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第3話

 目が覚める。

 

 身体にかけられた薄手の布団と、背中に伝わる柔らかい感触から、自分がベッドの上に置かれている事が分かった。

 あの時の頭痛は綺麗さっぱり消えていて、むしろ頭の中がスッキリした感覚さえあった。起き上がって周囲を見回すと、ここが病室でない事に気付く。

 

 ベッドは部屋の奥隅に配置されており、部屋の中央にはローテーブルと一人掛けの革張りの椅子が4つ並べられていた。まるで応接室のようなレイアウトの中に、ベッドが鎮座しているのは何とも奇妙な光景だった。


 おずおずとベッドから抜け出して、革張りの椅子の方へと向かう。机の上には何も置かれておらず、一先ず椅子に座る事にした。

 やはりこの部屋にも、見栄えを良くするための調度品は無く、ベッドと椅子とテーブルが置かれているだけだった。白塗りの壁と、部屋から出るためのドアが目に入るが、勝手に出ていくのがマズイ事はさすがに分かる。どうしたものかと途方に暮れていると、壁に時計が掛けられている事に気が付いた。


「10時⁉」


 壁に掛けられた時計の針が時間の経過を教えてくれた。昼の2時頃に龍介の会社に着いたはずだった。そこから長時間歩いていたにしても、7時間以上倒れていた計算だ。

 頭痛に倒れたせいで、利香と龍介の間を取り持つという、ここ最近で一番重要な仕事を果たす事が出来なかったのだ。愕然とするが、同時に違和感に気付く。


 喉が渇いていない


 それどころか、腹すら減っていなかった。それなりに身体を動かした上に、7時間以上飲食していないのにこの状況は有り得るのだろうか?

 他に何か情報が無いか確認すると、自分が持っていた携帯の存在を思い出した。幸いなことに、携帯はジャケットの内ポケットに入ったままだった。

 真っ先に画面を確認すると、携帯の時刻は”16:17”を示していた。携帯が指し示す時刻の方が、自分の感覚に近かった。


 壁の時計と携帯の時計が指し示している時間が違っている。

 とりあえず龍介に電話をしてみようと思うが、どうやら圏外のようで今すぐ連絡を取る事は叶わなかった。後は、扉を通ってこの部屋から出ていくしか選択肢が無いわけだが、時計の不一致が気になった。


 わざわざ壁に時計をかけている訳だから、でたらめな時刻を指し示しているとは思えなかったが、自分の直感では携帯の指している時刻が正しい気がした。

 壊れた物が掛けられたままになっているのかとも考えたが、部屋に置かれている最小限の備品が綺麗な状態に保たれている事からその可能性も低そうだ。

 

 しかし、そうした疑問をかなぐり捨てて部屋から出てしまえば何もかも解決する予感もあった。

 ただ、現状に対する仮説を立てずに行動するのもどこか癪だった。


「もしかして違う国にワープしてるのかもな」


 利香と一緒に観た朝方のTVを思い出した。

 理屈は分からないが”空間転送”とやらで違う国に転送されたと考えてみる。龍介は"空間転送"を生業とする会社で働いていて、彼が見せたいと言っていたのは、その超科学だったという仮説だ。壁に掛けられた時計は現地時間(転送先の国の時間)を示していて、自分の持っている携帯が日本の時刻を示しているのだ。

 違う国にいるとすれば、提携している通信会社から電波を受け取る事が出来ないため、圏外表示になる事も頷ける。

 つまり、自分は日本以外の国にいて、この国での時刻は10時か22時という事になる。しかし、針式の時計なので、午前なのか午後なのかの区別を付ける事は出来なさそうだ。それに、今いる国を特定する事も厳しい。


「他にヒントになりそうなものは……」


 謎解きゲームさながらに部屋の中を物色してみるが、無駄なものが排除されたこの部屋の中から新しい情報を得るのは難しかった。

 めぼしいものは見つからず、椅子に座り直して時計を見つめる。


「電池が入ってるかも」


 椅子を壁に寄せて、時計を外す。画鋲で吊るすタイプで、画鋲には文字がかかれておらず、時計の裏側にも文字は書かれていなかった。

 しかし、時計の裏側の蓋を外して出てきた電池には使用上の注意書きのようなものが書かれていた。……英語で。


「英語かよ……」


 よりにもよって話者が一番多い言語だとは思っていなかった。ただ、知らない言語が出てきたらそれはそれで困っていただろうなとも思う。


 ついに万策尽きて、扉を開けてしまおうか迷った。

 もしかしたら、部屋の時計はただのでたらめで、電波が繋がらないのも地下にいるせい、という可能性もある。龍介は俺の行動を隠しカメラか何かで見ていて、今頃、扉の向こうで俺の痴態を肴に酒を飲んでいるかもしれない。


 かもしれないが、そうであれば今回は自分の負けを認めるしかない。


「利香がインタビューしに行った会社で龍介が働いてるってのも偶然にしたら出来すぎだしな」


 そう呟いて扉を開ける。

 

 果たして、その部屋には龍介がいた。

 先ほどまでの殺風景な部屋とは違い、豪華絢爛という言葉の似合う内装だった。先ほどまでの白を基調とした部屋とは対照的に、床と壁には黒い大理石が使用されていた。この部屋には標準的な高さのテーブルと椅子が置いてあり、それも黒色だった。

 天井は高く、照明は長い紐に吊るされていて、陽光を思わせるオレンジ色の光を発していた。光は大理石の床や壁で反射しており、部屋の中は明るかった。

 壁の一面はガラス張りになっており、そこから外の風景を見れるようになっている。


「……夜なのか」


 ガラス越しに夜空と星明かりが見えた。辺境の地に建てられているのか、自分の住んでいる街では見る事の出来ない無数の星々を見る事が出来た。

 先ほどの白い部屋で立てた仮説が実証されそうで冷や汗が流れるのを感じた。


 扉を開けたまま突っ立っているのを見かねたのか、椅子に座っている龍介が声を掛けてくる。


「色々気になるだろうけど、ひとまずこっちに来てよ」

「あー、……そうだな」


 歩き慣れない大理石の上を歩く。見るからに高級そうな床を汚れた靴で踏み荒らさないように、気持ち大股で歩いた。

 龍介の対面の椅子をひく時も触り慣れない質感に驚き、指でつまむようにして引いた。指の皮脂がしっかりと椅子に残ってしまい、申し訳なさを感じながら椅子に座った。


 そんな様子を見て、龍介は苦笑している。

 

「健太は客人なんだから、何も気にしなくて良いのに」

「とは言っても……」

「あの部屋では凄い好き勝手してたのに?」


 やはり龍介はさっきの部屋を監視していたようだった。自分の痴態が見られていた事に恥ずかしさを感じるが、それを差し置いても、現状の説明が欲しかった。


「……それは置といて……、ここはどこだ?」


 その質問が欲しかったのか、龍介は満足そうな顔を見せた。


「アメリカだよ」

「……アメリカ?」

「詳細な場所は何も言えないけどね、さっきの仮説がほとんど答えかな」


 さっきの仮説……。どこかの国にワープした、という事か?


「すまん、やっぱり全部説明してくれ。もしかしたら誤解してるかもしれない」

「うん、いいよ。その為に呼んだわけだしね」


 龍介は本当に詳細に教えてくれた。


 どうやら、人間サイズの物質をワープさせる技術は既に確立されているらしかった。マスメディアはおろか、株主たちにもその事実は伏せられており、世間に対しては、極小さい物質の転送が成功しているという体で事業を進めているという。

 本当の技術レベルを知っているのは限られた高官と主幹研究者だけで、一般従業員には伏せられている。


「そんな事、俺に話していいのかよ」

「ま、最後まで話を聞いてよ」


 人間をワープさせるための装置は非常に巨大で不安定なため、装置を設置できる場所に制限があるようだ。日本側の装置が駅前の一等地を占有しているのはそれが理由らしい。地下に向かって地面が下り坂になっていたのも、限られた空間の中で必要な直線距離を確保するための苦渋の策だという。もちろん、長大な通路は、地上部分に見えている敷地分で収まらないため、他の建物の基礎やパイプラインを器用に避けて作られているようだ。


 地下にあったコンクリートの通路は転送門のような役割を果たしており、非常に複雑な機構を介して”空間転送”を実現していると龍介は説明してくれた。仕組みの話も丁寧に説明してくれたが、自分の脳みそでは上手く咀嚼する事が出来なかった。ひとまず、あの長い通路が転送門だという事で理解した。


 通路を歩いている時に感じた猛烈な頭痛は、転送酔いと呼ばれているらしい。転送を初めて経験する者達に必ず現れる症状で、ある種の通過儀礼になっているようだった。最新鋭の技術をふんだんに投入しても、頭痛が発生するプロセスは分かっておらず、転送の前後で身体が変容する事も無く、後遺症が残る事例も無いという。

 俺が通路で倒れた後は、アメリカ側に設置されていた救助設備を龍介が使って俺の事を回収してくれたらしい。

 その後は”試しの間”と呼んでいる、白い謎解き部屋に被験者を収容して混乱している様を見るのが習わしとか、なかなかに悪趣味だが。


 ここまで説明を聞いて、龍介の役職が高い可能性に気付いた。計画の詳細を知っていて、技術の核心部分も知っているように説明していたからだ。龍介は全体を知っている限られた人物なのだ。


「と、こんな感じなんだけど……理解はしきれてないよね」

「いやまぁ技術的な話は何となく分かったけど……、何で俺に話すんだ?」


 俺の反応に龍介は嬉しそうに口角を持ち上げた。

 龍介の反応に、嫌な予感がして椅子から立ち上がろうとするが、そんな俺の両肩を強く掴んでくる輩がいた。


「ちょっ、痛っ」


 掴む力が想像より強く、肩を掴む指が鎖骨に突き刺さる。

 椅子から立ち上がる事は叶わず、机に突っ伏す形で押さえつけられる。拘束している手を振り払おうとするが、二人がかりで押さえつけられているようで、圧倒的な力にねじ伏せられて、小さくもがく事しか出来なかった。押さえつける力が弱まる事は無く、この状態から逃げ出す方法が無い事を悟る。

 顔だけでも拝んでやろうと、身体をくねらせてみるが、自分の肩を掴んでいる嘘みたいに大きな手しか見ることは出来なかった。


「龍介、どうなってんだ!」


 正面に座っているはずの龍介の顔を見る事も出来ずに、突っ伏したまま尋ねる。大きな声を出したのはせめてもの虚勢だった。


「……健太、本当にすまないと思っている」

「答えになってないぞ」

「最初に奪ったのはお前じゃないか!!」


 なんの話だ?

 龍介の声は震えていて、腹の底から絞り出すような叫び声だった。怒鳴り慣れていないのか、所々で声が裏返っていた。


「何で利香とお前が結婚してるんだ!俺は好きでお前らの前から消えたわけじゃないのに!散々苦労して戻ってきたと思ったら……。裏切ったのはお前らじゃないか!」

「なんの話だよ!」

「健太の事も利香の事も信じてたのに!俺が戻って来る事を誰よりも信じていると思っていたのに!……なのに、どうして俺がいない事を当然の事のように暮らしてんだよ!!」


 龍介が俺らの前から姿を消したのは、龍介自身の意思では無かったのか?

 6年間も連絡をしなかったのは龍介の意思では無かったと?


「じゃあ何で連絡一つ寄越さなかったんだよ!」

「出来なかったんだよ!!」


 龍介の叫びと一緒に大きな音がして、思わず息が止まる。どうやら龍介が椅子をひっくり返したらしい。龍介の顔は見えないが、荒い呼吸音で非常に興奮しているのが分かった。


「分かったよ、その件については利香も交えて話さないか?ほら、そろそろ利香が合流できる時間だからさ」


 何とかこの状況を潜り抜ける必要があった。龍介は興奮しているし、後ろの怪力野郎の存在が、暴力という手段をちらつかせている様に感じて、正常に頭を動かすことが出来なかった。


「龍介、多分誤解してるんだ。この6年間の事をもっと話そう。龍介も大変だったかもしれないけど、俺らもそれなりに大変だったんだ。とりあえず、話し合おう」

「……もう、手遅れなんだ」

「何が手遅れなんだ?」

「俺が決めた事だ」

「だから、何の話だよ……」


 龍介が遠ざかる音がする。姿は見え無いが、大理石の上を歩く乾いた足音だけが聞こえる。足音が止まると、硬い物同士がこすれる音がする。また足音が部屋の中を歩き回ったかと思うと、ステンレス製のものがこすれる嫌な音が聞こえた。毎朝使っている調理器具の中に、そういう音を出す物がある事を思い出す。

 足音が真っすぐ向かってくる。龍介が持っている物に心当たりがあり、必死に逃げ出そうと身体を動かすが、肩を掴む手を振りほどく事は出来ない。それどころか抑える力は更に強まり、あまりの痛さに呼吸が詰まった。


「健太にはすまないと思っている。だけど許さなくて良い。俺の事を恨んでくれ」

「意味わかんねぇよ……。三人で飯食いにいくんじゃねぇのかよ」


 龍介の呼吸は更に荒くなっているように聞こえた。机に突っ伏されてから龍介の方を見る事が出来ず、どんな表情をしているのか確認する事が出来なかった。

 突然、龍介が英語で話し始めたかと思うと、怪力野郎が後ろ手に組まされていた右手を机の上に無理やり移動させる。龍介が持っているものに心当たりがあったので必死に握りこぶしを作るが、手首のある部分を強く握られると、自然と指が開いてしまう。


「おい!やめさせろよ!なんかの冗談だろ!」


 固定された視界の中に龍介の手が映る。龍介の手には包丁が握られていた。パニックになる頭の中で、任侠映画のワンシーンが再生される。

 へまをした部下にケジメを付けさせるとかなんかで、兄貴分の主人公が泣く泣くエンコ詰めするシーンだ。震える手でドスを構えて、スパッと小指を切るわけだが、切った断面から心臓の鼓動に合わせて血がぴゅっ、ぴゅっと出てくるのだ。あまりにも生々しい描写に、少し気分が悪くなったのを思い出した。


 目の前で、龍介の持つ包丁が右手に振り下ろされる。全力で振り下ろすわけではなく、少しの助走と自由落下に任せた力の入っていない切込みだった。

 小指と薬指、中指が包丁の奥に消える。現実味の無い映像に視界が狭まっていく。龍介が包丁を持ちあげると同時に、自分の指の状態を確認する。


 薬指は第二関節で完全に切り落とされ、小指は薄皮一枚で繋がっていた。中指は爪の生え際の所に切れ込みが入っていてぶらぶらとしていた。

 その惨状を目の当たりにした瞬間に痛みがこみあげてくる。目で見た瞬間に、目で見た通りの痛みの感覚が襲ってくる。包丁を持ち上げるまでは右手が熱いという感覚だけだったのに、視覚情報が入った瞬間に中指から小指にかけての猛烈な痛みが襲ってくる。


 自分の口から出たとは思えない、獣の咆哮に近い声が出てくる。


「こんな、こんな事して、どうするつもりだぁー!」

「……本当にすまない」


 龍介は淡々と言うと、手のひらに包丁の切先をぶっ刺した。今度は全力で振り下ろしたようで、机が少し浮く感覚があった。次に、神経をいじくられているような感覚が走り、熱くなり、猛烈に痛んだ。


「う、うおぉぉーーっ!」


 痛みに耐えるために叫ぶ。龍介は包丁を引き抜くと、再び刺した。そして引き抜いて、刺し続ける。右手が赤黒いグロテスクな塊に変わったところで龍介の手が止まる。


 自分の目の前で右手のたたきを作る様を見せつけられて意識が飛びそうになるが、顔に水をぶっかけられて強制的に覚醒させられる。なぜこんな事をするのかという事は考えられず、ただ痛みとそれに耐えるために何をすれば良いかという考えが頭の中を支配していた。


 龍介はぶつぶつ喋りながら、左手の方に移動したようだった。同時に、左手も机の上に置かれる。顔を向ける事は出来ず、左手にも凄惨な結末が待っている事を知って、どうしようもなく涙が流れた。


「お願いだから、やめてくれ……」


 龍介は左手を痛め尽くした。今度は、視覚情報が無くても左手に痛みを再現する事が出来た。恐らく右手と同じ状態にしたところで龍介の手が止まる。


「……すまない」


 龍介がつぶやくと、肩を掴んでいた手が跳ね上がり、龍介と正対する姿勢になった。手首を押さえていた拘束は解けていたため、自分の両手の惨状をよく確認する事が出来た。

 自分の両手が使えなくなってしまった事実に、嗚咽が止まらなかった。このころには痛みに鈍感になって、悲しみを存分に感じる事が出来た。

 ひとしきり悲しんだ後で、龍介を睨みつける。龍介の手には銃が握られていた。一思いに殺すための道具なのだろうか。


「どうせ殺すなら、理由を聞かせてくれよ」


 龍介は銃口をこちらに向けた。

 俺の顔と、銃口と、龍介の顔が一直線に並ぶ。銃に隠れて龍介の顔が見えなくなっていたが、どことなく悲しい顔をしている気がした。


「……三つ、覚えておいて欲しい事がある」

「え?」

「一つ、失う事は非常に悲しい事である。両手が失われた事で大きく感情を揺さぶられただろう」


 こいつは何を言ってるんだ?


「一つ、死ぬ事は何よりも怖い事である。銃で撃たれて、意識が消え去るまでの間に存分に味わう事だろう」


 龍介は壊れてしまったのだと思った。この6年で何があったのか分からないが、その出来事が彼を大きく変えてしまったのだ。思いやりとユーモアにあふれていた彼はいなくなり、俺の知らない龍介が生まれてしまったのだ。


「一つ、……利香は俺のものだ」


 龍介がそう言うと同時に、銃を持つ手に力が入っていくのが見えた。嫌にゆっくりと引き金を絞るタイプなんだなと思っていたが、どうやら死の間際で脳が活性化して、周囲がスローモーションに見えているようだった。


 結局、龍介はどこまで行っても利香の事が忘れられなかったのだ。何よりも大事に思っていた人が、他の人に奪われているのを見て、激情が抑えきれなくなってしまったのだ。


 今となっては、龍介の話がどこまで本当なのか分からない。

 ここはアメリカじゃないし、単純に長い時間気絶していただけで、転送酔いなんてものも無くて、どこかのタイミングで睡眠薬みたいなものを飲まされていただけかもしれない。

 龍介の事を知ろうとしなかったせいで、今の彼がどんな人間なのかサッパリ分からなかった。


 龍介の手にある銃が激しく燃える。

 銃口から飛び出た弾丸は、スローモーションの世界にしては早いスピードで飛んでくる。本当に回転しながら飛んでくるのだと感心しているうちに、頭蓋骨を打ち砕いたのが分かる。同時に、意識が暗転していく。

 頭の中をぐちゃぐちゃにかき回して、弾丸は頭蓋骨の中から出ていく。


 ゆっくり世界が閉じていく。

 考えたかった事が考えられなくなり、上手く思考できない感覚だけを感じる。


 寒い。寒い。死ぬのは寒い。

 寒いんじゃなくて、……怖いのか。


 そうして俺の意識はそこで途絶えた。

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