第二話 何を隠そう、あたしはりゅーび様だ
結局、そのほか大阪や京都、日本、ロシア、アメリカと広げていったが、誰ひとりとしてその場所がわかる奴はいなかった
まさか、国名さえもわかんないとなると、俺はいったいどこにいるんだ
いっそ、夢であればいいとさえ思ったが
この世界に来てから、三秒で目の前の少女に夢でないこと証明されてしまった
あのえぐり込むような一撃は、ただものじゃねぇ
「じゃあ、聞き方が悪かった、ここはどこなんだ? 」
「ゆう州だ」
「ゆう…しゅう? 九州じゃなくて?」
「都から北にある地域のことだ。うーん、やっぱりお前は、どっか遠くから来た人間みたいだな」
ゆう州なんて一体どこにあるんだ
それよりもこれからどうするか
……でもなんか聞いたことあるんだよなぁ、ゆう州
「ところで、なぁ、おまえあたしの仲間にならないか? 」
「ちょっとお嬢、こんなどこの誰かもわかんないやつを仲間に引き入れるんですかい」
「うん。で、お前何か特技はあるのか?」
「強いて言うなら、成績は学年一位だったぞ」
「成績とは、武術のか? それにしては、ひょろそうだけど」
そう言うと、彼女はペタペタと俺の体を触ってくる
「武術ではない、んー、なんと言えばいいかな……そうだな、近い意味で言うなら教養に関して、教育を行う機関で一番の成績だった」
「なんと、あたしもすいきょー塾というとこに通っていたが、さっぱりわんなかったけどなぁ」
彼女は表情をころころ変えながら、すいきょう塾というところのことを思い出しているらしい
しかし、俺の学んだことがここで役に立つんだろうか?
まぁ、日本語が通じるということは、本やネット(はなさそうだけど)で情報を仕入れることもできそうだし、なんとかなるだろう
とにかく、この場所のことや元の場所に帰る方法を見つけなけりゃな
彼女の思い出しタイムが終了したのか、急に真面目な顔つきになって、何かを考え出したようだった
「なぁ、お前とりあえず当分は、行く当ても、やることもないんだよな」
「まぁ、そうだな」
「んー、じゃあお前は今日からあたしの軍師をやれ」
「軍師? 」
「そう難しく考えなくていい、さっきみたいにお前がおかしいと思ったことや、気づいたこと、そして役に立ちそうな知識があれば、あたしに教えろ」
「まぁ、それはかまわんが、そんなに俺のことを買いかぶっていいのか? 」
「わからん。でも、あたしは今まで人を見ることに関してはあたしのカンを信じて、失敗したことがない」
そう言ってまっすぐと俺を見つめる彼女の目は、とても15歳とは思えない程力強く、そして深い温かみをたたえるものだった
「おお、そういえば、お前の名前を聞いていなかったな」
「おれは、四道、四道公明」
「しどうきみあき……きみあき……言いにくい」
「言いにくいって言われてもなぁ」
「どういう字を書くんだ」
俺が、落ちてた石で名前を漢字で書く
「んー……こう…めい……! こーめー、うん、おまえはこーめーだ」
「いやいやいや、俺には」
「うるさい! あたしが決めた。今日からこーめーと名乗れ」
まぁ、別にあだ名だと思えばいいだろう
それにしても軍師か。カッチョいい響きだな
しかも、孔明とくればまるで三国志だな
これで、この少女が劉備だったら、面白いんだけどな
んなわけないけど
俺が、彼女に名前を聞き返そうとしたら、突然兵士たちの間から、帰ってきたぞという声が聞こえた
「おぉ、二人が戻ってきたか、ちょうどいい、二人とも早くこっちに来い」
「りゅうちゃんただいまー」
「ただいま戻りましたっ」
兵士のあいだを、おっとりしたメガネの女性と、やたら元気のいい青年が彼女の声に気づいてやってきた
「おかえり、かんう、ちょーひ」
なっ、関羽に張飛だって、そういえば幽州や水鏡ってのも聞いたことあると思えば
じゃあもしかして、コイツは
「じゃあ、お前の名前って、もしかして劉備とか言わないよな」
「ん? あたし名乗ったっけ。そうあたしはこの大陸の王者の血を引く一族の末裔りゅうび様だ」