初陣1
3割
新兵が初陣で生き残る確率らしい
これを高いとみるか、低いとみるか
まずは、シンプルに数字としてだけ見てみよう
絶対論で行けば、5割を切っているのだ。低いだろう。
基準が無い以上、単純な数字で高い低いを見ることは難しい
では、次は視点を変えて、費用対効果の面でメリットコストを比べて見よう
新兵とはいえ、最前線に配属するためには最低限の訓練は必要だ
その兵士を集める工数、教官の指導工数という名の人件費
最低限の装備の作成費用、それに伴う加工工数、原料の採取工数
ザッと考えてみただけでもかなりのコストがかかっている
一方で、劇的に戦局が動く戦場など稀だ
当然、小競り合い程度では領土や賠償金を得られるわけもない
つまり、リターンはほぼ0なのにコストはかかる
実に、かけたコストの7割が無に帰すのだ。
その人材が他の何かに従事してたら得られたであろう機会損失まで含めたら、
その損害は計り知れない
つまるところ、確実にコストの方が大きい。メリットも小さい
そのほかにもいくつかの仮定はできるが、そのどれもが答えは同じだ
確率としては低く、メリットも少ない
座学の時間では、ぼんやりとそんなことを考えていた気がする
けれど、いざこうして最前線に立ってみた感想としては、
それは非常に高い数字に思う
地面に目線をやれば地平を埋め尽くすほどの人間が所狭しと殺しあっている
空を見上げれば様々な属性の魔法が飛び回り、破裂音や雷鳴が轟いている
これらは、死だ。
触れただけで命を奪う”死”だ
見渡す限りの死が溢れる戦場で、命を拾える場所が3割もある
少なくとも、今の僕の眼には1割だってそんな場所があるようには見えない
なるほど、実戦という基準に照らし合わせるならば、3割は高い数字であり、
訓練や装備があるからこそ、3割が生き残れている
戦争とはそういうものだと知れば、なるほど、3割とは規格外に高い確率だろう
これから足を取られる目の前の地獄を眺めながら、不思議なほど冷静にそう思った。
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行軍の途中、今回の作戦の説明があった
曰く、帝国が国境付近に大量の兵士を配置、こちらに進行の意志ありとの報告が入った
それに応じる形で弊国レイドも兵士を展開中、
僕らが合流する師団が最後の一団であり、本隊と合流次第迎撃の布陣を整える算段とのこと
…通常であれば、宣戦布告さえしてしまえば、こちらの軍の展開を待つ必要などない
こちらの諜報網をかいくぐり、電撃作戦が成功した時点で、相手の勝ちだ
体制の整わないこちらを数の暴力で押しつぶせばいい
つまるところ、これは定期的にあるパフォーマンス
お互いがお互いを攻める意思がありますよと国内外に向けてアピールするためだけの
よくある、形だけのにらみ合いだ
大方、両軍の布陣が固まったところで、一昼夜程度待機して、解散になるのだろう
そんな事を考えながら行軍していると、小高い丘の上に布陣する本隊らしき集団を見つける
行軍速度があがり、合流にむけて双方の伝令が接触する
…刹那、丘の反対側に眩い光が上がり、少し遅れて轟音が響く
「なっ…!?炎の大魔法!?どこから!?」
指揮官が動揺の声を上げ、丘の上まで部隊を移動させる
眼下の平原には、まさしく地獄が広がっていた
待機しているはずの両軍は敵陣に向かって突貫し、今まさに先端の火ぶたが切って落とされていた
そしてその兵士だまりに魔法の嵐が降り注ぐ
火球が着弾した地面は大きくえぐれ、雷が直撃した地面の周辺は見るも無残に焼け焦げている
あちらこちらで地面が隆起し兵士を案山子のようにつるし上げ、
そうかと思えば真正面から巨大な津波が全てを押し流す
自分が指揮官だったなら、この状況でどうしただろうか。
敵は大陸最強と名高い帝国軍。数でも、質でもこちらは負けている
正面からぶつかればどうなるか、火を見るよりも明らかだ
加えて、こちらはまだ戦場と少しの距離があり、高台という地の利も得ている
撤退だ。考えるまでもない。
人的資源を大切に思うのならば、すぐにでも撤退すべきだ
ただ、まぁ、
「全軍!!突撃準備!!!友軍を救うのだ!!!」
指揮官が怒号のような声を挙げる
そうだろう。師団規模の指揮官となれば、大なり小なり貴族の血筋だ
友軍を救うという義信に刈られてか、敵前逃亡なぞしたら自身の名声が地に落ちるという保身か、或いは単純に腕試しをしたいだけか
“力”を持つ者が、逃げるという選択をとることはないだろう
それが、貴族という生き物だ
理解できないが、理解はできる。知恵は否定しても知識はそうだと知っている
悲しいかな、この世界ではそんな現実的な思考は必要とされていないのだ
まもなく、軍団が1つの生き物のように地獄に向かって突貫する
走らねば、後続に踏みつぶされるだけ
まるで人の監獄に囲われるように僕も最前線に突入するのだった




