初陣3
「直撃!!直撃です!!!仕留めました!!」
その報告を聞いた時、心底安堵したことを覚えている
始めは、何かの間違いだと思った。
相手は弱小国の寄せ集め軍。碌な錬度の兵士も居なければ魔術師もいない
数でもこちらが優位を取っている。
そして何より戦闘が起こるわけがないと思い込んでいる相手への奇襲だ
心理的な優位性までこちらにある
損害を出せという方が無理な話だ
しかし、そんな予想を裏切り、1つの報告が伝令よりもたらされた
前線の一角が食い破られそうだと
慌てて天幕から飛び出し遠眼鏡で眼下の戦場を見渡す
しかし、どこを見てもこちらの友軍が優勢であり、もはや敵の本陣に手がかかりそうだった
「左翼です!左翼中央を御覧ください!」
悲鳴にも似た伝令の声を頼りに目をむけると、1ヶ所だけおかしな軌跡があった
1本だけ、細い線が戦陣の中に伸びている。
本物の戦争では稀に見る光景だ
一騎当千の兵が、自分の前の兵士だけを蹂躙している
これが意味しているのは、そういうことだ。
急ぎ伝令を回し、黒鉄騎兵隊の一部と魔道部隊を向かわせる
間もなく、その線は前線を食い破り、友軍の背後を抜けた
しかし、同時に騎兵隊の先鋒が間に合った。これで一安心だと胸を撫でおろしたのも束の間
その化け物は、一瞬で二騎の騎兵を葬り去った。
これは、尋常ではない。
距離があって詳細は分からないが、寸分違わず馬を射り、将を殺して見せた
嫌な汗が背中を伝った刹那、魔道部隊から大魔法の承認を願う通信が入る
自軍の兵にも被害が出る位置だが、迷うことなく承認を伝え、
大魔法が化け物のいる広場を覆いつくした
そして、先ほどの観測兵からの報告。全身の力が抜けるような思いがした。
損害は、100名に迫るだろう。
たった1人で、それもこの短時間で、100人の人間を、こうも効率的に殺して見せた
…このタイミングで、始末できてよかった。
万が一、この戦場を生き延びてしまったら、
あれは間違いなく、想像もできない災厄となっていただろう
しかし、もう終わった。怪物は、生まれる前に戦場の塵となったのだ
まもなく、この戦も終わる。
帝国の大陸統一に向けた一歩としては後味の悪い結果となったが、
大局で見れば些細なことだろうとも
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目を開けた時、僕は見知らぬ場所に立っていた
星の無い藍色の夜空、白銀の満月
足元を見れば水鏡のような水面が自分の姿を写していた
直感的に、これは現実ではないと感じる。
確か、意識が途切れる直前に不可避の死が目の前にあった
ということは、ここは死後の世界とやらだろうか。
それなりに人を殺しはしたけれど、あの状況、あの境遇では致し方ないと見逃してくれたのだろうか?
天国かどうかは分からないけれど、少なくともイメージしていた地獄とは違う
静かで、幻想的で、…それをいうなら、先ほどの現世の方がよほど地獄だ。
そんな他愛のないことを思考しながら、何かに誘われるように足を前に進める
歩けど、歩けど景色は変わらない
水平線の果てまで夜空は続き、足元の水鏡は月光を反射して淡く光を放つ
代わり映えの無い風景だが、不思議と不快な気持ちはしなかった
どれほど歩いたか、ふと気づくと、目の前に人影が現れた
こちらに背を向け、月を眺める誰かの影
あぁ、自分は、その流れるような銀髪を知っている
不意に振り向いた女の眼は、赤い燐光を宿していた
女は距離を詰めると、何事かを呟いた
「—---------------------------------------------------」
その言葉を聞き取ることはできず、代わりに首から下げた銀のネックレスが
チャリンと静かに音を立てた
それを合図にしたかのように、再び意識は暗転していった




