魔の森2
そんな思考の海に浸りながら歩を進めると
想定通り夜の内に森の外周へ辿り着くことができた
森の中は鬱蒼と木々が生い茂り、月の光も十分に届かない
この感じだと、昼間でも十分な明るさは確保できないだろう。
当てがあるわけではもちろんないが、何とはなしに森の中央部に向かって歩を進める
森の奥に入るにつれ、木々の密度は濃くなり、より光が届かなくなる
そして、なるほど、確かに、これは
この森に入った時から感じた不可思議な感覚。
まるで薄いベールを潜ったかのような、そんな感触
その感覚がよりはっきりと肌に伝ってくる
なるほど、これは、確かに不気味だ。
しかし、不思議と悪い気はしない。むしろ、心地よくすらある
森の中央に近づくほど、ベールは厚く、重くなるように感じる
比喩ではなく、本当に何かを通り抜けているような気すらする
ほどなくして、耳を澄ませば水の流れるような音がする
どうやら、当初の予想もビンゴのようだ
どこかに、水源がある。
そして森の木々も見慣れないものが多いが何かしらの果実を宿しているものも少なくない
しばらくはここで身を隠すことができそうだ
水音を辿ると、次第に木々の背が高くなる
そうして間もなく、まるで木の天蓋に覆われたような開けた空間に出る
巨大な木を中央の小島に携えた、それは小さな湖だった
森の中に、こんな場所があるとは。
天蓋の一部が開き、一筋の月光が小島の大木に向けて差し込んでいる
現実離れした幻想的な光景に、ともすればここが現実ではないような錯覚に襲われる
少しの間、その光景に見惚れた後、水筒に水分を補充し喉の渇きを潤す
それと同時に、ドッと倦怠感に襲われる。
気を失っていた時間はあるとはいえ、学園の行進から激しい戦闘を経て夜通し歩きの強行軍だ。身体的にも、精神的にも疲労は溜まっていたのだろう。
幸い、周囲に獣の気配はない。
それに、この湖畔はなぜだかとても心地がいい。
木の幹に背を預けると、襲ってきた睡魔に身を任せた。
ふと、何かの気配を感じて目を覚ます
森の中は僅かな木漏れ日が差し込み、少し明るさを取り戻している
パシャリと、水音が聞こえる。反射の様に音のする方へ目をむけると
そこには、あの女が静かに佇んでいた
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「…貴方も、導かれたのね」
流れるような銀髪を揺らしながら、深紅の瞳で射貫くようにこちらを見つめる
凛としたその姿は、まるで
「…どういう意味だ?」
「深紅の瞳、月光の肌、それが、印」
母が詠った子守歌、遥か昔の幼い記憶
「印?」
「恩寵の証。月の魔力をその身にうけた、眷属の証」
この世界が始まる前の御伽噺
「…何の話だ。恩寵?眷属?」
「そう。永き時の中で名を失った、月の女神」
光の化身たる”太陽の神”と戦った、宵闇の化身たる”月の女神”
「月の…女神…」
「暗夜の守護者 安寧の揺り籠」
永き時の中で口伝に名を残すのみとなったその名は
「「女神、マーリク」」
かつて世界を作ったもう一人の神
今となっては、知ること自体が禁忌とされた、闇の女神




