【ゆいこのトライアングルレッスンM】 〜Mystery Marble〜
休みの日に私の家に遊びに来たむっくんは、読書感想文の宿題の話をしていて、ふと、小学生の頃に読んだミステリー小説を思い出したらしく
「ゆいこ姉ちゃんにも読んでほしい!」と言い出した。
「もう仕方ないなぁ、ゆいこお姉ちゃんがいいところに、連れてってあげる」
「どこに行くんだよ?本屋?」
「ふふっ内緒!」
バスに揺られながら少し不機嫌そうなむっくんに視線を移す。
「ゆいこ姉ちゃんまだ?」
「もうすぐだから待ってて」
中央図書館前〜次止まります。
バスのアナウンスが聞こえて、私はむっくんに「ここで降りるよ〜」と促した。
「なんだ、図書館。本屋じゃないんだ」
最近、ひろしとたくみと勉強会をする場所は決まってここになっていた。
だから今日もいるはず。
「おぉゆいこ、今日はむっくんと一緒なんだな!」
「ゆいこ、むっくんと何の本を探しに来たんだ?それとも勉強を教えるのか?」
「あのね、ミステリー小説を探しに来たの!」
「ミステリー小説?」
「どんなのだ?」
「なんだっていいだろ?ワクワクするやつだよ!」
「ずいぶん抽象的だな。」
「作家は?タイトルとか覚えてないのか?」
「いいよ、自分で探すから、行こ?ゆいこ」
「うぇっ?あっちょっと〜」
小さい手が私の手を強引に引っ張って歩き出す。
「ねっむっくん、待って、司書さんにどこのコーナーにあるか聞いてみない?」
「それも、そっか…」
ミステリー小説が置いてある棚に司書さんは、案内してくれた。
「どうかな?見覚えのある背表紙とかタイトルある?」
むっくんは屈んだ体勢で下から順に棚の本を見ていた。段々と姿勢を正していって一番上の棚を見ようとして背伸びをしたり、ぴょんぴょん跳ねたりしている。
見かねた私はつい、むっくんの両脇に手を入れて持ち上げてしまった。
「うわっ何?ゆいこ姉ちゃん何するんだよ!」
「だってこうしたら探しやすいかなと思って。ダメだった?」
「…ダメじゃないけど、びっくりした」
「ありそう?」
「待って、これだ!あった!」
それは金色の装丁のキラキラした本だった。
棚からようやく引っ張り出したその時、ひろしとたくみは心配そうに私たちに近づいてきた。
「ゆいこ、何、むっくんを抱っこしてんだよ!」
「公共の場で抱っこしなくても俺たちが脚立に乗れば取れただろ?」
「あっそっか、たくみ、ひろし、ごめん!むっくん、大丈夫だった?」
ゆっくりと抱えていたむっくんを降ろす。
「…大丈夫。でも、もう子ども扱いすんなよな!」
むっくんは、するりと私の腕から抜けてお目当ての本を持って借りる手続きをしていた。
帰りのバスで、むすっとしているたくみとひろし、そして、照れつつ本を差し出すむっくん。
私は、そんな三人を不思議そうに眺め、こんな他愛もない日常がずっと続けばいいのにと思った。




