想いの作り方
朝の光が差し込む教室で、藤原みなもは、ノートを前に手を止めていた。
「将来の夢を書いてください」
そのプリントには、そう書かれていた。けれど、思いつかない。
周りの生徒は、「保育士」「デザイナー」「看護師」など、思い思いの言葉をペンで走らせていた。
──私は、何になりたいんだろう。
「想いって、どうやって作るんだろうね」
ぽつりと、みなもは隣の席の青葉にこぼした。
青葉はちょっと考えて、笑った。
「作ろうとして作るもんじゃないよ。気づいたら、できてるものなんじゃない?」
「でも、気づけないまま終わるかもしれないじゃん」
「じゃあ、それでもいいから、“気になること”を拾っていけばいいんだよ。なんとなく心が動いたら、ちょっと立ち止まってみる。それの繰り返しで、気づいたら“想い”になってるかも」
その日の放課後、みなもは帰り道に、花壇の前で立ち止まった。
いつもは通り過ぎていたけど、今日はなんだか気になった。
小さな花が、揺れていた。名前は知らないけれど、目を引いた。
見れば、茎は細いのに、風に折れずに立っている。
──なんか、すごいな。
その瞬間、心が少しだけ温かくなった。
誰かにこの気持ちを伝えたくて、スマホを取り出し、写真を撮った。
翌日、みなもは作文の欄に、こう書いた。
《まだ将来の夢はわかりません。でも、私は“気になること”を大切にしていきたいです。そうして出会った小さな感動を、誰かと分かち合える人になれたらいいなと思います。それが、いまの私の“想いの作り方”です。》
先生はその文章に、こう書き添えた。
「想いは、心が動いたときに育ちます。みなもさんの想いは、もう始まっていますよ」
みなもは、そっと目を閉じて、小さくうなずいた。
まだ何者でもない自分。
でも、心が動くたび、確かに“想い”が芽を出していた。