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学園生活5

「貴様ら!!何を勝手にしているか!!!」

嫌に響く雑音が耳に届く

そして遅れて聞こえるドスドスという重い足音

振り返るまでもなく、カゲツとシンクロしたように溜息を漏らす


「揃っているなクズども!!今日もこのオレが貴様らを鍛えてやる!

 戦場で生き残るために、ありがたくその身体に叩き込めよ!!」

剥げ上がった頭をした中年小太りの男が大声を張り上げる、

そう、こいつこそが、この戦闘訓練の担当教師だ


仰々しく背負った大剣は刃こぼれが酷く、ろくに手入れもされていないだろうことが分かる

それもそのはず、この学園の教師様が前線なぞに行くわけもない

ここの教師はもれなく全員”貴族”の血筋だ

家督を継げなかった貴族の次男坊や三男坊がここに配属される

実力も不十分、実績はいわずもがな、しかし、この世界では”権力”があるというだけで

それは”暴力”に匹敵する力になる

そのため彼らは、このちっぽけな学園で自尊心を満たし、給金で自由気ままに暮らす

まともに講義をしている教師なぞ半数もいない。

酒気を存分に漂わせながらこの場にいるこいつが何よりの実例だろう。

実にまぁ、大層なご身分だ


「…おい、ニザール、随分と不満そうな顔だな」

そして例にもれず、力を持つ者は、持たざる者を甚振るのが一番の趣味だ

一方的に投げる石ほど心地よいものは無いだろう


「なりそこないの忌子風情が。筋力もない、魔力もない、貴様のようなドブネズミが生きていられるのもこの士官学校制度あってのことだ。…だというのに、教師に向けてその態度は何だ。実に不愉快だ!!」

「いいだろう、貴様は今日もオレが直々に稽古をつけてやろう。他のものは走り込みだ!!体力に勝るものは無いからな!いけ!」


カゲツも苦々しそうな顔をしてその場を離れる

この世界で”力”に逆らうことほど愚かなことは無い。

力なき正論に意味はなく、それはこの世界で生まれたものなら誰でも知っている常識だ


「ふん、今日はいつも以上にお前に力の素晴らしさを教え込んでやろう。

 貴様は武器を持つことを禁じる!その身で力の何たるかを感じるのだ!」

つまるところ、これは稽古とは名ばかりの、これはただの鬱憤晴らしのリンチだ

さんざっぱら教師の気が済むまでサンドバックにされる


これが、この世界の負け組の末路だ

力なきものは、力ある者に淘汰される

シンプルでクソッタレな、神様の敷いた、ルールだ


—--------------------------------


日が暮れるまでサンドバックにされた後、傷だらけになった身体を引きずって自室へ戻る

始めの頃は身体を動かすこともままならなかったわけだが、

最近では通常の時と変わらない精度で身体を動かせるようになっている

耐久力という概念があるのなら、なるほど、あの講義も無駄ではないというわけだ


部屋の前まで行くと、包帯や食堂からくすねてきたのであろう食事や葡萄酒達、そして読みかけで図書室に返却していた本が部屋の前に積まれている

…全く、物好きっていうのは、どこにでもいるらしい

こういう馬鹿がいるから、まだこの世界に絶望しないで済むのだから、それだけは本当に恵まれているのだろうと、常々思う。


部屋に入って応急処置を済ませると、部屋の外から鍵がかかる音がする

見回りの教師が学生たちの部屋の鍵を落とすと、消灯時間の合図だ


ここからの時間が、僕の一番好きな時間だ

教師の気配が消えたことを確認して、窓の鍵を開ける

そして、本とワインを片手に壁の窪みを伝って屋上に上がる

今日は満月だ。この赤目のおかげで新月の晩でも本を読むには困らないが、月を肴に飲む葡萄酒は一段と味が染みる気がしてとても好きだ

敵だらけのこの世界で、この夜の闇と月だけは自分の味方であるように思う


慣れた足取りで屋根の上を伝うと、この学園で最も高い、時計塔の上へ向かう

そこが、僕だけの特等席だ

さて、どこまで読んだのだったかと本のページを片手で触りながら屋上へ辿り着く

…刹那、反射的に本を手放し()()()()へ手をかける

誰もいないはずのそこに、誰かがいた


…自分が、一切の気配を感じられなかった。

底にいたのは、黒いローブに身を包んだ、銀髪の女だった

ゆっくりと、その瞳がこちらに向けられる

驚きで見開かれた目は、あぁ、なんということだ

月の光を映し、妖しく赤く煌めいていた


—--------------------------------


顔立ちからみるに、自分と近い年代だろうか

幼さを残したその顔は月光の下でも分かるくらいに透き通るような白色をしていた

()()だ。どこから現れた。

この学園で、忌子は自分だけ。それは間違いない事実なのだ


出方を伺った刹那、女はフードを被りなおすと反対側へ飛び降りた

急いでその方向へ駆け寄り下を見るが、その姿は闇に溶けたように消えていた

一つ息を吐いて振り返ると、キラリと光る何かが落ちていた

それは満月と十字架を模した銀のネックレスだった


呪いの魔力が込められた品の可能性もある

今思えば、酷くに不用心だったが、流れるような動作でそれに自分の首を通した

不思議と、身体によく馴染む。意匠も自分好みだ。

本を拾うとそれきり、思考の海へ沈んでいった

月だけが、この秘密の邂逅をひっそりと眺めていた


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