恋愛ゲームの推しに激似のイケメン客に、「大福温めますか?」と声をかけたモブは私です。
こんにちは!沢山の作品の中から見つけていただき、ありがとうございます。
本作完結型、サクッと読める短いお話となっております。
読者様のスキマ時間のお供にして頂けると嬉しいです。
今日は教室で嫌なことがあった。
昼休み。
クラスの女子たちが楽しそうに話している輪の中で、ふと私のスマホ画面が見られた。
そこに映っていたのは、恋愛ゲームのホーム画面。
私が大好きなキャラクターだった。
「えー、恋愛ゲームしてんの?」
誰かが笑う。
続いて別の子が軽い調子で言った。
「きも」
たった二文字。
きっと本人たちに悪気なんてなかった。
冗談のつもりだったのかもしれない。
だけど、その言葉は思った以上に胸に刺さった。
私は曖昧に笑って誤魔化した。
何も言い返せなかった。
二次元で夢を見るのがそんなにおかしいことなのだろうか。
好きなキャラクターを見て元気をもらって。
辛い日を乗り越えて。
それの何が悪いんだろう。
誰にも言えないまま、
そのモヤモヤだけが胸の中に残った。
⸻
部活でも嫌なことがあった。
片付けをしている時だった。
先輩たちの話題で盛り上がっていた同級生たちが急に声を上げる。
「原田先輩、彼女できたらしいよ!」
「えっ、本当?」
「一年三組の子だって」
「えー! 私ちょっと狙ってたのにー!」
楽しそうな声。
笑い声。
私は黙ったまま雑巾を洗っていた。
好きだった。
原田先輩のこと。
優しくて。
後輩にも気さくで。
部活中は真面目で。
そんなところが好きだった。
でも結局、
彼女になったのは同じ学年でも有名な美人だった。
クラスの中心にいるような子。
誰からも好かれている子。
眩しい人。
私は違う。
話題の中心になったことなんてない。
誰かの憧れになったこともない。
噂話を聞く側だ。
いつだって。
⸻
これからコンビニのバイト。
今日は体調不良のパートさんの代わりに入ることになっていた。
本当なら休みの日。
正直、行きたくなかった。
朝から嫌なことばかりだ。
きっと。コンビニでも嫌なことがある。
今日はそういう日だと決まってる。
考えれば考えるほど気持ちが沈む。
人と関われば関わるほど、
自分がどんどん嫌いになる。
卑屈になっていく。
そんな自分が嫌だった。
何も考えたくなかった。
⸻
重い足取りでコンビニへ向かう。
更衣室で制服に着替える。
鏡に映る自分を見る。
特別可愛いわけでもない。
普通。
いや、普通以下かもしれない。
そんな考えがまた浮かぶ。
「お疲れ様」
店長が声を掛けてきた。
「ごめんね、急に」
「いえ。全然大丈夫です」
口ではそう言った。
笑顔も作った。
でも本当は全然大丈夫じゃなかった。
今日は誰とも会いたくなかった。
⸻
レジに立つ。
「いらっしゃいませ」
商品を受け取る。
バーコードを読む。
会計をする。
袋に入れる。
ただそれだけ。
機械みたいに仕事をこなしていく。
お金をもらっているんだから、
ちゃんとやらなきゃ。
給料が入ったら課金しよう。
新しいイベントも始まるし。
推しの限定カードも欲しい。
そう思うと少しだけ気持ちが軽くなった。
ゲームの中の私の彼。
グレージュのマッシュヘア。
耳元の小さなピアス。
クールなのに、主人公の前では猫みたいに甘える。
浮気もしない。
裏切らない。
私だけを見てくれる。
そんな存在。
現実にはいない。
だから唯一の癒しだったし、好きだった。
⸻
「お願いします」
不意に声がした。
顔を少しだけ上げる。
商品を持った男性客が立っていた。
店員に挨拶だなんて、丁寧な人だな。
そう思いながらカゴを見る。
新発売の大福と缶コーヒー。
たった二点。
少ないな。
そう思って顔を見上げた瞬間だった。
思考が止まる。
ドクン。
心臓が大きく鳴った。
サラリと揺れるグレージュの髪。
眠たそうな瞳。
整った顔立ち。
どこか気だるげな雰囲気。
無表情なのに妙に目を引く。
そして。
似ている。
あまりにも似ている。
ゲームの中の彼に。
完全一致だった。
⸻
レジを打つ手が止まる。
目が離せない。
すると青年が少し首を傾げた。
「……あの」
低く落ち着いた声。
「何か?」
「はっ!」
変な声が出た。
終わった。
完全に終わった。
不審者みたいだった。
慌ててレジを操作する。
心臓がうるさい。
近くで見ると余計にイケメンだ。
芸能人?
モデル?
何なのこの人。
⸻
混乱したまま商品を手に取る。
そして。
私は人生最大級の失言をした。
「こちら温めますか?」
持っていたのは大福だった。
言ってから気付く。
脳内で自分の発言が再生される。
温めますか?
大福を?
何言ってるの私。
青年はぽかんとした。
数秒の沈黙。
そして。
ふっと笑う。
「……いや、それはダメになるでしょ」
「ハッ!」
顔が一気に熱くなる。
消えたい。
穴があったら入りたい。
今すぐ。
「し、失礼しました!」
思わず九十度くらい頭を下げる。
青年は小さく肩を揺らした。
笑っている。
先ほどまで無表情だった顔が少しだけ柔らかくなっていた。
その笑顔を見た瞬間。
私はまた固まった。
可愛い。
いや違う。
男の人に可愛いは変かもしれない。
でも可愛かった。
反則だった。
なんとか会計を終える。
袋を渡す。
青年は受け取って軽く会釈した。
「ありがとうございました」
私はいつもより大きな声で言った。
青年は少し驚いた顔をして、
それから小さく頭を下げる。
自動ドアが開く。
そして出ていった。
⸻
静かになったレジ前。
私は大きく息を吐いた。
「あー……」
やってしまった。
絶対変な店員だと思われた。
大福を温めますかって何。
意味が分からない。
やっぱり嫌なことがあった。
思った通りだ。
結局ダメな日はずっとダメな日だ。
でも。
学校での嫌な出来事とは少し違った。
胸の奥が少しだけ温かい。
ほんの少しだけ。
沈んでいた気持ちが浮かび上がっている。
不思議だった。
名前も知らない人。
もう会わないかもしれない人。
それなのに。
さっきまで嫌なことでいっぱいだった頭の中が、
その人のことで埋まっていた。
気付けば口元が少し緩む。
「また来てほしいな……」
小さく呟く。
もし次に会えたなら。
今度はちゃんと笑顔で接客しよう。
大福を温めたりしない。
変な声も出さない。
少しだけ髪を整えて。
少しだけ可愛くして。
そして
もう一度
あの笑顔を見られたらいいなと思った。
沢山の作品の中から、本作品をご覧頂き、本当にありがとうございました!
こちらは現在連載中の(2026/07/07地点)別作品『リアルとゲームのギャップが凄いが何故か絵になる美男美女』の第5話 コンビニでの場面を少しだけ切り取って短編にした作品です。
メインストーリーとは全く主人公が異なります。
このお話に出てくる青年がメインキャラクター側です。
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そちらも合わせてご覧いただけると嬉しいです!
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