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恋愛ゲームの推しに激似のイケメン客に、「大福温めますか?」と声をかけたモブは私です。

作者: 小春日和
掲載日:2026/07/07

こんにちは!沢山の作品の中から見つけていただき、ありがとうございます。


本作完結型、サクッと読める短いお話となっております。


読者様のスキマ時間のお供にして頂けると嬉しいです。



今日は教室で嫌なことがあった。


昼休み。


クラスの女子たちが楽しそうに話している輪の中で、ふと私のスマホ画面が見られた。


そこに映っていたのは、恋愛ゲームのホーム画面。


私が大好きなキャラクターだった。


「えー、恋愛ゲームしてんの?」


誰かが笑う。


続いて別の子が軽い調子で言った。


「きも」


たった二文字。


きっと本人たちに悪気なんてなかった。


冗談のつもりだったのかもしれない。


だけど、その言葉は思った以上に胸に刺さった。


私は曖昧に笑って誤魔化した。


何も言い返せなかった。


二次元で夢を見るのがそんなにおかしいことなのだろうか。


好きなキャラクターを見て元気をもらって。


辛い日を乗り越えて。


それの何が悪いんだろう。


誰にも言えないまま、


そのモヤモヤだけが胸の中に残った。



部活でも嫌なことがあった。


片付けをしている時だった。


先輩たちの話題で盛り上がっていた同級生たちが急に声を上げる。


「原田先輩、彼女できたらしいよ!」


「えっ、本当?」


「一年三組の子だって」


「えー! 私ちょっと狙ってたのにー!」


楽しそうな声。


笑い声。


私は黙ったまま雑巾を洗っていた。


好きだった。


原田先輩のこと。


優しくて。


後輩にも気さくで。


部活中は真面目で。


そんなところが好きだった。


でも結局、


彼女になったのは同じ学年でも有名な美人だった。


クラスの中心にいるような子。


誰からも好かれている子。


眩しい人。


私は違う。


話題の中心になったことなんてない。


誰かの憧れになったこともない。


噂話を聞く側だ。


いつだって。



これからコンビニのバイト。


今日は体調不良のパートさんの代わりに入ることになっていた。


本当なら休みの日。


正直、行きたくなかった。


朝から嫌なことばかりだ。


きっと。コンビニでも嫌なことがある。


今日はそういう日だと決まってる。


考えれば考えるほど気持ちが沈む。


人と関われば関わるほど、


自分がどんどん嫌いになる。


卑屈になっていく。


そんな自分が嫌だった。


何も考えたくなかった。



重い足取りでコンビニへ向かう。


更衣室で制服に着替える。


鏡に映る自分を見る。


特別可愛いわけでもない。


普通。


いや、普通以下かもしれない。


そんな考えがまた浮かぶ。


「お疲れ様」


店長が声を掛けてきた。


「ごめんね、急に」


「いえ。全然大丈夫です」


口ではそう言った。


笑顔も作った。


でも本当は全然大丈夫じゃなかった。


今日は誰とも会いたくなかった。



レジに立つ。


「いらっしゃいませ」


商品を受け取る。


バーコードを読む。


会計をする。


袋に入れる。


ただそれだけ。


機械みたいに仕事をこなしていく。


お金をもらっているんだから、


ちゃんとやらなきゃ。


給料が入ったら課金しよう。


新しいイベントも始まるし。


推しの限定カードも欲しい。


そう思うと少しだけ気持ちが軽くなった。


ゲームの中の私の彼。


グレージュのマッシュヘア。


耳元の小さなピアス。


クールなのに、主人公の前では猫みたいに甘える。


浮気もしない。


裏切らない。


私だけを見てくれる。


そんな存在。


現実にはいない。


だから唯一の癒しだったし、好きだった。



「お願いします」


不意に声がした。


顔を少しだけ上げる。


商品を持った男性客が立っていた。


店員に挨拶だなんて、丁寧な人だな。


そう思いながらカゴを見る。


新発売の大福と缶コーヒー。


たった二点。


少ないな。


そう思って顔を見上げた瞬間だった。


思考が止まる。


ドクン。


心臓が大きく鳴った。


サラリと揺れるグレージュの髪。


眠たそうな瞳。


整った顔立ち。


どこか気だるげな雰囲気。


無表情なのに妙に目を引く。


そして。


似ている。


あまりにも似ている。


ゲームの中の彼に。


完全一致だった。



レジを打つ手が止まる。


目が離せない。


すると青年が少し首を傾げた。


「……あの」


低く落ち着いた声。


「何か?」


「はっ!」


変な声が出た。


終わった。


完全に終わった。


不審者みたいだった。


慌ててレジを操作する。


心臓がうるさい。


近くで見ると余計にイケメンだ。


芸能人?


モデル?


何なのこの人。



混乱したまま商品を手に取る。


そして。


私は人生最大級の失言をした。


「こちら温めますか?」


持っていたのは大福だった。


言ってから気付く。


脳内で自分の発言が再生される。


温めますか?


大福を?


何言ってるの私。


青年はぽかんとした。


数秒の沈黙。


そして。


ふっと笑う。


「……いや、それはダメになるでしょ」


「ハッ!」


顔が一気に熱くなる。


消えたい。


穴があったら入りたい。


今すぐ。


「し、失礼しました!」


思わず九十度くらい頭を下げる。


青年は小さく肩を揺らした。


笑っている。


先ほどまで無表情だった顔が少しだけ柔らかくなっていた。


その笑顔を見た瞬間。


私はまた固まった。


可愛い。


いや違う。


男の人に可愛いは変かもしれない。


でも可愛かった。


反則だった。




なんとか会計を終える。


袋を渡す。


青年は受け取って軽く会釈した。


「ありがとうございました」


私はいつもより大きな声で言った。


青年は少し驚いた顔をして、


それから小さく頭を下げる。


自動ドアが開く。


そして出ていった。



静かになったレジ前。


私は大きく息を吐いた。


「あー……」


やってしまった。


絶対変な店員だと思われた。


大福を温めますかって何。


意味が分からない。


やっぱり嫌なことがあった。


思った通りだ。


結局ダメな日はずっとダメな日だ。


でも。


学校での嫌な出来事とは少し違った。


胸の奥が少しだけ温かい。


ほんの少しだけ。


沈んでいた気持ちが浮かび上がっている。


不思議だった。


名前も知らない人。


もう会わないかもしれない人。


それなのに。


さっきまで嫌なことでいっぱいだった頭の中が、


その人のことで埋まっていた。


気付けば口元が少し緩む。


「また来てほしいな……」


小さく呟く。


もし次に会えたなら。


今度はちゃんと笑顔で接客しよう。


大福を温めたりしない。


変な声も出さない。


少しだけ髪を整えて。


少しだけ可愛くして。


そして


もう一度


あの笑顔を見られたらいいなと思った。

沢山の作品の中から、本作品をご覧頂き、本当にありがとうございました!


こちらは現在連載中の(2026/07/07地点)別作品『リアルとゲームのギャップが凄いが何故か絵になる美男美女』の第5話 コンビニでの場面を少しだけ切り取って短編にした作品です。

メインストーリーとは全く主人公が異なります。

このお話に出てくる青年がメインキャラクター側です。

もしご興味を持って頂けたら、

そちらも合わせてご覧いただけると嬉しいです!

☆評価やコメント、スタンプによる反応があると作品作りの励みになります。

どうぞよろしくお願いいたします。




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