俺の血染めの魔剣、ブラックウルフがお前らの血をすするぜ」
「そうそう兄、それってたまたま剣買ったときに黒い犬の人形がストラップでついてきただけ……」
「うるせえ、そうじんは黙ってろ!」
血染めの魔剣ブラックウルフだなんて、なんて強そうなの
あたしたちの名前もブラックシスターズにかえようかしら
しかし、この男魔剣を持ってるなんて只者じゃないわね
「お前、名前はなんていうんだ」
「あたしは紅蓮の大剣使いかこうとん! あんたの名前も聞こうか」
「俺の名前は、マスターそうそうだ」
二人は、お互いを見つめ合い、互いの武器に手をかける
先に動いたのはかこうとんだった
彼女は、自分の身長よりも大きな刀身にうまく体重を乗せ横薙に振りかぶってきた
そうそうは、バックステップでその一撃を躱し、さらに続けて放たれる二擊目を剣でいなしやり過ごす
「やるな」
「あんたこそ、あたしの必殺の二連撃を躱すとは、只者じゃないわね」
一回剣を交わすだけで、二人はお互いの力量を認め合っていた
そして、そうそう自身久しぶりに高揚する一撃だった
だからこそ疑問を持った、彼女程の力量を持つ者が、なぜ盗賊なんかをやっているのかを
「お前、これだけの力量があってなんで盗賊なんかやってるんだ」
「くっ、それはあんたに話すことじゃない」
ほんの一瞬だけ彼女の顔が曇る
「そうか、じゃあ勝ってからじっくりと聞いてやるよ」
「はっ、やれるもんならやってみな」
そこからはさらに激しい戦いが繰りひろげられた
かこうとんはさっきの連撃が様子見であったらしく、さらに早い攻撃を軽く十連擊以上叩き込んでくる
そうそうは、その全てを見切り、時にはいなし捌いていく
一見、かこうとんがそうそうを押しているようであったが、一振りごとに顔を歪めていくのはかこうとんの方であった
「くそっ、なんであたらない」
かこうとんが苛立たしげに声を上げる
「ふんっ、それはお前がオレよりも弱いからだ」
と、そうそうは涼しげに言い放つ
「そんなはずはない」
かこうとんは、必死に歯を食いしばりながら、そうそうの体めがけて大剣を打ち込んでいく
「ちっ、まだそんな力が残ってるのかよ」
そうそうは厄介そうに舌を打つ
「あたしは、あたしはこんなとこで倒れるわけには行かないんだ!」
かこうとんの叫びとともに大振りの一撃がそうそうに打ち込まれる
しかし、そうそうは剣の刃にもう一方の手を添え、かこうとんの一擊をそらし、そのまま無防備になった彼女に剣を振り下ろす
そうそうの剣がかこうとんに届く前に、黒い影が間に割り込んでくる
「もうやめてください! お姉ちゃんを殺しちゃだめ!」
目に涙をいっぱい貯め、必死に両手を広げてかこうとんの前に妹のかこうえんが立ちふさがる
「かこうえん、どけ! あたしは、こんなとこじゃ、負けない」
かこうえんに剣を向けたまま、そうそうは問う
「なぁ、なんでそこまでして戦うんだ」
「貴族の貴様に話すことなんかない」
「そんだけの力があれば、貴族はともかくそれなりの高位の兵士にもなれるだろう」
「あんたにはわかんないだろうけど、いくら強くても、女のあたしには偉くなることなんてできないんだよ。妹も、ここにいる子達だって、本当は盗賊なんかやりたくないさ。でも、貧民層出のあたしたちが出来る仕事は男の慰み者になるか、危険な仕事に就くしかない。だから、盗賊になるしかないだろ」
「なんだ、そんなもん」
そうそうが手にした剣を下げる
「くっ、やっぱ貴族のあんたにはわかんないでしょ」
悔しそうに、かこうとんは目を伏せる
その姿を見たそうそうは、かこうえんの横をすり抜け、かこうとんの胸ぐらをつかみ顔をこちらに引き上げて、訴える
「ああ、わかんないね、おまえらにとって不都合な世界なら、盗賊なんてくだらねえ事してないでお前らにとって住みやすい世界に変えようって、なんで思わないんだよ」
「なっ、そんなことできるわけ……」
強い拒絶の目でかこうとんがそうそうをにらみ返す
「出来る! オレが、このそうそうがそんな世界を作ってやるよ」
そうそうの目には炎がやどり、口元はニヤリと不敵な笑みをたたえる
「あんた、なんで」
「オレは勇者だからな、勇者は一生懸命生きている奴の味方だ、だからかこうとんお前オレの仲間になれ、他の連中もオレが面倒見てやる。オレと一緒に世界を変えようぜ」
「それを、信じろって言うの」
「別に信じねえっつうなら構わねえぞ、オレはオレの為に楽しい世界を創るだけだからな」
「ふっ、ふふっ、あはははは。いいわ、あたしの力をあんたに貸すわ」
「いいねえ」
かこうとんとそうそうは笑い合いながらがっちりと握手をした
ちなみに、あまりの突然な展開に、そうじんはオロオロするばかりであった




