第十一話 軍師こーめー
「くそっ、くそっ、くそっ」
天幕帰ってきてからりゅうびの口から漏れるのは、自分たちの成果が評価されない憤りと、馬鹿にされたことに対する怒りのみだった
「ちょっと、りゅうちゃん落ち着いて、何があったの」
りゅうびの異常に気づいたちょうひが優しく問いかける
同じ頃、こーめーもまた、自分の天幕に戻りふさぎ込んでいた
「小僧の様子を見ると、会議はあまりいいものではなかったようだな」
かんうさんがいたわりげに聞いてくる
「かんうさん、俺、気付けなかった、俺、りゅうびに軍師って言ってもらえて、みんなで肉団子捕まえて調子に乗ってたんだと思います。もっと深く考えれば、あの場になんでりゅうびが呼ばれたのかも気付けたはずなのに、どこかで油断してたんだと思います」
俺はかんうさんに思いのたけをぶちまけた
どこかで、この世界をリアルに感じていなかったんだと思う
りゅうびとやってけば何でもうまくいくと勘違いしていた
「なぁ、小僧。私はまだお前のことは信用していない」
かんうさんが、厳しい言葉を浴びせてきた
まぁ、俺みたいな若造が途中から現れて、作戦にいろいろ口出しすれば当然か
「私が信じるのは、りゅうび様のみだ」
ああ、りゅうびは凄い、なんだかんだ言ってあいつの周りにいるやつは皆あいつに命すら捧げてしまうほど、りゅうびのことを信頼している
俺はその尻馬に乗ってるに過ぎない
「やっぱり、俺では役不足ですよね……」
「だから、私はりゅうび様が信じたお前を信じている、こーめー、お前は軍師だろ! 何を悩んでいる、考えるのはお前の仕事だ、りゅうび様の期待を裏切るんじゃない、さぁ、前と同じように道を示せ、後は私が命に変えてりゅうび様の為に切り開いてやる」
かんうさんは、俺の言葉を遮り、力強く言い放った
俺は、金槌で頭をガツンと打たれた気分だった
そう、もう昔みたいにただの人形じゃない
俺を必要としてくれる奴がいるんだ
できる限りやってやる
俺が孔明を演じてやろうじゃないか
「かんうさん、ありがとうございます」
「ふっ、いい目になったな、こーめー」
かんうさんに礼を言うと、俺は天幕から飛び出していった
そこにはさっきまで虚ろな顔をした男はいなかった
こーめーは晴れやかな顔で駆けていった
「なるほど、そんなことがあったんだねー」
ちょうひはりゅうびに、事の顛末を聞き、納得したように頷く
「鶏巾族は約10万、それにあたしたちは10分の1の兵力で挑まなきゃいけないんだ。それも半分は素人の軍で」
「こうそんさんさんは、どうするんですか? 」
「あいつは、お前らはと一緒に戦うのは無理だ。僕たちの軍で、何とか連合軍の本隊が来るまで耐えるといって、自分の天幕に戻ってしまった」
りゅうびは無念そうにそう言う
実際、今の彼女がこうそんさんにしてやれることなどない
いくら武勇があろうとも、わずか30人では逆にこうそんさんの足を引っ張りかねない
「そうなんですか」
「くそっ、あたしはなにもできない、30人程度のあたしたちでは……くそっ、あたしはこんな思いをするために」
「おい、待てよ、りゅーび!」
走ってきて、息は乱れているが、俺は力強く彼女の名を呼ぶ
「こーめー? 」
俺のことを確認すると、りゅうびは慌てて目元を袖でごしごしとぬぐい、俺の方を見る
「何泣いてんだよ、それでも皇帝の末裔か」
「くっ、泣いてなどおらぬ、しかし、あたしたちじゃあ」
「あきらめんじゃねぇ! それに、考えるのは俺が担当だろ」
俺はりゅうびを叱咤する
「だがっ 」
しかし、彼女も引かない
だから
「我に策ありだ」
と、俺はニヤリと笑い、りゅうびにそう言い放った




