個体差における行動時間の調整法案
「個体差における行動時間の調整法案は可決成立しました!」この瞬間、この国のあらゆる方向性が変わった。
「ぴんぽんぱんぽん~まもなく夕方の十八時を迎えます。昼行性人間の皆様方は、すみやかに御帰宅してください。夜行性人間の皆様方は、すみやかに通勤もしくは通学をなさってください」十八時を迎えるころ、このアナウンスが流れるのも、ありふれた光景になってしまった。
都内某所荒巻宅
「パパ!お帰りなさい。じゃあ学校行ってくるね」
十三歳になる息子は中学校に向かう。
「あぁ、車に気を付けてな」息子の頭を撫でた。
「うん」
「お帰りなさい」妻も出てきた。
「ただいま」
「ご飯は用意しています。私今から仕事だから」
「あぁ、車に気を付けてな」
「大丈夫よ。子供じゃあるまいし」妻は苦笑いをする。
「最近、調整法を無視した運転手も多いらしいからな」俺はネクタイを緩める。
「えっそうなの?怖い」妻は眉間にしわを寄せる。
「あぁ」
俺はスーツをハンガーにかけ、ニュースをつけた。
「速報です。先ほど調整法を無視し事故を起こした運転手が書類送検されました。現場の天満さん」
「はい!天満です。調整法を無視した運転手が、事故を起こした現場がこちらです」
「少し複雑な交差点ですね」
「はい!調整法以前は、こちらの交差点では、毎年一件程度の事故が起きていましたが、施行後はゼロを保ち続けていました」
「つまり、調整法が成果を出した事を、皮肉にも証明してしまったと」
「そうなりますね。この運転手は、調整法撲滅委員会というWEBサイトを運営しており、調整法に反対していたそうです」
「なぜ調整法に反対を?」
「WEBサイトによると、俺はもっと働きたいと主張していました」
「働きたいですか……、わかりました」
(ぷるるるる)携帯電話がなった。
「はい!」
「荒巻さん。すみません」
「なんだ。児玉か。どうした?」
「調整法を無視した運転手が、事故を起こした件。ご存じですか?」
「あぁ、今ニュースを見た」
「それで、今株価が暴落してまして」
「今なんと?」
「株価が暴落ですよ」
「なぜ?」
「原因はわかりません。ただ……、事故を起こした運転手の勤め先の運送会社が発端となり、その関係の会社が連鎖的に」
「意味がわからんな」
「ほら。調整法で株式市場がフルタイム稼働になったじゃないですか」
「あぁ。しかし、それがなぜ?」
「わかりません。しかし会社の方にも、売りが殺到していまして」
「値幅制限は……、そうか先月撤廃されたのか」
「それで主幹事証券がうちで……、もうわかりますよね」
「誰が担当していた?」
「中田さんですよ。調整法以前に過労で亡くなった」
「あぁ彼か……」
「じゃあ、運転手の会社ってB社か?」
「はい」
「それで?仕事には出られんぞ」
「それはもちろんです。ただ部長が伝えておけと」
「そうか……」
「状況はメールに添付してあります。僕の顧客も結構B社株持ってる人が多いんで」
「ちょっと待ってくれ。あぁ……」
「どうしました?」
「忘れてた。義理の父がB社株、多量に買ってくれたんだ」
「あぁ、それはきついですね」
「買い戻しがあるのを祈るしかないな」
「はい。では」
俺は食事を温めなおす。野菜のたっぷり入った味噌汁は、煮込まれ多少塩辛くなっていたが、疲れた身体にはちょうど良かった。食事を終え、食器洗い機に洗い物をセットし、シャワーを浴びる。調整法案成立前は、毎日風呂に入ったが、調整法案成立後は、シャワーだけになった。にぎやかだったマンションは、俺一人の孤独な空間となる。寂しいという気持ちと、妻とずっといたいという気持ちから結婚したが、独身時代に戻ったようにも感じる。やることがないので、俺はストレッチをし、眠りについた。
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「ぴんぽんぱんぽん~まもなく夕方の十八時を迎えます。昼行性人間の皆様方は、すみやかに御帰宅してください。夜行性人間の皆様方は、すみやかに通勤もしくは通学をなさってください」いつものアナウンスが鳴る。
「おはよう!」ワシは元気に挨拶をする。
「社長!おはようございます。うちらは帰ります。資料まとめてますので、あと郵便物がたくさんあるんで、頼みます」総務部長は頭を下げた。
「はいはい!お疲れさん。また明日頼むで」
「はい!」総務部長は帰っていった。工場を見に向かう。夜勤の皆もちゃんと出社している。
「社長!おはようございます」
「田口君やんか。元気か」
「はい!元気です」
「田口君。前はよう遅刻してたけど、最近は遅刻してないって?」
「はい!毎日夜勤になってから、調子が良くって。社長も前よりお元気そうですよね」
「そうやな。夜型やとは思ってたけど、夜行性人間、あれホンマっぽいな」
「少なくとも、俺は集中力続いてますね」
「ワシもや。郵便局いかんとあかんねん。じゃあ頑張ってな」
「はい」
ワシは郵便局に向かう。ワシは郵便局の中を一瞥した。受付の局員に「おはよう」と声をかけた。
「おはようございます」局員は笑顔で答える。
「切手多量にいるんやけど」「はい。お聞きします」局員はメモを取りだす。
「なぁ記念切手のシートあるやろ。その切手は額面通りなんか?」「はい!そうです」「それを貰うわ」「いろいろありますけど、どれにしましょう」
局員は記念切手のシートを取り出してきた。「君のところが捌きたいやつでいいわ」「いいんですか?」「ちゃんと届くやろ」「そりゃもちろん」「ほなそれで良いで」「はい!ありがとうございます」「これ足りん分は差額の切手買って貼ったらいいんやね」「そうですよ」「この封筒でいくら?」「これなら記念切手のシート一枚でいけます」「あぁそう。これシールなんや」「はい」
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