りある☆どらくえ
「お前、武器持たんの?」
「俺はいいよ。」
村の幼馴染4人でパーティーを組んだわけだが、俺以外は全員戦士だ。
こん棒と呼ばれる木製バットを装備した3人は、家庭ゴミの袋を啄ばんでいる、大烏に攻撃を仕掛ける。
3人の集中攻撃を嘲笑うかのように、ひらりと身をかわした大烏。
攻撃が大きく空振りした3人は、カウンター攻撃を受けることを覚悟したが、大烏は何事も無かったかのように淡々と空へと逃げた。
「あちゃー、また逃げられてしまったよ。」
「僕たち、全然経験値が上がらないね。」
「次こそやっつけようね。」
悔しがる3人には申し訳ないのだが、俺は戦闘に参加することがほとんど無い。
初めから武器も持たずに、仲間の3人が戦っている際は口笛を吹いている。
俺は戦士では無い。遊び人だ。
もちろん、ただ遊ぶのが楽しいと言う理由だけで、仲間に同行している訳ではない。
仲間3人にとって、俺は単なる人数合わせであるかもしれないが、俺には目標がある。
そう、俺は賢者になりたいのだ。
賢者になるための下積みとして、遊び人を務めているのである。
ああ、なんと言う崇高な理念。そして崇高な理念を周りに理解されず、お前は使えないと反感を買う俺、カッケー。
幼馴染4人で組んだパーティーは、飛ぶ鳥も落とす勢いで成長を続け、遂に魔王を退治した。
と言うハッピーエンドを迎えたかったのだが、その夢は儚くも崩れ去り、パーティーは解散した。
何があったのかと言うと、ある日レベルアップを意図し、村を出て山中でモンスターを探していたのだが、そこへサソリバチならぬミツバチが現れた。
いつものように俺以外の3人がこん棒でミツバチに襲い掛かったのだが、ミツバチは素早く身をひるがえし、3人の内の1人の首筋に痛恨の一撃を食らわせた。
彼は瀕死に値するダメージを受けたのか、しゃがみこんで泣き出した。
俺たちは村へと敗走した訳だが、ミツバチに刺された彼は、もう冒険なんてしたくないとわめき、パーティーは全会一致で解散した。
懐かしい思い出だ。
かつてパーティーを組んだ村の戦士3人は、現在は立派な企業戦士として東京で奮闘している。
彼らとは今でも親交があり、よく会社での話を聞く。
3人の内の1人は、通勤先のクソ上司をメラゾーマと言う魔法で燃やしたいのだそうだ。
さらに別の1人は部下を教育しているみたいなのだが、どうやらその部下がかなりのやり手だそうで、マヌーサと言う魔法をかけてくるため、面と向かって説教してもまるで通じないとのことだ。
さらに別の1人で、かつてミツバチに刺されて泣きじゃくった彼は、あまり魅力的な会社に就職出来なかったらしく、ザオラルと言う魔法で人生を取り戻したいと言っている。
3人とも、戦士なので、魔法を使って自分を癒すことは出来ない。
もちろん企業には、ホイミと言う心身を癒す魔法を使うことの出来る、女性社員が点在する(最近は減ってきているらしい)が、彼女たちのマジックポイントは専ら、取引先や上司のために使われてしまうため、企業戦士が心身を回復させる最良の手段は家で寝ることだったりする。
「みんな大変だな。頑張れよ。」
「「「お前が頑張れ!」」」
4人で再開して会話をすると、いつもこのように俺が叱られる。
「え?俺?、お前らと会うことが減ってからも遊び人を貫いてるよ。それでだ……、」
俺は遂に今までの努力が報われたかのような満面の笑みで告白する。
「遂に遊び人として一人前のレベル20になったぜ!」
「「「おめでとう!」」」
どうやら3人共、レベル20の遊び人の特権を知っているらしい。
俺の今後の人生が楽しみで仕方ないのだそうだ。
「俺がここまでこれたのもお前らのおかげだよ。ありがとな。」
あいつら、企業戦士大変そうだったな。
だいぶ世話になったし、俺の魔法でどうにかしてやりたいな。
俺が魔法を覚えて助けてやるから、それまで持ちこたえてくれよ。
俺は今、彼ら3戦士に対する感謝の念で満たされている。
感謝の念を持って、俺は遊び人から賢者へと転職する。
さあ、行こう。ダーマ神殿と言う名のハローワーク。